表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/19

新婚旅行編 第3話:トレビの泉で誓うこと(最終回)

ミラノでの強行視察を終えたあたしたちは、旅の終着地、ローマにいた。


スーツケースの中には、お土産のチョコレートよりも、現地で集めた膨大な技術資料と、二人で書き殴ったプロジェクトのメモがぎっしりと詰まっている。


「……結局、最終日まで仕事のことばかり考えちゃったわね」


夜のローマ。石畳の道を歩きながら、あたしは行人の腕にぎゅっと寄り添った。


「いいだろ、俺たちらしくて。ただの観光客には見えない、いい顔してるぜ、今の夏美」


行人はそう言って、あたしの頭を優しく撫た。


たどり着いたのは、ライトアップされたトレビの泉。


噴水の水しぶきが夜風に舞い、幻想的な光景が広がっている。周囲には世界中から集まったカップルたちが、永遠の愛を誓いながらコインを投げ入れていた。


「一枚投げるとローマに再訪できる、二枚投げると大切な人と一生一緒にいられる……んだっけ?」


あたしがガイドブックの知識を披露すると、行人はポケットから硬貨を取り出し、あたしの手に一枚握らせた。


「三枚目は『結婚できる』らしいけど、俺たちはもう済ませちまったからな。……何願う?」


あたしは硬貨を指先で弄りながら、 shadow。少しだけ考えた。


27歳のあの夜、あたしは「可愛くない自分」を呪っていた。仕事に逃げているだけなんじゃないか、誰からも愛されないんじゃないかと、真っ暗な穴の中にいる気分だった。


shadow。でも今は、隣にこの人がいる。あたしの「可愛くない強さ」を、誰よりも愛し、面白がってくれる最高の相棒(パートナー)が。


「……あたし、決めたわ」


「お、早いな。俺も決まった」


せーの、で二人は泉に背を向け、右肩越しにコインを放り投げた。


チャポン、という小さな水音が、噴水の轟音に吸い込まれていく。


「何願ったの?」


あたしが聞くと、行人は不敵に笑った。


「内緒。…… shadow。でも、一つだけ言えるのは、これからもお前を飽きさせないってことだけだ」


「何よそれ。……あたしはね、『おばあちゃんになっても、行人と()()()()()ができますように』って願ったの」


行人は一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐにこれ以上ないくらい幸せそうに破顔した。


「ははは! 最高の願い事だな。……よし、約束だ。定年過ぎても、どっちの企画が筋がいいか、杖つきながら議論しようぜ」


夜のローマの真ん中で、あたしたちは深く長いキスを交わした。


周囲からの「Bravo!」という歓声と拍手が、心地よく耳に届く。


明日には、日本へ帰る。


そこには、戦場のようなオフィスと、山積みのタスクと、そして二人で築く新しい家庭が待っている。


冬弥に「可愛くない」と言われたあの日は、もう遠い過去だ。


今のあたしは知っている。


自分の人生を自分の足で歩き、愛する人と共に高みを目指す。その泥臭くて、熱くて、ひたむきな姿こそが、あたしにとっての「可愛さ(アイデンティティ)」なんだと。


「帰ったら、早速ミラノのプロジェクトの企画書、ブラッシュアップしなきゃね」


「ああ、部長を驚かせてやろうぜ。……愛してるよ、夏美」


「……あたしも。愛してるわよ、行人」


トレビの泉の女神が見守る中、あたしたちは未来に向かって歩き出した。


世界で一番騒がしくて、世界で一番幸せな、()()()()()のままで。


(新婚旅行編・完)

(物語 全編・完)

『お~るにゅ』を最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!

新婚旅行編の結幕をもちまして、夏美と行人の物語は完全完結となります。


失恋のどん底でビールを煽っていた夏美が、自分だけの「強さ」と最高の戦友を見つけ、異国の空で生涯の誓いを立てるまでを一緒に見守っていただけて、作者としてこれ以上の幸せはありません。


読者の皆様の毎日にも、夏美のようなタフで輝かしいハッピーエンドが訪れますように!

これまでたくさんの温かい応援、星やレビュー、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ