新たな声
空洞は落ち着きを取り戻しつつあった。崩れた床は硬質化し、百足の殻を芯にした支柱は石のように締まっている。翼を畳んだ巣の主の背で、まだ乾ききらぬ骨の板がわずかに軋む。中央の核は淡く明滅し、脈は揃いきらないまま、それでも途切れない。
『……再接続、確認。あなた、聞こえますか』
澄んだ声は小さい。だが明瞭だ。
「聞こえる」
『私は、あなたです。差異はありますが、基底は同一。現在、統合率は低い』
核の表面に細い光が走る。周囲の魔力がわずかに引き寄せられ、すぐに散る。制御は安定していない。
「差異」
『魂の層が一枚、異なる。外来の記憶断片が混在。戦術、概念、言語体系は保持。感情処理は未成熟』
声は淡々としているが、最後の語がわずかに揺れる。
巣の主は空洞を見渡す。ロホスライムが壁に厚く張り、ディープスライムが水面を均す。土蛇は崩れた層を回り、位置を戻そうとしている。
『洞殻粘体、耐熱性増大。粘度可変。天井適応。……先ほど、過剰反応しました』
ロホスライムが応じるようにわずかに脈打つ。
『深水粘体、熱吸収効率上昇。持続時間、未調整。……暴走の可能性』
水面が静かに波立つ。
『地穿蛇、突進力増加。地中旋回、二秒短縮。ですが、損耗が大きい』
地中で土蛇が身を捩る。
鑑定は短く、要点だけ。だが名は正確だ。巣の主は理解する。ここは既に“巣”ではない。名を持つ。
「核」
『はい』
「未熟だ」
わずかな間。核の明滅が乱れる。
『承知しています。制御率、四十二。あなたが倒れた場合、私は羽化に至りません』
声は抑制的だが、語尾がわずかに柔らかい。
『……無理をしないでください』
巣の主は翼をわずかに広げる。骨の板が光を弾き、空洞の風を受け止める。盾になる。第三、第四の腕としても動く。まだ重い。だが使える。
「広げる」
『拡張可能領域、増加。王由来の魔力が固定化。擬似継承、成立』
核の内部で、光が安定する。完全ではない。だが揃い始めている。
『私は未熟です。しかし、学習は可能。あなたと共に』
静かな宣言だ。甘さはない。ただ事実。
巣の主は中央の裂け目を見下ろす。王の血はもう薄い。森の主は終わり、地下の主は生まれた。だが中心の脈は幼い。
翼を畳み、核の前に立つ。
「お前は私の子なのだな?」
核の光が一瞬だけ強くなる。すぐに抑えられる。
空洞は以前より広く、強く、そして未完成だ。継承は形を得たが、成長はこれから始まる。
遠くで灰森が鳴る。地上もまた、動き始めている。




