灰森へ
「王が浅域で吠えたのは事実です」
領主館の執務室で、イグレインは静かに言った。
白髪混じりの長髪を束ね、細い指で地図をなぞる。
灰森の縁に小さな印がいくつも付いている。
「王は愚かではない。なぜだ、、、」
セルガルドは腕を組んだまま地図を睨む。
「森が変わった、と?」
「変わったか、揺れたか。大きな死か、あるいは……地下」
セルガルドの眉がわずかに動く。
「地下か。地核種か?」
「まだ断定はできません。だからこそ、見る目が必要です」
セルガルドは小さく息を吐く。
「エドリックなら逃げ時を知っている。アレンは……熱いが、伸びる」
イグレインの口元がわずかに緩む。
「若さは火です。制御できれば光になる」
「できなければ?」
「灰になるだけです」
セルガルドは短く笑った。
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灰森の入口をくぐると、空気が変わる。湿りと腐葉土の匂い。
遠くで灰角狼の遠吠えが途切れ、また始まる。
エドリックは立ち止まり、地面にしゃがみ込む。
「緑角鹿の数は確かに減ってるな」
アレンが周囲を見回す。
「王の足跡は?」
「浅い。まだ奥だ。だが……」
エドリックは指で地面を押す。わずかに沈む。
「まだ、湿っている。最近、掘られたのか?」
「ゴブリン?」
「いや、違う」
その瞬間、茂みが揺れた。
低い唸りと共に灰角狼が三匹、円を描くように現れる。
「来るぞ!」
エドリックが立ち上がる。
最初の一匹が飛びかかる。
エドリックは横へ半歩ずれ、短剣で喉を払う。
血が弧を描く。
二匹目がアレンへ。
アレンは剣を抜き、正面から受ける。
衝撃で腕が震えるが、踏みとどまる。
「下がれ!」
エドリックが叫ぶ。
「大丈夫です!」
アレンは狼の肩へ斬り込む。
浅い。
狼が唸り、再び噛みつく。
セインが後方から小さな火球を放つ。
火は狼の鼻先で弾け、驚いた一匹が後退する。
「焼くな、森が騒ぐ」
エドリックが低く言う。
三匹目が背後へ回ろうとするが、セインが足元に光を灯す。
眩しさに狼が一瞬止まる。
その隙にエドリックが踏み込み、首筋へ深く刃を入れる。
短い悲鳴が森に溶ける。
最後の一匹は退いた。
低く唸りながらも距離を取る。
エドリックは追わない。
「追うな。我々は森の客だと言っただろ」
アレンは息を荒げながら剣を拭う。
「まだ浅域なのに、ずいぶん荒れてますね」
「狼が飢えるのは、餌が減ってる証拠だ」
セインが静かに周囲を見る。
「……やっぱり、下がざわついてる」
エドリックが眉をひそめる。
「また地下か」
アレンが地面を見つめる。
「掘られてるって、さっき言いましたよね。何が?」
エドリックは答えない。
ただ森の奥を見る。
風がないのに、遠くの木が揺れた。
その奥で、重い足音が一度だけ響く。
三人は顔を見合わせる。
「王だ」
エドリックが小さく言う。
「近いぞ」
灰森が、静かに揺れた。
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