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およそ一年前:彼の苦悩と解決策と①

ひたすら鬱な話です。


一年の初めに、当時の生徒会長に、生徒会の会計を担当して欲しいと指名された。


この学園の生徒会は立候補者の中から生徒による投票で生徒会長を決め、そのあとのメンバーは生徒会長が直々に指名する。


その任期は一年。

大体は三年生、もしくは二年生から選ばれることが多い。


自分はエリートが所属すると言われているSクラスであり、しかも実家はそれなりに名門で通っているため、いつかはメンバーに選ばれると思っていた。

しかし、まさか、一年生のうちから、指名されるとは自分でも予想外だった。


親からは「箔が付くから在学中になんとしても生徒会に入りなさい」とは言われていた。この学園の生徒会に所属していたというだけで、それが一つのステータスになるのだ。


聞いた話ではAクラスの一年生二人が、生徒会入りの誘いを受けたものの、断ったらしい。せっかくのチャンスを不意にするなんて、馬鹿な真似をするものだ。

もちろん、自分は断るなんてことはせず、二つ返事で承諾した。



このときはまだ、生徒会の一員として学園をより良くするために努力しつつ、学友と切磋琢磨しながら勉学にも励み、自分が思い描いていた理想の学園生活を送れると、そう信じていた。



――そして、そんなものは幻想にすぎないと気付いたのは、生徒会入りして一か月ほど経った頃だった。





毎朝、早朝に校門前に立ち、生徒会メンバー全員で登校してきた生徒に挨拶をする。

この活動のために、生徒会の者は他の生徒より1時間以上早く登校する必要があった。

なぜ当番制にしないのか疑問ではあったが、一年の自分が口を出すことではないと思い、黙って従った。

さらに、昼休みや放課後の見回りという、必要性の感じられない行為についても、「これも業務の一つだ」と言われれば、素直に従うしかなかった。


自分が与えられた会計の仕事は、当初自分が考えていたものよりも膨大だった。会計担当は自分ともう一人、三年の先輩がいるのだが、とても二人で回す仕事量ではない。

収支計算ならまだしも、各種予算計画など、生徒の範疇を超えているような、それこそ職員がやるべきようなことまで、会計の担当として割り振られていた。


もちろん放課後だけでは捌ききれるはずもなく、昼休みにランチを取りながら会計の仕事をこなすのがいつの間にか常態化していた。

それでも終わらなければその他の短い休憩時間を返上して仕事をこなし、やっと完了したと思えばまた別のタスクが降って来る。

終わりが見えない仕事に、自分が学生だということを、何度も忘れそうになった。



通常時でこれで、学校行事など、大きなイベントがあるときはもっと最悪だった。


例えば、創立祭。

準備のため遅くまで残っているクラスがいると、生徒の安全のためにと、そのクラスの生徒全員が学園から出たことを確認してから帰宅せねばならなかった。最終下校時間は決まっているのだが、それを守らない生徒が、どのクラスにも一人はいる。そういった者たちに早く帰るよう注意を促すのだ。

これも、当番制ではなく、生徒会メンバー全員で、手分けして行う。それはわかるのだが、なぜか外回りまで生徒会が見回りをしていた。警備員もいるし、何なら当直の教員も同じことを行うのに、である。

外回りの見回り業務に必要性を感じないと物申せば、防犯のためだから、誰が何度やっても問題ないと説き伏せられる。

時間を取られる上に、非効率的で、自分はこの見回りの仕事が一番嫌いだった。これのせいで、クラスの出し物の準備は全く参加できなかったし、クラスメイトには嫌味も言われた。

当日ももちろんお祭りを楽しむ余裕なんてなく、一日中生徒会として駆け回り、生徒に困ったことがあればその都度対応をしていた。

これに加え、通常業務もこなさないといけない。このときの稼働時間はおそらく、そのへんの教師よりも多かったように思う。


また、各種イベントでは実行委員を生徒と生徒会の間に挟むのだが、実行委員がフィルタになることは、まず、なかった。結局、相当数の相談事を実行委員ではなく生徒会が処理せねばならず、イベントの度に、その対応に追われた。


ただ余計な管理の仕事が増えるだけ…意味をなさない実行委員など、置くだけ無駄である。運営体制そのものを見直したほうがいいと、生徒会のみんなに進言してみたのだが、『今までこれでやってきてるから』で済まされてしまった。


生徒会の仕事だけではなく、Sクラスのカリキュラムも、一年のはじめの内から容赦がなかった。

授業のレベルは高く、宿題は毎日山ほど出る。家に帰ってからは宿題、予習、復習で、自分の自由時間というものは皆無だった。


自分の上には兄が二人いるのだが、どちらも同じ学園出身で、自分と同じSクラス、生徒会役員のタスクをこなし、優秀な成績で卒業していった。


兄たちが学園に通っていた頃は、そんなに大変そうに見えなかったのだが、自分ときたら…うまくタスクをこなせず、毎日の睡眠時間は平均3時間となっていた。

ひどいときは2時間以下で、頭が回らないまま学園へと登校した。

眠い頭では何もかも効率が悪くなり、仕事もミスが増え、たびたび先輩に注意されるようになってしまった。


会計の仕事の他にも、生徒の悩み相談だとかの対応で時間を取られ、心身共にそろそろ限界が来ていた。



生徒会を辞めれたら、クラスを転籍できたら、学園を去ったら………人生を終えることができたら。

いまの状況から、抜け出せるのだろうか。


こんなことで命を断つなんて、馬鹿げてることはわかっている。

それでも、もし生まれ変われるなら…学校になんて通わなくてすむような生き物に生まれ変わりたい。


そんなくだらないことを真剣に考えるくらいにまで、精神状態が追い詰められていた。


家族に相談すると、兄たちは上手くやっていた、生徒会を辞めることは許さないと言われる。

じゃあ生徒会の仕事を減らして貰おうと、同じ会計の先輩や、生徒会長に仕事量の調整をお願いをしたこともある。


けれども、最初は配慮してくれるのだが、いつのまにか、元の仕事量に戻っている。


『さすがだね』

『やればできるじゃないか』


このときはこの手のセリフを聞く度、トイレに駆け込み嘔吐していた。



(やればできる。そんなことはわかってる。そうじゃない、もう限界なんだ。)



自分の能力が高いことはわかっている。だから、やろうと思えば、できてしまうのだ。何でもこなせてしまうからこそ、周囲もまだいける、と勘違いしてしまう。


それに、自分は表情に感情が出にくいらしく、傍から見たら、涼しい顔して大変そうに見えないという。


自分と同じSクラスで、同じ時期に生徒会入りした二人に悩みを打ち明けたことがある。だが、二人とも『きちんと全部こなしてるくせに何言ってんだ。』そう言って自分の方が苦労している、大変だ、という謎のマウントを取り始める。そして、『僕たちは名誉ある生徒会の一員に選ばれたんだ。他の生徒の倍は頑張って当然だ。』と、締めくくられてしまった。


誰も自分に寄り添ってくれるような者はいなかった。


(人の共感が得られないなら、少しの時間でいい、一人になって、何も考えない時間を作りたい。)


そうして校内の見回りといいつつ、静かな場所を探して色んな場所をうろうろした。その結果、旧校舎の備品倉庫の教室が穴場であるということに気が付いた。


毎日5分から10分。たったそれだけの時間が自分にとって心を落ち着けることができる唯一の時間だった。



けれども、



「ドゥラン君みーっけ!」



そんな場所も時間も、ファンクラブとかいう謎の集団に邪魔されるようになってしまう。


「生徒会の仕事大変だね」


うん、大変なんだ。だからそっとしといて。


「いつでも力になるからね。」


じゃあ、僕の代わりに仕事してよ。


心の中でそんなことを考えつつ、


「はい、大変だけど頑張ります」

「ありがとうございます、心強いです。」


実際はそんな風に返す。


この不毛なやり取りのために、自分の貴重な時間が奪われていく。


(消えてなくなりたい)


そう思って、はっと閃く。


一人になれる場所がないなら、いっそのこと、自分を見えなくすれば、一人になれる状況が作れるのでは?と。


…今振り返ってみても、よくこんな馬鹿なことを思い付いたもんだと思う。

それくらい、頭のネジがおかしなことになっていた。


そして――そんな馬鹿な考えを実行できるだけの魔力を、自分は持っていた。


自分の家は代々魔力量が多い家系で、その中でも自分は桁違いの魔力量を有しているらしい。幼い頃はよく有り余る魔力を暴走させていた。今は制御具をつけているため、暴走するなんてことはないのだが。

それに、昔は魔法についてもっと学んでみたいと、自分なりに本で知識を得ては色々と魔法を試していた。当初、魔法を専科にするAクラスを志望していたくらいだ。

けれども家族がそれを良しとせず、結局Sクラスに入ることとなったのだけど。


「認識阻害の魔法は…どんななのかな。」


今使える魔法は、全て独学で覚えたものだ。

基礎理論さえ身に付いていれば、あとは組み合わせの問題。

適当に自分なりの『認識阻害魔法』を設計し、試行錯誤を繰り返す。


そうしてすぐに、"自分の姿を見たものの記憶が曖昧になる"という独自の認識阻害の魔法を完成させた。

魔力消費の部分が甘いので、あまり持続性には優れていないが、自分としては十分も持てば万々歳だ。


そして、結論から言うと、この魔法は大正解だった。


例えるなら、街にいるとき、その他大勢の背景になるような感覚。

話しかけられれば会話はできるが、誰も自分を『ドゥラン』と認識できない。


そのうち、お気に入りだった旧校舎の備品庫には、もはや用事がある者以外、人が来ることも無くなった。ようやく、平穏が訪れたと思った。


思ったのだが、


「あれ!?ひょっとして、死んでる!?わお。死体発見!違うな、幽霊か!僕、初めて見たよ〜へえ、幽霊ってこんなにはっきり見えるんだねー!しかもめっちゃ美人じゃーん。」



平穏は、そんなに長く続かなかった。


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