エピローグ 他称勇者と、自称村人
「サナ、大丈夫かなぁ?」
あのあと。
アリサさんやガルスさんたちだけではなく、ギルマスや他の冒険者たち、さらには第一騎士団の生き残りも集まって魔王城へと向かっていった。お城の魔導師団による転移魔法を使っての、何とも慌ただしい出発だった。
「まぁ、サナなら何とかするよね」
だって、僕が一番サナの側にいて、一番サナの実力を見て来たのだ。サナが誰かに負けることなんてあり得ないし、心配する必要もない。
万が一サナが負けたら人間は滅びちゃうだろうけど……まぁ、その時はしょうがないんじゃないかな? サナで勝てないのなら誰でも勝てないし。そもそも、サナが負けて死んでしまった世界なんて存在する価値はないし。
もちろん、サナが負けるはずがないんだけどね。
というわけで。僕がいつものように開店準備をしていると、
「――ニキー。ただいまー」
いかにも不機嫌そうな声。間違いなくサナだ。
「おかえり! 心配していた――わぁ!?」
サナが! サナが血まみれに!? どうしたのケガしたの治療は!? あぁ今アイリスさんは魔王城に向かったばかりなのに! 入れ違いになっちゃったのか! あれでもサナも最近は治癒魔法を習得したはず!?
「ん。大丈夫。これは魔王の返り血」
「……返り血?」
「ん」
「なんだぁ、よかったぁ……」
僕が脱力していると、サナは珍しく笑顔を作った。
「魔王じゃなくて返り血に反応しているところが、ほんとニキっぽい」
「? どういうこと?」
「分からないなら、それでいい」
自分一人で結論づけてしまったサナは、ポケットから何かを取り出し、カウンターに置いた。
これは……赤い宝石? なんかどこかで見たことがあるような……。
「サナ、これは?」
「ん。魔王を解体していたら出てきた」
「解体って」
「復活されても面倒だから、パーツごとにバラしてきた。そしたら胸から出てきた」
「バラして……。へ、へぇ。胸からかぁ。じゃあ魔物で言うところの魔石なのかな? そういえば、みんなが救援に駆けつけたはずだけど、会わなかった?」
「バラし終えた頃にみんなやって来た。だから、面倒くさい後処理は全部任せた」
「ガルスさんたちも大変だなぁ」
そういえば一人目の四天王を倒したときもそんな感じだったんだっけ?
まぁ、サナは一番大変な魔王討伐をしたのだし、仕方ないのかな?
「じゃあ、とりあえず返り血を流さないとね。お風呂を湧かそうか」
このお店にはそんな設備はないので、パーティーハウスに戻ってからになるけど。
とりあえずサナの顔に付いた返り血を布で拭ってから、僕たちは並んでパーティーハウスへと歩き始めた。
……正直、まだまだ問題は山積みだと思う。
四天王は二人も残っているし、魔王を殺された復讐で魔族が奮起するかもしれない。うまいこと魔族との戦いを終えることができても、今度は人間同士の争いが待っている。王位継承権争いに、国家間の覇権争いに……。強大な力を持つサナは、否応なくそれらに巻き込まれると思う。
でも、きっと大丈夫。
サナなら何とかするし――サナのためなら、僕だって何でもするのだから。
「……んー」
普段は身だしなみに気を使わないサナだけど、さすがに全身返り血状態は不愉快なのかしきりに髪をぐしゃぐしゃとしている。
「ニキ、髪洗って」
「はいはい。サナはいつまで経っても甘えん坊だなぁ」
「私は一生甘え続けるから」
「サナと結婚する人は大変だなぁ」
僕がしみじみとそう言うと、赤黒い血で染まった彼女はなぜか嬉しそうな顔をした。
「ん。頑張ってね、ニキ」




