アラリスの両親
「大変だ。僕らの一大事だよ、リウ」
「どうしたの、急に?」
「あいつらが帰ってくるって!」
「あいつら?」
珍しくアラリスが狼狽してるわね。どうしたのかしら?
「リウ、君にも降りかかる火の粉だよ」
「ええ?」
なにその不吉な話。
「どういうことか、説明してよ。私にも関係してるなら、何か対策したいわ」
「対策? そうか。いや、でも、あいつらはどこにでも沸いてくるから」
「え。沸いてくるって、ものかして奴並みに生命力が強い黒光してるのとか、茶色いのとかのあれ?」
「おおむね合ってる例えだね。そうだよ。あいつらはゴキブリ並みに強い生命力……いや、それよりも強い。なんてったって、僕の両親だからね」
「ええっ。アラリスのご両親? そんなのに例えちゃっていいのかしら」
「いいんだよ。リウにも飛び火するから、覚悟しててね」
火の粉? 飛び火? 奴並みの生命力?
なんだか私すごく逃げ出したい気分なんだけど。
リビングで紅茶を飲みつつ私は逃げる算段をする。だけど、アラリスのご両親ってことは、この世界を創った神様で。
あ、私。結婚したのにご挨拶に行ってない。もしかして、それと関係あるのかしら。
そうだとしたら、ちょっと礼に欠けてるわよね、私。うーん。どうしたらいいかな?
「なにかおもてなしを考えないといけないわよね」
「おもてなし? いいね、それ! 核爆弾と、毒薬でなんとかなるかな」
「へっ? ちょ、なにを言ってるの。お茶を出すとか、料理を振舞うとか、そういったことを考えてたのに」
「なにそんな悠長なことを言ってるの。早く支度して。逃げるよ」
アラリスはそう言って玄関から外へ出ようとする。だけど。
「あらあらまあどうしましょう。私の可愛い子。逃げるなんてひどいわ」
「アラリス! ラファを悲しませるとはどういうことだ! そこへ座りなさい」
「げ」
いきなりパッと目の前に現れた、アロハシャツを着込んだ金髪碧眼の美男美女。すごく派手……だわ。
私はとりあえず、二人の視線がアリラスに向いているうちにと、お茶をだすためにキッチンへと向かう。
そんな私を他所に、親子三人の会話は続く。
「げ、とはなんだ。げとは! アラリス。今日はお前に説教をしに来たんだ。勝手に女神を作ったな? 俺の了承も得ずに」
「父さんだって、人間だった母さんを女神にしたじゃないか」
「それは俺の管轄する世界だからいいんだ。だが、お前は遊びに来た俺の世界から誤って殺してしまった女性を、お前の管轄であるこの世界に連れて来ただろう」
「それは、だって。運命だったからさ。僕がリウを見つけた。そのリウは僕の世界のほうに、より適応できる精神を持っていた。それを誤って殺してしまった。そうなったら仕方がないじゃないか。僕の世界に連れてきたほうがリウの為になったんだし」
「お前のは誤ってではなく、計画的に、だろう!」
え? なにそれ。そんな話聞いてないわよ。ただ、死んだのは間違いだったって。それじゃあ、私をこうする為にわざと死なせたってこと?
なんだかちょっと、問い詰めたいけど、今はお茶を準備しなくちゃ。私は精一杯冷静に努めた。
「お茶をどうぞ」
「あらあらまあまあ。どうもありがとう」
「すまぬな。うむ。美味い」
「ありがとうございます。はい、アラリス」
「ありがと」
三人にお茶を出した後、私も今回のことに関係してるから、アラリスの隣の席に湯飲みを持って腰掛ける。温かいお茶を飲むと、少し落ち着くわ。
「あなたが悪いわけではないのだから、その辺は心配しないでちょうだいね。女神としてもしっかり働いてくれているようだし」
「ありがとうございます」
「うむ。そうなのだ。貴殿には落ち度はなにもない。あるのはこの愚息だ」
「そうはいってもさあ。僕はリウがよかったんだ」
アラリスが口を尖らせて言う。なんだか子供みたいね。そんな様子に呆れた母神様は、額に手を当てて頭を横に振る。
「まったく。アラリスちゃんったら本当に決めたら一直線なんだから。私としては可愛い娘ができて嬉しいのだけど、方法がねえ」
「うむ。まずは俺の了承をなぜ得なかったのか、聞かせてもらおう」
「そんなの決まってるじゃないか。先にリウを見せたら天使にするって言うだろ。僕が先に目をつけたのに、後から掻っ攫うこと、今までに何回したっけ、父さん?」
「う、む?」
「二十六回よ、あなた。女神になれるような魂を持った女性だもの。あなた天使にしたがるじゃない。といいますか、していますわよね」
にっこりと微笑む母神様はちょっと怖い。だけど、そんなに多くの回数をされてきたのなら、まあ、可哀想よね。というか、じゃあ、私は二十七番目の女なわけ?
じとーっとアラリスを見ると、視線に気づいた彼は焦ったように語りだす。
「僕だって本当は一人見つけられればそれでよかったんだよ? なのに父さんときたら、僕の女神候補の女性みんなこの世界から攫っていったじゃないか。なら僕も父さんの世界からって思ったって仕方がないでしょ」
「ぐぬ」
「たしかにそうよねえ。アラリスちゃん。それはお父さんが悪いわよねえ。いくら父神だといっても、もうこの世界は手から離れたのだからねえ」
「そうだよ母さん。もっと言ってやって」
「あらまあ。だけどね、その前にわたしに相談してくれてもよかったのよ?」
「そ、それは、まあ」
「アラリスちゃんのお嫁さんになる女性だもの。しっかりわたしが見ないとね。だけど、正解よ。アラリスちゃん。わたしリウさんを気に入ったわ。とっても綺麗なんですもの。魂が」
「うむ。俺の天使にぴったりだ」
「あなた?」
「いや、なんでもない」
つまり、力関係は母神様>父神様>アラリスっていったところかしらね。はあ、でも私、合格したみたいでよかったわ。
魂が綺麗、かあ。でもどれってどうやったら見えるのかな。私が女神としての経験を積めば自然と見えるようになるのかしら。
「とりあえず、今日はアラリスちゃんと、わたしの娘の様子を見に来ただけだから、そろそろお暇するわ。さあ、あなた。帰りましょう」
「そうだな。リウ殿、愚息が嫌になればいつでも言ってくれ。俺の天使にしよう」
「はあ、まあ。今のところは大丈夫です」
「そうか。では、またな」
「もう来なくっていいよ!」
まるで台風のよう。
それだけを言いに世界を渡ってきたのね。とってもひやひやしたけど、でも、一応は認められたみたいだし、よかった。
「なんだか台風みたいだったわね」
「でしょ? だから気配を感じたらすぐに逃げるのをおすすめするよ」
「いや、逃げることはしないけど、ちょっとだけ疲れたわね。素敵な義父さんと義母さんだったけど」
「でも、これで当分は来ないだろうね。ああ、よかった」
本当に顔を見に来ただけって感じだったものね。
まあ、とにかく。アラリスのご両親に会えて、ちょっと嬉しかったかな。
これからも交流を持つのは私は構わないと思うな。
だけど。
それから一月もしないで義母さんだけが、お茶のみに来るようになったのよね。何でもわたしの淹れたお茶を気に入ってくれたみたい。
そんな義母さんを迎えにくる義父さんは、毎度アラリスと言い合ってる。それに慣れてきた私は、義母さんと一緒にお茶を啜るのだった。つまり、あれも親子のスキンシップってことね。
神様も人間と変わらないわあ。そんなことを二人を見ながら私は思ったのだった。
リウと逆ハーのメンツで読みたいお話がありましたら、活動報告の方で受け付けております。どのキャラのどんな話が読みたい。といったふうに、コメントしていただければ、番外編にて可能な限り書いてみますので、コメントの方、よろしくお願い致します。




