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月並亭にて。  作者: 灯子
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この空気を一掃する為にかなめは話題を変えようと一旦息を吐いた。


「そういえば、さっき私が学校からそのままここに来た事を訝しんでませんでしたか」


とりあえず疑問に思った事が口をついて出たのだが、この話題が自分の首を絞めていると気付いた時にはもう遅かった。



「いえ。貴女が真っ先に僕を頼ってくれたのだと思って嬉しかったのです」



頬杖を付いたままにやにやと笑う金城を見て、かなめはほんの一瞬でいいから時間を戻せないかと切望した。つい今、一つ前の自分の言葉が発せられる瞬間の前まで。



「貴女が来る事は分かっていたのですが、本当に来てくれると幸せが込み上げて来まして」



この流れを変えたいかなめを軽く無視して金城が微笑む。しかし沈黙してしまったかなめを見て流石に話を戻した。



「その邪魔者ですが、大体目星は付いています。とりあえず今回の夢に関してはすぐに対処しました。だから貴女も最後までは見ていない筈です」


「つまり、その人が私にあの夢を見せたと言う事ですか?そしてそれを貴方が阻止したと」


「そうです」


「でも、そうだとしても、私があの夢を見る事が“邪魔される”事になるんですか?何故?」


「貴女をいたずらに不安にさせるでしょう。あの記憶は脚色されている。信じてはいけません」



では何故こんなにも嫌にしっくり来る夢だったのだろう?



「良いですか。惑わされてはいけません。僕が見せる夢以外はすべて嘘だと思いなさい。それから、今後も何かあればすぐに僕に言って下さい。怖い夢を見たなら僕にぶつけて下さい。一番してはいけない事は貴女一人で何もかもを背負い込む事です」


ゆっくり、言い聞かせる様に紡がれる。柔らかい声が身体に低く響く。



「私は大丈夫です。それより祖母が」


「お祖母様の事は、僕達二人で守りましょう。僕がすべて引き受ける、と言うと貴女は納得しないでしょうしね」



その通りだった。自分自身より大事な祖母を守るのは自分だ。自分だけの力で守りきれないのは悔しいが、彼女を失う事を防げるなら形振りなど構わない。

何よりも大切な恩人。一番なのだ。彼女がいれば他は何もいらない。



「貴女が冷静でいられなくなるのを相手は狙っているのです。だから貴女は常に意識していて下さい。闇に飲まれないで」



そう、全ては彼女の為。何があっても彼女に危害を加えない。その為には自分自身がしっかりしていないといけない。

無意識に下唇をぐっと噛んでいた所為で唇が切れたようで、口の中に鉄の味が広がった。けれど痛みは感じなかった。



「貴女の好きな人は貴女を裏切ったりはしません。だからこそ貴女は彼女を愛しているのでしょう?」



心地良い響きが頭上から身体を包んだ。




.......




「おかえり、かなちゃん」



玄関のガラス戸を引くと、いつも通り祖母が出迎えに来てくれる。

この幸せが他人に分かるのだろうか。もし何かの歯車の刃が一つでも欠けていたならば、今現在この幸福は泡沫と消えていたかもしれない。彼女が自分の前から消えてしまっていたかもしれない。

そんな薄い氷の一枚板の上に立っている。いつ失ってしまうか分からない。怖い。

怖いけれど、今が幸せで仕方が無い。


(一緒にいられるだけで嬉しい)



「ただいま。おばあちゃん」



.......





『それは只の幻想だ』


『お前は偽者だ。結局は“代替品”でしかない』


『図々しくその座を陣取っている』


『身の程知らずの化け猫め』



嫌、嘘、知らない。

やめて。



『その身体を返せ。その座を返せ。歪みは正さねばならない』



知りたくない。


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