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勇者と魔王

 私たちが無人島に引きこもってから一,〇〇〇年の月日が経った。

 そんなある日。

 散歩から帰ってきたアラリスが、こんなことを言った。


「勇者が魔王を倒す為に旅に出るみたいだよ」

「え、勇者と魔王?」

「そう。なんでも帝国が勇者召喚をしたみたいだよ。自国の大規模ダンジョンを攻略できないから、勇者を召喚して踏破してもらおうってさ」

「なにを考えてるんだ帝国は」

「さあ、なにも考えてないんじゃないのかな」


 こういう時に召喚されるのって、だいたい日本人なのよね。

 あ、じゃあ。


「アラリスは会ったの?」

「もちろん会ったよ。テンプレっていうのしてきたさ。だって僕神様だもの」


 やっぱりー!

 だけど、今の時期、魔王や魔王候補なんていないはずなんだけど……。

 もしかして。


「架空の魔王でも作ってんのかしらね」

「そうだよ。よくわかったね。さすが元日本人」

「元じゃなくて、今も日本人ですー。というか、私だって神様なのに、なんでアラリスだけ?」

「そりゃ、誰が好き好んで奥さんを馬の骨に見せたがるのかって話だよ」

「う、馬の骨……」

「もしかして、その勇者ってさ」

「お察しの通り、ハーレム願望の強い勇者だよ」


 なんてこった。


「僕に向かって、ちっ、なんで幼女女神じゃねえんだよ、って言ってたからね」

「それじゃ、私でも言われるんじゃ。女神って美人に決まってるだろ、とか」

「いーや。リウは自分の見た目、過小評価しすぎなんだよ。鏡、ちゃんと見てる?」

「失礼ね、見てるわよ毎日」

「はあ。見ててこれじゃ、やっぱり会わせられないでしょ」


 鏡見てて会わせられないって、そんなに私変? ちょっとショックだわ。

 でも、同じ日本人の勇者かあ、ちょっと興味あるし、見に行ってみようかしら。

 それに、私がこっちの世界に来て一,一〇〇年以上経っているし、もしかしたら画期的ななにかを持ってきているかもしれないわよね。

 たとえば、携帯ゲーム機とか。私、実はゲーマーだったから、今の日本ではどういったゲームがあるのかすごく気になってたりするのよ。

 もしかしたら、夢のVRMMORPGなんて出てきちゃってるかもしれないじゃないの。

 そんなのがあったら、アラリス拝み倒してぜひとも日本に里帰りをさせてもらいたいわ。

 私はアラリスが自室へと戻った隙に、ささっと家を出て一気に空高く舞い上がった。

 目指すは帝国領ね。


「久々の日本人だもの。今がどうなっているのか、聞きたいに決まってるじゃない」


 私はわくわくして空を飛ぶ。


「あ、もしかしたらあの人かも! 女性ばかり侍らせて歩いてるし」


 眼下を見ると、そこには美少女から美女までを数人連れ立って歩いている、黒目黒髪の男の子がいた。

 きっとあの子に違いない。


「こんにちは」

「誰だ!?」

「飛んできた!」

「なに?」


 私はなるべく自分を可愛く見えるようにしぐさをいつもより女の子っぽくしてみせる。

 すると、相手が女の子だからか、推定勇者の方は明らかに警戒を解いた。というか、すでに品定めをしてきてる気がしていやだ。

 逆に女性陣はライバルが増えそうなのが嫌なのか、露骨に睨みつけてきている。うーん。私としては女性とは仲良くしたいんだけどなあ。


「君、今、空飛んできたよね? あれどうやったの」

「空? 重力をほら、こうやって持ち上げるようにして軽くすればできるよ」


 私は説明しながら目の前で飛んでみせると、やめなよ、と引き止める女性陣を無視して推定勇者が私の周りをぐるぐる回りだした。

 その視線は嘗め回されてるようで……キモイ。

 女性陣からの私に対するヘイトも上がったみたいだし、そろそろ止めて本題に入ろうかなと思うんだけど。


「あのね、私はあなたに聞きたいことがあってここに来たの。いくつか質問してもいいかな」

「ああ。かまわないよ」


 なんの条件もなしに了承するから私はそんなんで大丈夫か、と思ったけど、タダで教えて貰えるならもああいっかと聞き出すことにする。


『あなたが勇者様でいいのよね? 黒目黒髪だって聞いたから。あと、日本って国から来たってほんと?』


 私は日本語で話しかける。

 すると、推定勇者は目を大きく見開いて、いきなり私に抱き付いてきた。セクハラ!


『やった! 日本人! 黒目黒髪だし、黄色人種だしで、なんとなくそうじゃないかと思ってたんだ。でも本当にそうなんて! なんで君はここにいるの? 俺は榊史也。君は?』

『まっ待って。後ろのお姉さんたちが怖いから、抱きつくのは止めて。……ふう。うん、私も日本人。私は召喚とは少し違うんだけど、異世界トリップしてこの世界に来たの。名前は雑賀莉羽。リウって呼んで。榊くんは魔王を倒すために召喚されたって聞いたけど、本当なの?』

『ああ。あ、俺も史也でいいよ。魔王を倒すために召喚されたみたいだ。リウちゃんは異世界トリップなんだよね。魔王についてなにか聞いてない?』

『ううん。そもそも魔王が出たなんて、私も初耳なの。どうしてそんなことになったのかな』

『初耳? ……そっか。なんかおかしいと思っていたんだよ。実はさ、俺を召喚した国、帝国なんだけど、そこの皇帝が中央のオーガイルが千年くらいのはるか昔に、魔王召喚をしたとの記述を見つけたとかで、その真偽を確かめるのと同時に他国を制圧してこいとか言われてさ。明らかにおかしいだろ』

『(あ、それ多分私だ)へえ、はるか昔に魔王ねえ。じゃあなんて今まで私たちは滅ぼされてなかったんだろうね』

『そうなんだよ。おかしいだろ。だけど、それ聞いたら安物の剣と一緒に放り出されてさ。魔王を倒すまでえは元の世界には帰さないとか言われて。なんなんだよって、ムカつくから復讐してやろうと思って、とりあえず情報集めのためだけにオーガイルに行こうってことになったんだ』

『じゃあ、さっきから私を睨んでいるこの綺麗な女性陣は?』

『道中助けたりなんだりしてたら、皆ついて来たがってさ。俺もそのほうがいいし、皆で旅することにしてるんだ。あ、どう、莉羽ちゃんも一緒に来ない? 君可愛いし、夜なんかも一緒にいたいな、なんて、ね。どう?』


 そう言いながら私の腰に腕を回してくる。

 ああ、なるほど。

 こういうタイプの勇者なのね。わかったわ。まだ救いようは、というか、救う必要なしハーレム勇者なのね。

 それにしても、帝国。だんまりしてたかと思ったら、私を魔王ですって?

 ふふふ。いい度胸してるじゃない。これはお灸を据えに行った方がいいかもしれないわね。


『教えてくれてありがとう。オーガイルにはそのまま向かっても大丈夫よ。あの国はいい国だから。じゃあね』


 私は女性陣にも邪気のない笑顔を見せて、またふわっと空を飛んで適度な所で転移した。私たちの住んでいる無人島にね。


「ただいま!」

「おかえりリウ。どうだった?」

「どうもこうも、帝国の皇帝。どうやら私を魔王に仕立て上げたみたいよ」

「なんだと!」

「なにそれ」

「我のリウをだと」

「へえ。僕の奥さんを魔王呼ばわりとはいい度胸してるじゃない。お灸、据えに行くんでしょ? 僕らも行くからね」

「もちろん。皆で囲んでわからせてあげましょ。神様を怒らせたらどうなるかを、ね」


 その後、勇者一行はオーガストでハーレム満喫しながら、つつがなく暮らしたそうで。

 帝国の皇帝は代替わりをして、今では帝国とは名ばかりで独立する国々が一気に増えて、勢力が急激に衰えたんだそうな。

 めでたしめでたし。

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