御使い様との契約
帝国領内は、全てが荒野だった訳ではなかった。
国境付近は、分裂戦争の直後から優先的に農地を撤去して、防衛に従事する為に、戦いやすい『荒地』にしたらしい。
当初は国境付近で武器も生産して、『武器の生産』と『戦いやすい荒野』の一挙両得だったという話だ。
しかし、両国の関係が落ち着いても、荒野が農地に戻るには時間がかかる。
戦場として数キロに渡って作られた荒野が、ミアの見た帝国のイメージだったが、他も王国と比べると、貧弱な農村が転々とするだけだった。
「あの山も湖も、自然の物ではなく、露天掘りの残土と採掘現場の成れの果てです。」
「せめて、残土で採掘跡を埋めれば良いのに。」
「平らな荒地も有るでしょう?最低限の農耕地以外は、埋めているのでしょう。しかし、そこから風に運ばれる金属砂が、最低限の農地さえ汚染する。」
農地の周りは、防砂林として、森が残されている。
遠目に森が見えれば、そこは農村なのだ。
「帝国には自然が無いのですか?」
「まだ、山岳地帯付近には、有る様ですが、まだまだ魔物が出るので、人が住むには危ないそうです。掟を破ってまで帝国がエデン侵攻を行うのも、そちらの方に農地を広げたい為だとか。」
「もう、御使い様との契約すら、守っている余裕が無いって事ですか?」
『御使い様との契約』とは、古文や宗教で伝えられている物だ。
世界創世の最後に、人間が創造された際。大陸を東西に分断する山脈を境に、不可侵を守る様に、御使い様を交えて決められたというお話だ。
「古の朝廷分断戦争と十年位前の『ハルシスの戦い』を経て、帝国は『人間相手より魔物相手の方が楽』だと考えたのでしょう。」
「天罰が下らなければ良いのですが。」
導師として、伝承を学んだ者は、比較的に御使い様の存在を信じているが、平民や他国に分裂した者達。それから一部の貴族は、心底信じている訳ではないらしい。
「山脈を越えた者は、惨殺されても仕方無いと言う話を聞いた事があります。」
ミアの言葉にイフィルが頷く。
「双方共に、守れない者が居ますが、報復はされていない様です。」
復讐の連鎖など、どこまで被害が拡大するか、判ったものではない。
「共に、指導者が抑えていたのでしょうが、帝国は限界なのでしょう。」
イフィルは、そう言って、悲しそうな顔をした。




