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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
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残された者達

瓦礫と棘に覆われた戦場から離れた場所に、臨時の治療拠点が設けられていた。


そこでは魔法陣が幾重にも展開され、焼け焦げた肉体や砕けた骨を繋ぎ止めるように治療が続けられている中、血と薬品の匂いが混ざり合いながら静かに漂っている。


その場に、重い足音が響く。


皇帝バハムート八世が姿を現す。


全身はまだ血に濡れ、完全に治療されたわけではないが、それでも歩みは止まらない。


その姿に気づいた兵士達が、反射的に体を起こそうとする。


「動くな」


低く、しかし強く制する。


「今は治療を優先しろ」


それだけ言い、皇帝は歩を進める。


一人一人の前を通る。


視線を落とし、状態を確認し、そして何も言わずに次へ進む。


その沈黙の中で、ある声が上がる。


「……陛下」


それは帝国の兵ではなかった。


装備も紋章も異なる。


他国の兵。


今回の侵攻で置き去りにされた者達。


「我らは……見捨てられました」


その言葉に、周囲の空気がわずかに張り詰める。


だが皇帝は止まらない。


歩みを止めず、ただ聞く。


「祖国は……撤退を優先しました」


歯を食いしばる。


「だが、陛下は……」


言葉が震える。


「我らを救ってくれた。」


そこで初めて、皇帝は足を止める。


視線を向ける。


その兵は、満身創痍だった。


だが。


目だけは死んでいない。


「……勘違いするな」


皇帝は静かに言う。


「拾えた命は、ごくわずか」


事実だけを告げる。


「ほとんどは、救えなかった」


その言葉に、場が沈む。


だが。


「それでも」


兵は、続ける。


「我らは見た」


握りしめる。


「陛下が、最後まで戦場に残ったことを」


周囲の兵も、顔を上げる。


「自ら残ったことを」


「……だから」


ゆっくりと頭を下げる。


「我らは、あなたに従うことをお許しください。」


それは懇願ではない。


宣言だった。


その言葉を聞き。


皇帝は、わずかに目を細める。


何も言わない。


だが。


「……好きにしろ」


それだけ返す。


突き放すようでいて。


拒絶ではない。


その意味を、彼らは理解する。


「はっ!」


声が揃う。


その動きは、明らかに訓練されたものだった。


国は違えど。


彼らは前線に立っていた者達。


生き残った理由は、運だけではない。


「……強いな」


皇帝が小さく呟く。


そして。


再び歩き出す。


その背中を見送りながら、誰もが理解する。


この男こそ。


人類の希望を背負う王であると。




帝国、上層部。


各国からの報告が集まる。


二度の侵攻。


結果は。


壊滅。


「……再侵攻は不可能だな」


誰かが言う。


否定は出ない。


「損失が大きすぎる」


「情報も不足している」


「戦力が整うまで……」


結論は一つだった。


動けない。


各国は完全に足を止める。


灰森への侵攻は、ここで一度止まることになる。


その頃。


別の場所。


瓦礫に覆われたダンジョンの出口で、一人の青年がゆっくりと外へ踏み出す。


空気が変わる。


重圧が消える。


「……やっと出れたか」


勇者。


その体は傷だらけだった。


未のダンジョン。


十二災冠の一柱。


そこからの脱出。


それだけで異常なことだった。


「……今回は長かったな」


空を見上げる。


だが。


その表情には、後悔と自らの不甲斐なさへの憤怒が浮かんでいる。


「遅れて申し訳ない。こんなところで謝っても意味など無いが...」


視線が、遠くへ向く。


まずは帝都。


そこに向かう。


その瞬間。


わずかに、空気が歪む。


「……来るか」


振り返る。


気配。


消えない。


離れない。


未。


「……しつこいな」


吐き捨てる。


だが、その目には焦りが混じる。


完全には振り切れていない。


その結果。


勇者の到着は。


さらに遅れる。


それはまだ、誰も知らない。


さらに遠く。


世界の別の領域。


大地が裂ける。


空が歪む。


山が崩れる。


その中心で。


二つの存在がぶつかり続けている。


寅。


申。


十二災冠同士の戦いは、まだ終わっていない。


その衝突は、周囲の全てを破壊しながら、絶え間なく続いている。


世界そのものを揺らしながら。


そして。


そのすべてを。


皇帝は、理解していた。


治療拠点を後にしながら、ゆっくりと空を見上げる。


敗北。


損失。


すべて理解している。


だが。


「……だからこそ」


呟く。


歩みは止まらない。


「止まってはならない。負けてはならない。」


その声は小さい。


しかし確かな覚悟が宿っていた。


そして。


その姿は。


もはや揺らがない。


皇帝として。


そこに立っていた。

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