4 ◇ 心無い結果とハイタッチ
全32話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
2学年1学期の期末考査が終わった。
数日経って採点が終わって、試験結果が掲示板に貼り出された。
各科目と全科目総合の成績上位者。
私はまあ、だいたいどれも上位5人の中には入っていた。
そして、真っ先に確認した「魔法学」、次に見た「女子総合」の順位は──1位。
まあ、これならさすがに、今年も学祭の魔法実演のクラス代表には選ばれるかな。
学年1位ってことは、クラスで1位ってことだから。十分条件を満たしてる。
私は周りの皆が「さすがメリサ様!」って持て囃してくれるのを聞き流しながら、ホッと一安心した。
◇◇◇◇◇◇
……ベルミーの方はどうなったかな?
私は自分の次に、1学年下のベルミーのことが気になった。
ベルミーは期末考査の直前は「やりすぎでしょ」って言いたくなるくらい、1学年の比較的まだ狭い試験範囲を徹底的に勉強しまくっていた。
先週頭の倶楽部のとき。勉強の合間の息抜きの雑談で、私が
「ベルミーはもう大丈夫だよ。それだけ対策やってるなら。
っていうか、そこら辺の範囲で解けない問題なんて、君にはもうないでしょ?」
って言ったら、ベルミーは首を振ってキリッと険しい顔をしてきた。
「いえ!油断大敵です!
1学年はこれが初めての期末考査なんで。学年全体順位が初めて分かる試験なんで。
もしかしたらボクがまだ把握してないだけで、クラスにものすごい猛者が潜んでいるかもしれません!ウチの学年に、千年に一人の魔法学のド天才がいるかも……!
だから、1位を取るために『勉強しすぎ』なんてことはありません!」
「……『千年に一人の天才』がいたら、さすがにそれは勝つの無理でしょ。」
私が苦笑しながらそう言うと、ベルミーは
「でも『千年に一人の天才』が満点でも、ボクも満点なら同率1位。それなら学祭の魔法実演のクラス代表になれる可能性が残るんで!
先輩と一緒に4組の代表になるために!とにかく死力を尽くすのみです!ボク、絶対に一番になるんです!」
と鼻息荒く宣言して、また勉強に向かっていった。
あれだけ熱心に、たかがテストに「死力」まで尽くしていたベルミー。
なんやかんやで3ヶ月一緒に倶楽部活動をしてきた仲。私はどうせなら彼に学年1位を取っていてほしいなと思った。
最近はもういちいち活動日を決めたりはしてない。……多分、今日も放課後は魔法倶楽部があると思う。
そのときに試験の結果を本人から聞いてもいいんだけど──……
「……ちょっと、先に見ておこうかな。」
大丈夫だとは思うけど、万が一ってこともあるし。
心の準備っていうか……「万が一」があったときのために、私も会話内容の用意をしておこう。
そして私はその日の昼休みに、珍しく1学年棟に繋がる渡り廊下に行ってみることにした。
そこに1学年向けの掲示板があるから。立ち止まってまじまじと見ちゃうと目立ちそうだから、通りがかりながらチラッと見るだけにしよう。
魔法学の成績優秀者だけ。それだけサラッと確認する。
……ベルミーにそこで会ったら気まずいな。
まあ、昼休みの中途半端な時間に行けばいいか。人がそんなに多くない時間に。
私はそう考えて、その日の昼食をかなり早めに食べ終えた。そしてまだ大半の人が学食や教室にいるであろう時間に、その1学年寄りの渡り廊下に向かった。
でもそこで私は、まったく予想していなかった意外な光景を目に……じゃなくて、耳にすることになった。
◇◇◇◇◇◇
「──チッ!
どこ行ったんだ!?ベルミー!!
あいつ!さては逃げやがったな!?」
1学年棟に繋がる渡り廊下の近くまできて、曲がり角を曲がろうとしたとき。
自分の進行方向先から、知らない男子の声が聞こえてきた。
(──っ、【ベルミー】?)
私はその声を聞いて、前に進む足を止めた。
曲がり角を曲がる前にある清掃用具室。私は何もやましいことはなかったけど、誰もいない清掃用具室に咄嗟に入って隠れた。
ほんの少しだけ扉を開けて隙間を作って、外の話し声が聞き取れるように軽く聴覚強化魔法を掛ける。
その荒々しい声からして、あまりいい内容ではなさそうだと、直感的に分かったからだった。
向こうは1学年棟側だから、声の主は恐らく1学年の男子。
…………ベルミー、何があったんだろう?
私が不安……というか心配になったところで、その渡り廊下の方角から、続けて複数の人物の会話が聞こえてきた。
「あ、やっほー。」
「ここで何してんの?」
「ちょうど良かった!なあ、お前らベルミー見なかったか!?」
「え?ベルミー?……さあ。見てないけど。」
「知らなーい。どうしたの?」
声を荒げていた男子に、友人らしい男女が声を掛ける。
……そして。
怒りながらベルミーを探していた男子のその次の発言に、私は驚愕してしまった。
「──っ、ベルミー!あいつ!
俺がやらせてた課題の記述!思いっきり間違えてやがったんだよ!!
クソッ!油断してた!あいつが書いた文章を、何も確認せずにそのまま丸写しして提出しちまった!!
あいつマジで許さねえ!見つけ出してシメてやる!!」
◇◇◇◇◇◇
(…………は?……どういうこと?)
彼の言葉の意味が分からなくて、私は驚きながら困惑した。
でも、それに続いた会話で、状況が理解できてしまった。
「えぇー?またベルミーにあの先生の課題やらせたの?」
「アレをベルミーに押し付けたのか?お前、エッグいな。今回の課題、超〜面倒くさかったんだぞ?」
「そうそう。3,000字のレポートだよ?!テーマ決めからして私すっごく悩んだもん!参考文献は最低二つ!って地味に指定も書かれてたし。
期末考査直前なのに時間取られまくった!」
あまり、信じたくなかった。
でも会話の内容的に──……ベルミーはどうやら、その男子の分まで課題を押し付けられていたようだった。
「ってかさ、お前、ベルミーともしかして提出したレポートの内容丸被りしてるんじゃないか?
……さすがに先生にバレるぞ。どっちかがパクってるって。」
会話相手の男子からの指摘に、ベルミーに課題を押し付けているらしい男子は、馬鹿にするように笑いながらひどい反論をした。
「は?そんなの対策してるに決まってんだろー?
ベルミーが提出するやつと同じものを出すわけねーじゃん!
──あいつには俺の分も別に書かせてんだよ!毎回、二種類!二人分!」
(………………っ!)
それからその男子は、まるでベルミーの方が悪くて駄目な人間であるかのように、溜め息をついて呆れた。
「チッ!……っつーか、そういうことかよ。
あいつ、今回は課題の内容が厄介で二人分を書くには時間が足りなかったんだろうな。だからあんなボロボロだったのか。
で、俺にキレられる前にどっかに逃げたってわけか。なるほどな。……はぁ。」
自分が悪いくせにひどいことを平気で言っている男子。私はてっきり、友人の二人が彼を咎めるものだと思った。
でも、そんなことはなかった。二人はただ普通に、彼の言葉を受けて会話を続けた。
「それでお前、ベルミーを見つけてどうするんだ?」
「ボコボコにする。」
「えー!やだぁ!怖ーい!」
「当たり前だろ?あいつマジでふざけんなよ!いま逃げてんのだって、絶対分かってたからだろ!『課題の内容が間違ってた』って!──この成績なんだから!」
「んー、まあ、たしかに。ってか意外だよな、ベルミー。アイツこんなに頭良かったんだ。
……お前に目を付けられたのが運の尽きだな。同情するよ。」
「あはは!ベルミー可哀想〜。」
「可哀想なのは俺だっつの!ったく!どうすんだよあの課題!!再提出ならまだしも、これが成績評価に影響したら洒落になんねえ!!」
(……ちょっと待って。本当にどういうこと?
今、『ボコボコにする』って言った?
まさかベルミーを『殴る』ってこと?
……っ、それに二人も。どうして平然と会話してるの?何でそんなひどいことをしてる彼を止めようとしないの?)
「なあなあ。だいたいお前、何でそんなにベルミーのことを毎回いじめてんだよ。入学直後からず〜っとターゲットにしてるよな?」
「あ?ムカつくからに決まってんだろ。
あいつ見てるだけでマジでイラつく。存在からしてもう気に食わねえ。ナヨナヨしてんじゃねえよ。目障り。」
「理由、雑〜。ベルミー御愁傷様だわ本当。」
(…………っ、そんな理由で?!)
私は信じられない会話の内容を聞きながら、とにかくベルミーを虐めているらしい彼に話をしに行こうと、清掃用具室の扉に手を掛けた。
しかし、その間にさらに進んだ会話の続きを聞いて……私は再び止まってしまった。
「ん〜。でも私、申し訳ないけどちょっと分かる気がする。
ベルミーっていちいち鼻につくっていうか、イラッとくるところあるよねぇ。
本人は素でやってるんだろうけど……何だろうなぁ?こう、『あざとい系の女子』みたいじゃない?先輩や先生に媚売ってる感じ。しかもけっこう図々しいの。
──ほら、ベルミーってさ。2学年のあの【メリサ様】にも堂々と話し掛けまくってたじゃん?
妙〜にカワイ子ぶっちゃってさ。
ああいう身の程を弁えてないところとか、空気が読めてないところがさ、見ててイタイんだよねぇ〜。
1学年で、しかも身分が超低いくせに。学校の『王子』のメリサ様にあんなにグイグイ行くなんて、絶対ダメに決まってるでしょ?ご迷惑をお掛けしてるって、ちょっとは思わないのかな?
……自分を客観視できてないっていうか。『女子に嫌われる女子』って、まさにあんな感じ。」
(…………わ、……私?)
その女子の言った内容に、私は固まってしまった。
私が固まっている間に、扉の向こうの曲がり角の先の方で、ベルミーを馬鹿にしながら笑い合う声がする。
「っはは!女子にまでそれ言われるとか、もう終わってんな!あいつ!」
「『女子に嫌われる女子』って……!やばい、ちょっとウケる。」
「ねえねえ、ベルミーみたいな女子っぽい男子って、同じ男子からはどんな感じに見えるの?」
「ムカつく鬱陶しいチビ野郎。」
「『女子に嫌われる女子』……っ!」
「それ私が言った表現!」
「いやでも、言われてみたらそうとしか見えなくなってきた……!『カワイ子ぶってる』とか……どう考えても男子に当てはまる言葉じゃないだろ!……やばい、ツボった!」
(…………っ、何これ。何なのこれ……!?)
ベルミーが虐められてる。
少なくともこの会話をしてる三人には、ベルミーは思いっきり馬鹿にされている。
冗談だと思いたいけど……でも「ボコボコにする」まで言われてた。
大変な課題をやらされた挙句に、暴力まで振るわれるってこと?
そんなの、絶対に許されるわけがない。
止めなきゃ。早く行って、怒って、……先生にも言わないと。
私はそう思って動こうとしたけど──それと同時に頭の中で、余計な考えが渦巻いた。
(でも、あの女子が言ってた……ベルミーが馬鹿にされて虐められてる原因の一つって──
──それって、もしかして……私のせい?)
……どうしよう。
もしここで「ねえ。さっきから一体何を言ってるの?君達まさかベルミーにいつもひどいことをしてるの?」なんて言って、私がベルミーを庇っちゃったら──……逆に私がいなくなった後で、イジメがさらに深刻化しちゃうかも。
──「……うーわ。メリサ様に守られちゃって。ほんっと『ワタシいじめられてるんですぅ〜!可哀想なんですぅ〜!』みたいな?被害者ぶってる『か弱い女子』って感じ!」
──「先輩の『女』に助けられる『男』とか!情けなさすぎてヤバ!さすが『女子女子してる』だけあるわ!」
──「っつか、恥っず!!俺、いま怒られちゃったー!?メリサ先輩にお説教されちゃったよォー!!……っあ゛ぁー!何だよクソ!!マジでムカつくあいつ!!!」
私がいなくなった後。いきなり説教してきた私と庇われたベルミーを、再び嘲笑う1学年の三人。
そんな、より悪化していく彼らの陰口が、生々しく想像できてしまった。
彼らを叱ってすぐにでもベルミーへのイジメをやめさせたい正義感と、……でも、行ったところで逆効果になってしまいそうな不安感。
……そして、ベルミーが1学年の彼らの中で嫌われてしまっているのは私のせいかもしれないという……とてつもない罪悪感。
私は結局そのとき、彼らの話し声が渡り廊下からまた1学年棟の方へと遠くなっていくのを、ただ清掃用具室の中で聞くことしかできなかった。
ベルミーの悪口を言っていた彼ら三人が一体誰なのか……顔を確認することすらもできなかった。
私は、彼らがいなくなってしばらくしてから、清掃用具室を出た。
正義感と不安感と罪悪感をただひたすら、ぐるぐると胸の内に渦巻かせて。私はろくに何も考えられないまま、渡り廊下のところへ来た。
……そこで私は、当初の目的を思い出した。
私がここに来ようとした理由。衝撃的なあの会話のせいで、すっかり忘れてしまっていた。
茫然としていた私の目に飛び込んできた掲示板。
──ベルミーはちゃんと抜かりなく満点で、「魔法学」の学年1位を取れていた。
◇◇◇◇◇◇
あの衝撃の会話を盗み聞きしてしまった後、私は残された昼休みの時間すべてを使って、校内をうろつき回った。
あの男子にベルミーが見つかって、どこかで殴られているかもしれない。
助けなきゃ。あの男子よりも先にベルミーを見つけて、今の時間だけでもとにかく守ってあげなきゃ。
ベルミーから話を聞いて、一緒に相談しよう。
どうすればいいか、どうしたいか。
これ以上イジメが深刻化しないように、ちゃんと対策を考えた上で、先生に報告しに行こう。
ベルミー、どこ?……どこにいるんだろう?
私はそう思ってベルミーを探したけど、広い校舎をあてもなく彷徨ったところで……ベルミーを見つけることはできなかった。
……もちろん、部室も覗いたけど。
ベルミーは昼休みには、部室には来ていないようだった。
◇◇◇◇◇◇
そして結局、放課後になった。
ベルミーが魔法学で1位を取れているかどうかなんていう話以上に、本当にショッキングな内容。
気まずいどころじゃなった。私はどんな顔をして行けばいいのかも分からないまま、暗い気分で魔法倶楽部の部室に向かった。
「あ、先輩!お疲れ様です!」
重い身体を何とか動かして部室の扉を開けると、いつも通り……よりもさらに一回り明るく、ベルミーが元気に挨拶してきた。
「……あ、うん。お疲れ様。」
私が平静を装いながらそう返すと、ベルミーは笑顔で早速、私に報告をしてきた。
「先輩!ボク、やりました!
期末考査の魔法学、ちゃんと学年1位になりましたよ!」
………………っ、
「そっか。……まあ、順当だね。よかったね。」
よく回らない頭で、私はぶつ切りの言葉を並べた。
私は思いっきり動揺していたけど、ベルミー視点では私がすごく淡々としているように見えたと思う。
でもベルミーは「ありがとうございます!」と私にお礼を言って、「先輩はどうでしたか?!」と、私の試験結果に確信を持って、遠慮なく力強く聞いてきた。
「うん。私も学年1位取れたよ。」
私がそう答えると、ベルミーは「やっぱり!さすがメリサ先輩です!」と言って、ものすごく嬉しそうにはしゃいだ。
「ボクたち二人揃って学年1位!
これで『魔法倶楽部』の1学期の活動目標、完全達成ですね!」
そしてベルミーは満面の笑みで、私に向かって両手の手のひらを向けてきた。
「先輩、先輩!イェーイ!!」
私とハイタッチをしようとするベルミー。
そのウキウキと弾む声を聞いた瞬間。
何故か私の脳内に、嫌な言葉たちが浮かんできた。
──「本人は素でやってるんだろうけど……何だろうなぁ?こう、『あざとい系の女子』みたいじゃない?先輩や先生に媚売ってる感じ。しかもけっこう図々しいの。」
──「学校の『王子』のメリサ様にあんなにグイグイ行くなんて」
── 「ムカつく鬱陶しいチビ野郎。」
──「『女子に嫌われる女子』……っ!」
………………っ、
私は再び渦巻いてきたそんなひどすぎる言葉たちを、無理矢理頭の中から追い出した。
そしてウキウキと待っているベルミーの手に、私の手のひらを当てた。
私の勢いがなかったせいで、パチン!っていう乾いたいい音はしなかった。
パスッという少し湿った、中途半端な音のハイタッチ。それでもベルミーは「イェーイ!やったー!」と言って、嬉しそうに笑った。
……一瞬だけ合わさった、私達の手のひら。
そこで私は、背丈だけじゃなく、手もベルミーの方が私よりも一回り小さいことを知った。
──チビ。ナヨナヨしてる。……『女子』。
1学期の終わりが近付いてきている、長期休暇前のこの日。
ベルミーとした初めてのハイタッチで、私は2学年になってから一番、苦い気持ちになった。




