南米トラップダンジョン
『馬鹿とハサミは使いよう』
馬鹿は馬鹿なりに使い道はある。
人間持ってる能力の全てが他人よりも劣っているなんて事はないのだ。
どんな人でも必ずいい所はあって、逆に必ず悪い所もある。
その悪い所がただ頭だったというだけ。
それが馬鹿。
その一つの劣っている部分が頭ってのは致命的でもあるんだけれど、頭の良い人が傍にいればどうなるだろうか。
人は支え合って生きるもの。
お互いの欠点やできない事を補いあっていけば良いだけなのだ。
俺たちは南米大陸へと来ていた。
南米と言えばアマゾンのジャングル。
エルドラールでは核攻撃によって失われているだけに、俺は少しジャングルを見るのを楽しみにしていた。
しかし‥‥。
「なんだ?アマゾンのジャングルが存在しないじゃないか?」
空から見下ろす景色は、延々荒野か草原かと言った感じだった。
「そう言えばどこかで聞いた事があるわよ。アマゾンのジャングルは作られたものだって」
「そうなのか?」
つかあんなジャングルを人間が作っただと?
俄には信じられないな。
「正確にわぁ~、人間が作った環境を放置した結果みたいよぉ~。人間が住みやすくした環境の成れの果てぇ~」
「なるほどねぇ」
昔の人はこの辺りで生活していて、おそらく食料となる木を植えたり、畑なんかも耕していたかもしれない。
そんな人たちがこの辺りに住まなくなってジャングルになったと。
「わしらが住んでいたジャングルをもう一度見られると思っておったのじゃがのう。残念じゃ」
俺も残念だよ。
核で失われた場所がどんな所だったのか。
見られると思っていたんだけれどなぁ。
自然ってのは、一度失われるともう同じ形では戻ってこない。
人間が最も大切にしなければならないモノの一つだと、俺は改めて思わずにはいられなかった。
「おっ!アレ!ダンジョンの入口じゃね?」
砂利の指差す方向に、確かにソレらしきものが見えた。
「間違いないの‥‥」
狛里がそう言うなら間違いないだろう。
それに今までの入口とは少し雰囲気が違うけれど、こんな所に扉らしきモノがあればほぼ確定なんだよね。
ジャングルが見られなかったのは残念だけれど、ダンジョンが見つけられたなら良しとするか。
俺たちは自然にその入口前へと降り立った。
「さあ又やっぜ!此処も攻略するってー事でいーんだよな?」
「ああ‥‥」
とは言えこの入口‥‥、何か仕掛けてあるな。
魔力を感じる。
しかし砂利はそんな事などお構い無しに扉のようなものを押し開けようとした。
すると魔力が急に大きくなり、触れている者に電撃を放つ。
「うぎゃー!」
砂利は扉と反発するように後方へ飛ばされた。
「迂闊だな。何の為に前のダンジョンで十徳道具を手に入れたんだ?冒険のセオリーを考えれば簡単に分かりそうなもんなんだけどな」
「くっ‥‥。そーいう事かよ‥‥。こんな魔法も必要って訳か‥‥」
倒れていた砂利は立ち上がり、再び扉へと近づいていった。
まあ低レベル冒険者なら此処で死んでいた可能性もあるけれど、砂利なら全く問題はない。
砂利は魔法で十徳道具を具現化させ、スコープで罠を確認する。
罠の種類を確認すると、自然と道具が解除動作を始めて直ぐに扉から感じる魔力が消え失せた。
「結構優秀な道具なのね」
「この罠が簡単に解除できるんだから、大抵の罠には対応できそうだな」
「うおー!すんげー!もう俺冒険者としてかなりやれんじゃね?」
パーティー組むならそこそこやれそうだけれど、一人だと流石に難しいだろ。
魔法は初歩のマジックミサイルだけ。
物理攻撃は武器のおかげで中級冒険者レベル。
シーフ系スキルは十徳道具のお陰でかなりのものだし、敏捷性に全振りしているらしいからこのクラスなら割と上級冒険者って感じだけれど、不器用だから伸びしろは無いだろう。
そして冒険で最も必要な回復系魔法が皆無。
これは必ずおさえておきたい魔法。
更に‥‥。
ダンジョンに入ると、直ぐに砂利を襲うのはトラップだった。
「なんで入口入って直ぐに矢が飛んでくんだよ!」
砂利の顔や背中、そして腕に矢が突き刺さっていた。
こいつマジで馬鹿だな。
入口で何も学んでいない。
此処はおそらく罠ダンジョンなんだよ。
察してくれ。
「このダンジョンには罠がいっぱいなの‥‥」
「常にスコープを通して見た方がいいわねぇ~」
「分かったよ!つか俺にこれだけ矢が刺さっているのは、誰も突っ込まねーのかよ!」
「問題ないよね?」
「ねーけどさ」
砂利はそう言いながら自ら矢を抜いていた。
抜いた時、特に血が出る事も傷が残る事もない。
オリハルコンスライム人間なのだから。
「矢が刺さっている顔が間抜けだったのです!」
「正に矢鴨なのね!」
突然少女隊が影から出てきて、砂利を指差して笑っていた。
「今更思い出したようにツッコミなんていらねーよ!」
「『突っ込まねーのかよ』って言ったのは砂利ボーイなのです」
「妃子たちは親切でやってあげたのね」
「そうかよ。もーいいよ」
流石は少女隊だ。
他人を馬鹿にできるなら、影の中で眠っていたとしても起きてきてやる。
それにしても『矢鴨』って懐かしいな。
ボーガンの矢がカモに刺さっているのが発見され、テレビのニュースでよく取り上げられていた。
今更だけれど、少女隊と話すのが楽しいのは、必ず俺の話題に対応できてしまう所もあるのかもしれないな。
自分と話していると考えると冷めるけれど、少女隊とは一心同体であって同一ではない。
俺の記憶を持った完全な別人格。
俺にとって実は一番大切な存在なのかもしれないと思った。
「こっからはずっとスコープを使ってやっぜ!」
砂利はスコープで見ながらダンジョンの奥へと進んでいった。
すると今度は魔物が砂利を襲う。
当然スコープを使っている分対応は遅れた。
頭から狼の魔獣にかぶり付かれる。
その拍子に十徳道具も粉砕された。
「うおー!俺の十徳道具がー!」
道具も大切だけれど、普通は頭の心配するよな。
それに道具は魔法で作り出せるから、別に破壊された所で痛くはない。
砂利は直ぐに刀を抜いて魔物たちを斬り刻んでいた。
「はふー‥‥。みんな助けてくれよ。十徳道具が消えちまったぞ?」
砂利はマジで少し落ち込んでいるようだった。
そんなの、直ぐに復活させろよ。
「もう一度魔法で出せばいいの‥‥」
狛里の言う通り。
「残念ながら‥‥。魔力がもうねーんだわ‥‥。どうすりゃいーんだー!?」
砂利は吠えていた。
そうだったな。
砂利は魔力がまだまだ少ないんだ。
しかし、魔力が少ない理由もなんとなく分かってきたよ。
魔力は知力と相関関係を持つ所が大きい。
つまり砂利は、とにかく馬鹿なんだ。
現に推古はここ数日で砂利の三倍以上は魔力が増えてるし。
それでも、馬鹿は馬鹿でも此処まで攻略に支障が出る事もない。
それだけの耐久力を砂利は持っている。
「どうするもこうするもぉ~、砂利ちんなら何も問題ないわよねぇ~。進めばいいのよぉ~」
「トラップも魔物の攻撃も、どうってことないんだから」
「それなりに痛いのよ?‥‥それに絵面がヤベーんじゃね?」
「菜乃なら顔でカバーするのです」
「そうなのね。顔さえ良ければ全て許されるのね」
みんな言うなぁ。
でもその通りでもある。
可愛いは正義だし、だいたい顔でカバーできてしまうのが人間なんだよ。
例えば服装がダサくても、顔が超イケメンなら『ファッションだ!』で押し通せる。
いくら性格が悪くても、可愛い女はモテてしまう。
だから頭に矢が刺さっていても、顔が良ければヤバくはない。
矢鴨だって可愛い顔してるから、それでカモの評価は下がらなかったよね。
「なんかよくわかんねーけど、大丈夫っつーならいーよ‥‥」
なんとなく砂利は納得させられ、トラップがあるのを分かっていながら先頭を一人行くのだった。
道中全てのトラップを受け、魔物に体を引きちぎられようと、砂利はくじけず突き進んだ。
何も問題がない。
このやり方が最適解。
十徳道具なんてなまじ手に入れてしまったが為に、最も良い方法を忘れる所だったよ。
「本当にこれでいーのか?」
「当然だ。魔力も温存できるし、俺たちは何もしなくていい。最高じゃないか」
まあ狛里は今日も一生懸命戦っているけれどね。
砂利一人じゃ倒すのに時間がかかるからさ。
「ちっとは何かしてくれてもいーんだぜ?つか微妙に痛みはあんだからな!刀に当たってねーから今の所は問題ねーけど」
「これは砂利ちんを鍛える為なのよぉ~。何時までも弱いままじゃ嫌でしょ~?」
「そりゃ‥‥。つかチートに生まれ変わる予定だったのによ。なんで俺はこんなによえーんだよ‥‥」
いや、メチャメチャチートだと思うぞ。
おそらく魂が直接やられない限り、絶対に死なないし負けないんだからさ。
ただ、俺たちと比べちゃ駄目だ。
神だったり世界のバグだったり、おそらくこの世界最強の推古だったり。
類は友を呼ぶって云うけれど、毎度の事ながらつくづくそれな。
そんな事を考えている間も、砂利は必死にトラップに魔物に対応していた。
そしてとうとうダンジョンは最終章を迎える。
「なんとか来たぜ?ボス部屋だろ?」
「そのようじゃの」
「今度も砂利ちん一人で頑張ってねぇ~」
「わーってるよ」
砂利は一応十徳道具を使って、ボス部屋への扉を確認した。
特にトラップは無く、問題なく入る事ができた。
砂利も少しは成長しているようだけれど、ボス部屋の扉にトラップがあったって話は聞いた事がないな。
魔力のムダ遣いだけれど、特には影響ないだろう。
さて、どんなボスが出てくるか。
普通に考えればリッチよりも強いのが出てくると思うけれど‥‥。
部屋の奥にその姿が確認できた。
俺は神眼で確認する。
「魔法騎士か」
この世界が零界だからって、まさかそう来るか。
となるとおそらく、この世界のラスボスなのかも知れない。
そうでなくても、きっとかなりの強敵だ。
身長は三メートルほどある。
持っている武器はナイトリーソード。
体格に合わせた長めの剣で、刺突・斬撃・打撃と何でもできる。
進化系のロングソードほどの切れ味は無いし、間合いもそれよりは狭いけれど十分広い。
砂利の刀では、間合いに入る事もできない。
どう戦う?
「じゃあいくぜ!」
砂利は真っ直ぐ突っ込んでいった。
当然間合いに入る前にナイトリーソードが砂利を襲う。
既の所でしゃがんで交わすも、返す剣に捉えられ砂利は吹っ飛ばされていた。
「クッ!燕返しかよ!」
燕返しというよりは、団扇を仰ぐような感じで剣を返されている。
片手で戦う事に特化された剣なので、ロングソードよりも軽くこういう攻撃もできるのか。
しかし砂利の耐久力は並みじゃない。
刺されようが斬られようが打たれようが、致命傷にはなり得ないのだ。
砂利は立ち上がり再び向かって行く。
「うらぁ!やったるで!」
今度はナイトリーソードを刀で受け流そうとした。
「ウオー!いってぇー!マジ、クッソナイトだな!」
刀が本体だからな。
マジで痛そう。
しかしマジクソナイトね。
ダジャレが言えるなら余裕か。
でも力の差は歴然。
結局刀は弾き飛ばされる。
おいおい、魂のウンコ刀と体が離れたらどうなるんだ?
魔法騎士は本体であると思われる体の方に攻撃する。
砂利はそれをモロに受けるけれど、体はそれに耐えていた。
オリハルコンの体だからな。
ある意味盾で受けているのと変わらない。
そして‥‥。
刀が魔法騎士目掛けて飛んで行き、首元辺りを突き刺していた。
そんな事もできるのね。
刀だけで動いている方が、実は強い説。
但しこの攻撃だけでは仕留めきれていない。
魔法騎士は首に突き刺さる刀を手で掴み抜こうとする。
その刀に向けて砂利の体がジャンプして、柄の部分に飛び蹴りをした。
すると魔法騎士の掴む部分を軸にして、刃の部分が首を斬り飛ばした。
魔法騎士の首からは、体液が吹き流れ出る。
「どうよ?!これなら殺れたんじゃね?」
「凄い凄い」
狙って殺れたのならナイス攻撃。
「まあ偶々じゃろうな」
「偶々よねぇ~」
「運が良かったの‥‥」
「うん‥‥。運も実力の内って云うよね」
‥‥。
運は挑戦した者だけが手に入れられるし、回数を重ねればその分必然に近くなる。
「つかなんで俺は体も刀も両方自由に動かせてんだー!?」
分かってないのかよ。
でも確かにこれは不思議だ。
俺の場合、体の一部が切断されたら、魂のある方は自由に動かせるけれど反対側には自由がない。
切断された体は自動で本体へと戻ろうとするし、それを阻む何かがあっても念力や念動力で動かす事は可能だ。
それでも離れた体を無意識下で動かすなんて今まではできなかった。
生きていないモノでも生きている。
その常識ハズレの力は凄いと思うよ。
但し、できる事には限りがあるように感じるな。
ウンコだと視界はあっても動けなかったようだし、刀は自由に飛行できたりするようだけれどパワーはなさそうだ。
そもそも命の無いものに関しては、何になるかで行動範囲が決まる。
人の形であるのが一番良さそうか。
砂利は魔法騎士を倒してこちらに歩いてきた。
「まっ、楽勝だったぜ!」
「こんなに早く倒せるとは思っておらなんだわ」
「相手が弱かったの‥‥」
「狛里から見れば全部弱いだろ。思った以上に砂利は強いよ」
戦い方次第では、初見の相手であろうと今日のように簡単に勝てるようになるだろう。
尤ももう少し魔力が無いと、攻撃が通らない可能性もあるけれどね。
「あっちに宝箱があるわよぉ~」
「おっ!マジか!?今度も俺が開けっぜ!」
砂利はそう言って宝箱へと走っていった。
影を見ても少女隊が反応していないので、どうやら中身は大したものではなさそうだけれど‥‥。
宝箱の前に立った砂利は、迷わず宝箱を開けようとした。
全く、結局学ばない奴だな。
感情が前に出てしまうと我を忘れてしまう。
砂利は宝箱のトラップに引っかかり、歩いて向かっていた俺たちの前まで電撃で飛ばされてきた。
「うぉー!いってぇ!」
「砂利ってカモよね」
「このダンジョンが誰かによって作られたものだとしたら、思惑に完全にハマっているな」
「でも制作者としては喜ばしいお客様だわぁ~」
ウンコでハエでカモ‥‥。
もしかしたらこいつ、辿ってきた進化が行動に現れてしまうのかもな。
ウンコな頭、宝箱に集るハエの如く、そしていいカモ。
ならば推古と一緒になった事は、きっと将来大きな力となるに違いない。
今の所最低だけどね。
砂利は十徳道具を使って、今度は慎重に宝箱を開けた。
中には今までと同じくスクロールが入っていた。
そこには『プチキュア』とだけ書かれている。
できれば『二人は』みたいな何かが欲しかったな。
俺はなんとなくそんな事を思った。
「じゃあ開けっぜ?」
「ああいいぞ」
俺が許可すると、砂利はスクロールを広げた。
直ぐに魔法が自分のモノとなる。
それは俺にも伝わってきた。
これは‥‥、なかなか使い勝手の良い万能回復魔法だ。
あらゆる体の異常を少しだけ回復させる魔法。
怪我や状態異常全てに対応が可能。
但し効果はあまりに小さいし、多くの事に対応できる分魔力効率は悪い。
でも魔力が大きくなってくれば、魔法を連続して重ねがけする事でどこまでも回復が可能。
今の砂利は魔力が小さくて使い勝手が悪いけれど、もう少し増えてくればこれはかなり使えそうだ。
砂利は意外に魔力回復速度が早そうだからな。
俺は使い終わったスクロールを受け取り、それを丸めて異次元収納へとしまった。
推古も使えるようにしてやりたいからね。
「じゃあ出るぞ」
そんな感じで、南米大陸のダンジョンは攻略して終えた。
次の日から、俺たちはオーストラリア大陸へと渡った。
此処で地図は最後になる。
南極や北極、或いは小さな島々は、凜々たちに行ってもらっていたからね。
何かあるかもしれないけれど、何も無さそうな所に行ってもあまり意味がないからさ。
結局、凜々たちには何も見つけられていなかった訳だし。
あそこ以外は‥‥。
そんな訳でオーストラリア。
俺の勘だと、ダンジョンは南米ので最後な気がする。
ラスボスが魔法騎士だったし、最低限必要な魔法は揃ったからね。
とは言え此処には何かがある気がするんだよな。
俺たちは、此処が最後の大陸でもあるし、ゆっくりとピクニック気分を楽しみながらオーストラリアを駆け回った。
そして二日目、大陸の中心に近い所で俺たちは見つけた。
エアーズロック辺りだろうか。
そこよりも少し東に当たる所。
地面に巨大な扉があるのを見つけた。
「んだよこれ?これ全体がドアか?」
「そのようじゃの。ダンジョンの入口にしては大きすぎるのではないか?」
「策也ちん?」
「魔力を感じるの‥‥」
「父さん、これはアレね」
みたまは分かっているよな。
シャオとかって魔法使いの物語。
あの世界ときっと同じ。
「魔界への扉だな」
リセットワールドには魔物はいない。
しかし既にここは俺の零界として動き出している。
魔物が現れようとしていても不思議ではない。
なんせ今の俺にとって、魔物のいる世界ってのは普通になっているから。
「魔界だと?!この先の世界全てがダンジョンの中みてーって事か?」
「そういう事だな」
さてどうするか。
俺たちはとりあえず扉の上へと降り立つのだった。




