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エンシェントドラゴン 下

 目を開けたエンシェントドラゴンは、誰かを探すようにぐるりと首を回すと、目下にいるアラリスに気づいたのか、フンと鼻息を鳴らす。その鼻息がすごくて、風がごおおと吹いた。


「ルブル、久しぶり」

「お前はアラリスか。手荒い起こしかたをするな。我になにか用向きか」

「うん。僕の奥さん紹介しに来たんだ。新米神のリウだよ。リウ、こっちにおいで」


 アラリスは満面の笑みで私を呼ぶ。

 うわあ、あの巨大な顔の前に行くのって、すごい勇気がいるんじゃない?

 恐る恐るアラリスの下へと歩み寄る私を、エンシェントドラゴンはじーっと見ていた。こ、怖いー。


「お前がアラリスの嫁のリウか。なるほど、たしかに新米だな。初々しいのがまた愛いのう」

「あげないからね」


 アラリスは私の前に進み出て、そう言う。もっと頑張って私を守ってくれてもいいのよ。


「リウです。アラリスとルークスの妻ってことになっています」


 私はどきどきしながら言った。

 あ。でも、エンシェントドラゴンって一夫一婦制だったらどうしよう。不埒な輩だと食べられたりしないかしら。けしからーん! って、ばくーって。


「ふむ。そちらの男は精霊か。なかなか良い精霊だな」

「それはどうも」

「我はエンシェントドラゴンのルブルルグという。ルブルと呼ぶがいい」

「あ、は、はい」


 ルーはそれだけ言うと、私たちの元へと来る。よかった、これで私を守る壁がもう一枚増えたわ。

 ルブルルグの名前がそのまま山の名前になったのかな。


「あ、あの。これお土産なんですが……。よかったらどうぞ」


 私はそう言って、異空間からアースドラゴンの卵を目の前に置く。食べてくれるかしら。


「ほおお。これは地竜の卵か。ありがたく頂こう。……うむ。美味であった」

「ど、どういたしまして」


 アラリスが私の頭を撫でる。なんか、子供扱いされてるみたいじゃないのよ。お土産の卵を食べたルブルは喉を鳴らしてご機嫌のようだ。へえ。ドラゴンも猫みたいに喉を鳴らすのね。


「では我もお礼をするとしよう」


 ルブルはそう言うと、巨体が光り輝きだす。なにが起きるんだろう。アラリスを見ると、あーあって感じでそれを見ていた。なんなの?

 光がおさまると、人影が見えた。こんなところに人がって……、もしかしなくてもあれはルブルの人化した姿かしらね。

 銀髪長髪で長い耳のイケメン。アラリスや私よりもずっと神々しいわね。


「お礼に我を捧げよう。愛い神よ」

「へ?」

「やっぱりそうなっちゃう? ま、いっか。よろしくルブル」

「どういうことだ?」

「お土産にアースドラゴンの卵あげたじゃない。あれ、実は雌のエンシェントドラゴンが雄に求婚する時にとってくる卵なんだよね。だから、リウはルブルに求婚したってことになるのかな」

「なるんかなって、おい!」

「な、なにそれーっ」


 そんな話聞いてないよーってアラリスを睨むと、にこりと笑みが返ってきた。はあ、なんだかもう覆せないみたいね。目の前のルブルは私の手の甲に口付けを落としてくるし。

 ルーになにか言ってよって視線を送れば、やれやれといったように、肩を竦められる。駄目か。


「よろしく頼むぞ我の花嫁」

「は、はあ。よろしくお願いします」


 ドラゴン見たさに来てみたら、なぜか花嫁になっていた。なんでだー!


「ほう。ここがリウの住処か。神域になっているのだな。ふむ」


 え、神域? アラリスを見ると、こくりと頷かれる。ここって神域だったんだ。知らなかった。というか、私たちが住んでいるから神域になったってことかしらね。

 家に帰ってきた私たちは、ルブルに家の中をざっと案内した。ルブルは人の生活が久しぶりなのだとかで、懐かしそうに家の中を見回していた。

 ルブルはエンシェントドラゴンで、その長でもあるみたい。神竜のようなものだってアラリスが説明してくれた。


「ほう。リウは人として生活をしておるのだな。ならば我もそれに倣おう」

「人の真似事をするのもなかなか楽しいよ」

「そのようだな。お前を見ていると生き生きしているのがよくわかる」


 アラリスとルブルが話に盛り上がっている間に、ルーは夕飯の準備。私は急遽、指輪を作ることに。ポラリスに飛んで鍛冶屋さんでミスリルを買うと、急いで家へと戻る。

 錬金術で指輪を作ると、それをルブルに手渡した。ちなみにメイン宝石はキャッツアイ。土属性ね。


「これ、どうぞ。四人お揃いの指輪です。念話もできるようになっているので、便利ですよ。竜化したときは、ブレスレットになるようにしているので、変化しても大丈夫です」

「ほう、これを我にか。嬉しく思うぞ、リウ。だが貰ってばかりだな。我も贈り物をしよう」


 そう言って取り出したのは、なんと竜の逆鱗! ちょ、それって触っちゃいけないんじゃあ。簡単に渡してもいいものなの?


「これを触れるのは、我と花嫁だけだ。これを捧げよう」

「でもこれって大事なものだし」

「いいのだ。もともと番になったものは逆鱗を渡すことになっているのだからな」

「そうなんですか……。ありがとうございます」

「ふむ。それとだが、口調もアラリスやルーと同様で構わぬぞ。我はそのほうがリウに近づいたようで嬉しい」

「わ、わかったわ。これからよろしくね、ルブル」


 なぜかエンシェントドラゴンをお持ち帰りしてしまった。

 まさかこれ以上増えたりしないよね?

 そう思うと、なぜか背筋に悪寒が走る。ま、まさかねー。


「とりあえず、ルブルに貰った逆鱗どうしよう。なくすといけないから異空間に保管しておこう」


 小心者な私は、逆鱗をそっとしまうのだった。だって、ねえ。なくしたら大変じゃないの。逆鱗だよ? 逆鱗!

 ファンタジーなんかでは、急所とか魂だとか言われてるあれだよ? 貰っていいのか困るよね。でも、会ったばかりなのに、そこまで信用されてるんだし、受け取らないわけにはいかないよ。

 住人が一人? 増えて、神様の力で間取りを増やしてみた。なんだかんだで四人暮らしだよ。初めの倍だ。賑やかになって楽しいからいいけどね。

 さてと、今日は四人になったお祝いみたいな感じで、美味しい料理を振舞いますか。


「賑やかになったお祝いに乾杯!」

「乾杯」

「かんぱーい。楽しくなりそうだね」

「乾杯。……ふむ。なかなか美味だな」


 お酒を飲んで、その日は四人で夜遅くまでわいわいやって楽しんだ。

 これからの毎日が楽しく過ごせますように。

 誰に祈るわけでもないけど、むしろ祈られる側だけど、こんなお願いしてみてもいいよね。

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