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Virtue and Vice  作者:
終章
22/22

エピローグ

 朝の日差しは眩しく、目を細めれば瞼がまどろみを求めてくっつきそうになる。あくびを噛み殺して、ふと正木結人は首を傾げる。

 何かを忘れている気がする。夢を見ていて、内容を全て忘れてしまったようだ。

 長い夢だったように思う。覚えていたいと思ったのに、するりと手から抜けていってしまったようだ。

 もう一度見ることも、続きを見ることもない。それだけがもやもやする。

 なぜ、夢如きに固執するのか、結人自身わからない。いつも見ては忘れているものだ。

 今朝の夢が特別だなどということはありえない。幸せな夢だったかと言えばそうでもないような気がする。

 昨夜はゲームをしていただろうか。しかし、あまり記憶に残っていない。


「おい、なんだよなんだよ。今のお前の目、線だぞ、棒線、一本線! 今なら簡単に似顔絵が書けるぜ」

 学校に着けばそうやってからかわれる。高校に入ってからできた友人だ。

「ほっといてくれ……」

 悪い男ではない。むしろ良い人すぎるくらいだが、結人としては今は一人にしてほしいものだった。

「折角、目が覚めるニュースを持ってきてやったのにな」

「悪いニュースか?」

「いいニュースに決まってるだろ? まったく、お前が話題に乗り遅れないようにと思ったのに」

 そう言われても期待は持てなかった。

 確かに周りは何やら騒がしい気がするが、できるなら、今すぐ机に突っ伏して眠ってしまいたかったのだ。硬い机でさえ愛おしく見える。

「転校生が来るんだよ。転校生」

「それも女の子! あぁ、恋の予感がする!」

 別の男子が割り込んできてどこかうっとりした様子で言った。美人の転校生など夢を見すぎだ。

「お前も見習って、少しぐらい夢を持てよ」

 ぽんぽんと友人に肩を叩かれる。見透かされてしまったようだ。


 やがて、担任が入ってくる。その後ろには少女の姿がある。制服を着ているが、まるで小学生のようだ。

(ああ、本当だったんだ)

 疑っていたわけではないが、ドラマみたいなことが本当に起こると思わなかったのだ。

 そして、俯いていた少女が顔を上げ、目が合った気がした。

 体が雷に打たれたかのようだった。これは既視感か。

 まるで前世での恋人に巡り会ったかのように何か感じるものがある。彼女に出会うために生まれてきたのだと大袈裟なことを考えている。

 また出会えた。喜び、心の奥底が震えて涙が零れ落ちそうだった。

 なぜ、そんな風に感じるかはわからない。けれど、どこかでは理解している気がした。救われたのだ、と。

この物語もこれにて終わりとなります。

Virtue and Viceをお読みいただきまして誠にありがとうございました!

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