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快気

慎吾は、西成で荒れた少年時代を送っていた。

地元の不良たちと「闇天狗」というチームを立ち上げ、夜な夜な暴走と喧嘩に明け暮れた。地元のしがらみから抜け出せず、窃盗に、恐喝に、人を傷つける日々。時に、喧嘩でやりすぎてしまい相手に完治不能な程の重傷を負わせたとして、新聞に載ったこともあった。


罪の意識や後悔がなかったわけではない、ただやり場のない怒りを、何かにぶつけずにはいられなかった。生きる目的なんて、最初からなかった。ただ刹那的に、毎日いつ死んでもいい。そう思いながら、夜を走っていた。


ある晩、“族狩り”の黒塗りのベンツに追われた。仲間を逃がすため、殿を務めた慎吾の単車に車が接触。ガードレールへと吹き飛ばされ、鉄とアスファルトの隙間で、生死を彷徨った。目を覚ましたとき、右半身は痺れて動かなかった。

暴力しか知らなかった少年は、人生で初めて、“無力”という現実に打ちのめされた。


――そんな彼に、一年間寄り添い続けてくれたのは、若き看護師・東川愛だった。


彼女は看護師として働くかたわら、西成で炊き出しのボランティアもしていた。自身もディープ西成で生まれ育ち、貧困と孤独に苦しんだ過去を持つ。だからこそ彼女は、「ただ治す」だけじゃ足りないと知っていた。 “支える”医療、目を逸らさず寄り添う医療――それが、愛の原点だった。


そんな愛が慎吾と出会った。投げやりになる慎吾を、彼女は何度も叱った。


「慎吾君、あんたはまだ、生きてもないくせに、諦めるの?」


最初は反発しかなかった。うざったいとさえ思った。けど、暴力でも薬でもない、“本当の強さ”と、初めて感じる“温かさ”が、彼女にはあった。

その言葉だけが、自分をこの世につなぎとめていた。やがて、お互いの傷を舐め合うように、二人は惹かれ合っていく。


けれど、ある日。愛は言った。


「私、タイに行く。プライマリ・ケアの最前線で、あなたみたいな人を救いたいの。タイは医療技術も高く、スラム支援も進んでる。私にとって、本当に学ぶべき場所」


その言葉を聞いた瞬間、黙っていられなかった。


「――じゃあ、俺も行く」


「……なんのために?」


慎吾は少し俯いて、ゆっくり顔を上げた。その目には、もう、かつての荒んだ少年の影はなかった。


「……もう一度、生き直したい。そんだけや」

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