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お店 上

「ちょっとアラリス!」

「ん、なに」

「なに、じゃないっ」


 空は快晴。本日も私の気分は良好……ではなかった。

 朝起きたら、私の部屋が花まみれだったのだ。しかも、貴重な材料のアラスバタの。

 アラスバタは、エリクサーの材料の一つで、一〇〇年に一度咲くかどうかの花の名前だ。それも三〇〇〇メートルを超えた雪山にしか咲かない。それ一つ見つかれば億万の富を得られる伝説の幻の花だった。

 ちなみに、エリクサーの他の材料は、教会の聖水に、桃の実。

 作り方は、桃の実をすり潰したものを、聖水と混ぜるんだけど、そこに魔力注入しながら配分も間違わずに、そして混ぜ方も慎重にしながら作らないといけない。

 最後に花冠をそのまま入れるんだけど、この時、花冠を焦がさないように燃やして、溶かさないといけないの。それがかなり難しい。魔力操作の天才でなければできないくらいの精密な操作が必要なのよ。

 そんな貴重も貴重、超絶貴重なアラスバタの花が、部屋中に鉢植えで置かれていれば、驚くなんてものじゃない。逆に怒りが湧いてくるわけで。


「たくさんあるよ。もっと必要なら言ってよ。いつでも出すから」

「そういうことじゃなーい!」


 にこにこ笑顔のアラリスは、どうぞ褒めてといった具合にほわんとしていた。


「はあ。もういいわよ。あんたになに言っても無駄な気がするわ」


 その後、私は鉢植えのアラスバタを、庭の一角に花壇を作って植えておいた。ついでに年中雪も降るように、その花壇だけ魔法でそうしておくことにした。これでいつでも採集できるわね。

 で。

 せっかくだから、一〇個だけエリクサーを作ってみることに。

 桃は庭の木になっているからいいとして、聖水はポラリスの教会に行って貰ってこなくちゃいけないわね。

 教会の聖水は、祈りの間の像の持つ水瓶から流れているのだけど、これは誰でも自由にもっていってもいいのよ。アンデッド対策に、よく冒険者が瓶に入れて持っていくのをよく見かけるわね。

 私はポラリスの街の教会にやってきた。数人並んでるわね。

 順番を待って私の番に。……さて、こんなものかな。

 私は瓶一〇個に聖水を入れて持ち帰ることに。ついでに買い物でもしていこうかな。普段は週に一度くらいしか街にこないし。


「こんにちは」

「おう、リウちゃんじゃねえか。久しぶりだなあ」

「鉱石を少し買おうと思って」


 私が寄ったのは、ポラリスに一軒だけある鍛冶屋さん。ここには錬金術をするときにもたまにお世話になっているのよね。

 お店に陳列されている鉱石や宝石類を眺めながら、なにを作ろうかと思案する。

 そうねえ。

 自分とルーとアラリス。三人お揃いの指輪が欲しいなあ。ミスリルでも買っていこうかしら。ついでに念話ができるように魔法をかけておこうっと。


「おじさん、このミスリル三つ貰うわ」

「あいよ。三つで三〇〇,〇〇〇ゴールドだ。ミスリルを買うってことは、鍛冶かい?」

「んーん。錬金術で指輪を作ろうと思って。あと、ルーには剣を作ろうかと思ってるんだけど、なにかいいのない?」

「そうさなあ。お、そうだ。あれなんかいいかもしれんなあ」


 鍛冶屋のおじさんはそう言うと裏に入ってしまった。なにかしら。

 しばらくしておじさんが戻ってくると、一つの包みを抱えて持ってきた。


「開けてみろい」

「これって」


 包みの中から出てきたのは、プラチナのインゴットだった。

 おじさんこんなすごいの隠しもってたのね。


「それは冒険者から担保に預かったものなんだが、もう何年も昔にそいつは死んでしまってな。売るにも打つにも俺じゃあ持て余してしまってなあ。倉庫の奥にしまったままだったんだ」

「そうなんだ。で、これいくら?」

「そうだなあ。これだけの塊だ。一〇.〇〇〇,〇〇〇ゴールドだな……と言いてえところだがよ、五,〇〇〇,〇〇〇ゴールドでいいさ」

「ご、五,〇〇〇,〇〇〇!? た、高いけど、なんとかなりそうな額ね。でもいいの? 半額なんて……」

「いつ売れるかわからんもんよりも、いつでも使える金のほうがいいってもんさ」

「そういうものなのかしら……? じゃ、それも買うわ。せっかく譲ってくれるんだし、いいもの作らないとね」

「おう。いいもの作ってくれよな」

「もちろんよ」


 それにしても、こんなプラチナのインゴットを担保になんて、ずいぶんすごい冒険者だったのね。

 私は他にも食材屋さんで調味料を買い込んで、家に帰ることにする。


「ただいまーって、あれ。もしかして誰もいないっぽい?」


 もう一度声をかけてみるたけど、やっぱり誰もいなかった。二人とも出かけてるみたいね。

 ならと、私はテーブルの上の籠にあったパンを一つくわえて、奥の作業場に向かう。二人がいないうちにちゃっちゃと作っておこうかな。


「まずは指輪ね。んー、装飾はどうしよかな」


 在庫の宝石をテーブルにばら撒いて、どの宝石と装飾にしようと考える。

 壁に掛けられている鏡に写った自分を見て、そうだと思いつく。


「三つ編みいいかも」


 長髪を耳の上で一つにしてそこから三つ編みにしているのだけど、指輪で蔦みたいにこれして、エメラルドを葉の形、メインをルビーにしたら可愛いよね。あ、でも火だし、これはルーかな。

 アラリスはダイヤモンドがいいよね。光だし。

 とすると、私は……サファイアかな。これなら、二色だし二属性使っててもそんなに違和感ないよね。よし、そうしよう。


「とんてんかんてん出来上がり~っと。お、いいね、いい感じ」


 キラリと光を反射して、ミスリルの指輪にそれぞれの宝石を填め込んで、綺麗な三つの指輪ができた。ふふん、私のセンスもなかなかのものよね。

 指輪が完成したから、今度はルーの剣ね。このインゴットの大きさなら少し余るし、アラリスにも短剣でも作ろうかな。


「とんてんかんてんルーのため。とんてんかんてん剣作る~♪」


 おし。

 刃渡り八〇センチメートルの両刃の片手剣ができた。鞘はドラゴンの皮にしよう。あれならちょっと乱暴にいれても耐久力あるしいいかな。


「とんてんかんてんアラリスの。とんてんかんてん短剣作る~♪」


 アラリスにあげる短剣は刃渡り一五センチメートル。こっちは片刃。素材の剥ぎ取り用なんかにいいね。

 うーん! こうして仕上がった物を見ると、どれも会心の出来でいいねえ。これなら鍛冶屋のおじさんも良いって言ってくれそうだわ。


「さてと、今度はエリクサーね。でもこれ、作ったとしても使うことなんてなさそうよね」


 私は庭から桃をもいで摩り下ろす。ああ、良い匂い。

 桃の香りの香水でも作ろうかな。女の子に人気でそうよねえ。ついでになにか効果をつけてみるとか……。そうねえ、女の子に傷がつくのも可哀想だし、防御力アップの効果でもつけてみるか。

 おっと、その前にエリクサーね。


「えっと、聖水をちょろっと、もうちょっと魔力かな」


 ボールに摩り下ろした桃を裏ごししたのをいれて、少しずつ聖水と魔力を入れて混ぜ込む。そうすると、綺麗な黄色の液体ができる。ここにアラスバタの花冠を入れるんだけど。


「集中、集中」


 私は花冠を一〇個ボールに投入して、細心の注意を払って魔力を操り暖める。どんどん暖めていって、一〇個全部に火がついた。

 ここからが大変なのよね。

 花冠を焦がさないように燃やして、焦げる前に花冠に魔力を流し込んで溶かす。

 よしよし。いい感じになってきたわね。


「ふう。できた」


 初めて作ったけど、さすがね。失敗しないで作れたわ。

 あとは小瓶にいれるだけ。そろっとそろっと慎重に。一〇全部を均等に。並んだ瓶一〇本は、綺麗に同じ量いれることができた。

 このエリクサーはなにかがあった時にとっておこう。私六本、ルーとアラリスに二本ずつで持っておこうかな。

 よし、次は香水ね。この香水、他の匂いと効果を何種類か作ったら、うちオリジナルの商品になるわね。価格は、年頃の女の子がお小遣いを貯めて買えるような額にしておこうかな。

 時計を見ると、もう十六時。香水は明日に回そう。思ったよりも時間がかかったわね。でも楽しかったわ。

 さてさて、ではでは。

 今日の物作りはこんなもんでしょ。

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