22、エルフの商会。
ミラーフィッシュとは、冒険者ギルドの危険度ランキングではAランクに位置付けられている魔物で、体が鏡のような鱗で覆われていることから名付けられた。
その素材。
特に鱗は美しい輝きを持ち、貴族の間で高値で取り引きされる。
しかし、その個体の少なさ。
そして、水中の戦闘の基本となる魔法攻撃を全て跳ね返すというその性質から、殆ど市場に出回らないものだった。
(利益を考えるならば商会としては喉から手が出るほど手に入れたい一品なわけだけど…
この人がリーダーで、本当にこの商会は成り立っているんだろうか…)
ミラーフィッシュの鱗を、光に透かして見たり、手触りを確かめて見たり。
落ち着かない様子の向かいに座ったエルフの女性に対して、リグは呆れた顔を浮かべた。
「シルビアさん…」
一向にこちらを意識しようとしないシルビアに対して、リグは痺れを切らして声を漏らす。
「ああ、済まない。ちょっと待ってくれ。
ほんのちょっとだけ!後数分!」
そう言って鱗を眺めるシルビアに、リグは大きくため息をついた。
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「落ち着きましたか、シルビアさん。」
「はい…」
どこか威圧感のあるリグに、シルビアはすっかり縮こまって答えた。
「僕もね、怒ってる訳では無いんですよ。
ただね、こっちは個人と言えど、商談の場でそういう態度は商会の長としてどうなんだって事でしょう。
ねえ。」
「はい…おっしゃる通りです。」
最初からは完全に立場は逆転して、いつのまにかシルビアの威厳は完全に存在になくなっていた。
「はあ、えっと、なんでしたっけ。
ああ、そうです、僕が来た目的ですよ。」
「そういえば、何故来たのかも聞いていなかったな。」
「まあ、これに関しては僕が悪い面もありますけど、本当に何も話は進んでいませんもんね。
それで、目的っていうのは、簡単に言えば、この商会に対して素材を提供する代わりに、このエルフの集落の居住権を頂きたい。」
軽い調子のリグに対して、シルビアも軽い調子で答える。
「いいぞ。」
「はい…って即答ですか。」
「まあ、これに関しては別に人間が住んではいけないわけではないし、お爺様に言えば問題無いだろう。
それに…お前は中々面白そうだしなあ。」
リグはため息をついて、そしてにやけ顔で返した。
「コロコロ表情を変えるあなた程では無いですけどね。」
シルビアはにやけ顔を一転させて、少し拗ねたような顔になる。
それに苦笑して、リグは外を見やった。
「それにしても、本当に時間食っちゃいましたね。
仕事とか、大丈夫…」
シルビアは時間を思い出したかの様に、日が傾き始めた外を見て、そして、彼女のデスクの上の書類達を見て、からくり人形の様にゆっくりと首をこちらに回した。
リグは今日一番のため息で答えて、思った。
(本当にこの人がトップで、大丈夫なんだろうか…)




