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血環 ー大阪・西成・ムエタイー  作者: 京田 学
六章 バンコク・ゼロ
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決心

タイ東部のチャチューンサオ県――首都バンコクから車で一時間半、工業団地の拡張計画が持ち上がっていた。日本政府も支援する国家規模のプロジェクト。電力、水道、道路、通信――そのすべてを日本の技術で丸ごと面倒を見るという、いわば“国を造る”仕事だった。


白水物産は、その中核インフラの一つ――「変電所建設」の独占受注を狙っていた。だが、地元の許認可が下りない。地権者がゴネている、という話だった。通訳を通して現地の関係者と交渉するも、埒が明かない。どうしても条件面が合わない。裏を返せば、誰かが利権の取り分を多く要求していた。正式なルートでは一向に話は進まない。そう判断した三崎は、地元のジャーナリストを通じて“別ルート”に打診した。


紹介されたのは、あるタイの名家に繋がる人物――ジャティス・チャラワン。通称「ジャッティ」。

彼は不動産業を名乗っていたが、裏では有名な存在だった。タイ東部一帯に勢力を持つマフィア組織”パンタ・ルアット会”の実質的なNo.2。


初対面の場で、訛りの強い英語でジャッティは三崎の肩を組み満面の笑みでこう言った。


「こんにちは。歓迎するよ日本の友よ」


話は早かった。ジャッティが動いた途端、許認可はあっさり降りた。

地権者たちも急に“話が分かる”ようになり、プロジェクトは再始動した。


しかし、代償も大きかった。

ジャッティは、地元下請け業者の選定全てに口をだし、相場より二割近く高い工賃を提示してきた。政府案件でありながら、裏のカネが動く。

社内では問題視する声が湧き上がった。


「ジャティス・チャラワンは裏社会の人間だ」

「企業倫理が問われる、白水の看板に傷がつく」

「足元を見られすぎている、違うラインから攻めるべきだ」


結局工事発注の社内審査が降りない。それをジャッティに伝えると、こちらの顔を見ようともせずぶっきらぼうに言った。


「日本人は妙なことにこだわる……また相談事があればいつでものるよ」


それ以後、タイ国内での細かな工事や案件に警察や軍の物言いが入るようになった。それだけではない、現場に投石。工事車両のタイヤが一斉にパンク。機材が盗まれ、作業員が襲撃される事件が相次ぐ。しかし、地元警察は動かない。それどころか、夜中に現場にやってきて「騒音の苦情だ」と圧力をかけてきた。


白水が築き上げてきた政府要人のラインから圧力をかけても状況は変わらなかった。

たった三ヶ月の工事でも二十七回も工事がストップさせられる。大幅な工事の遅れ、それに肝心の電所建設の許認可もおりない。完全に事業は暗礁に乗り上げた。


三崎は上長にも告げずジャッティの屋敷に単独で乗り込んだ。

結果さえ出せば全てを変えられる、そう信じて

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