月下の舞とダムの崩壊
ボス討伐翌日 攻略組会議室 緊急会議
「ぬうっ一体誰がアーマークラブを殺ったというのだ! 抜け駆けしおって。おいセインッお前ではないのか!?」
怒気の篭った声が響く。
「第一攻略組なんかを作ったのも勝手に討伐されるのを防いで利権を獲得しようとしたからだろうっ!! それに最近では、称号は最初の一人しか会得出来ないと聞く! 其の様なものがボス討伐に関しても無いとは言えんっ。明らかに怪しいのはお前なのだ!」
声を荒げセインに突っかかっているのは<SSS正規軍>のガルドだ。
最近噂になっているボス初回討伐ボーナスや称号を他ギルドに奪われるのではと焦り躍起になっているのだ。因みにその噂が出たのは、魔王達がレストランで食事を摂りながら大声で喋っているせいである。
「おいおっさん、んなわけねえだろ。第一ボス討伐があった時間帯はここで会議して終わった直後だろうが。それに、有名ギルドの連中がそんな行動すれば一発でバレるに決まってんだろ。まあ、お前のとこだったらやりかねねえけどなあ? 第一そんなに騒ぐって怪しいんだよ!!」
ガルドの発言に、沸を切らしたのか<鷹の目>のロジャーが挑発する。
「なにっ!? 貴様この俺を侮辱する気か!! 第一お前もお前で怪しいのだっ!! そういえば、やけに攻略組の結成に協力的だったではないか? それにお前のギルドの隠密があればバレずに行うことも可能ではないかっ!!」
「ああ!? んだとコラ!! お前みたいな正規軍とか言ってお山の大将気取ってるクソ野郎と一緒にすんじゃねえよ!! そんなに疑うんだったら先ず自分のギルドのくそソフィスト共がやってねえか調べてから言えよ? でもお前らじゃ、死者も出さずにボスを倒すなんて無理か。」
「.......んだと貴様っ!!!? もう一片言ってみろ!!! お前の弱小ギルドごと叩きっドゴオオオオオ!!!!!!!!」
――――――言い争う二人の言葉を断つ様に、凄まじい衝撃音が会議室に響く。
「「「「っ!!??」」」」そして部屋に座る全員が一斉に音の方へと顔を向ける。
「そろそろ黙れやクソが..............マジで殺すぞ....?ニャあガルド?」
――――場の空気が一瞬にして凍る。そこには巨大な大鎚をテーブルへと撞く、ギルド<獣耳>のマスター「ネコ」が立っていたのだ。
この「ネコ」というプレイヤーはSSSで最恐の呼び声高い猫耳を生やした女性プレイヤーである。
年齢は顔立ちや身長からすれば18、19と言った辺りだろうが、彼女は童顔であったので実年齢は+5、6歳といったところであった。彼女が最恐と言われる様になったその原因は、プレイヤー間で知らないものはいないと言ってもいい事件、通称<獣狩り狩り事件>の所以ある。
その前身<獣狩り事件>とは、獣耳を着けたプレイヤーだけが何故か街外で執拗に狙われ、連日謎のPKによる大量の被害者が出たという猟奇的殺獣人事件である。しかし、その犯行を行ったとされるプレイヤー達は、ある日街の広場の中央に吊るされ、生気を失い茫然自失としていたというのだ。勿論、これがネコの仕業である。
因みにPKを行ったプレイヤーは街中でもある制限が解除されるのはSSSでは有名な所である。PKを行った殺人プレイヤーは名前の色が赤となり、町中でも手錠と言う拘束具を他者から強制的にはめられる様になるのである。
その殺人プレイヤー達からなんとか話を聞きだすと、なんと一人の猫耳を着けたプレイヤーにやられたと言うのだ。その日も獣耳を着けた者に狙いを定め、襲いにかかったていたところ、突如「ネコ」に妨害されたと言うのだ。
しかし、その後が悲惨であった。ネコに倒されたプレイヤーはそのまま、その巨大な大鎚によって手足を潰され、死にそうになると回復、また大鎚を振られては回復、潰され回復、潰され回復と何時間も攻撃され続けたというのだ。
一応、痛感は大幅にカットされてるとは言え、思いっきり蹴られるぐらいの痛みはある。さらに、その痛みと抵抗も出来ず手足を潰され続けるという恐怖は永遠に続くかの様にも思えたのだろう。体を動かす暇もない怒涛の衝撃に、そのプレイヤー達の精神は壊されていた。
因みにこれ以降、使えないスキル第一位<自爆>を着けるプレイヤーが増えたというのは、この<獣狩り狩り事件>のせいである。但しデスゲームの開始により、またしても自爆は使えないスキル第一位に返り咲くのであった。
「っ!!.....わ、わかった....冗談だ。」ガルドはそのネコが切れる姿に、冷汗を流していた。
「わかったなら良いニャ。さっさと会議を続けるニャ」その言葉に安堵のため息が流れたのは言うまでもない。
それから、粛々とした雰囲気で行われた会議では様々な情報が集められた。
ボス討伐の情報は、街の中央付近「攻略の神殿」にある石碑に嵌められた五つの結晶の西側、北を上にして左の宝石が光っていたのをあるプレイヤーが確認したところから始まる。
その後、始まりの海岸で狩りを行っていたプレイヤー達からの情報が寄せられたのだが、その様子を実際に見たプレイヤーは居なかったこと。
「死者の神殿」にその時刻アーマークラブの攻撃によって死亡したと書かれた一人のプレイヤーが居たこと。海岸では野獣の様な男が確認されたことなどであった。
そうして決定的な情報は得られないままこの緊急会議は終わった。
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初のボス討伐から数日後の夜 ユリ
(ハイダッシュ!スラッシュ!バックステップ!ファイアランス!...ハイダッシュ!フォーススタブ!スウェイ!ブンッ!サイドステップ!アースウォール!ッゴクゴク!...ハイダッシュ!スラッシュ!スラッシュ!スウェ........イアボール!....ッシュ.....)
「ふう、まだまだね.....回復薬を飲む時に無駄が出来る。それにこんなんじゃあの時の.....あの状態のボスになんか勝てない」
ユリは技能の神殿の一部屋でスキル連携の練習していた。真面目で努力家なところもあってか、ユリのそれは他の熟練したプレイヤーにも劣っていなかった。
勿論パーティではこの様な戦い方をする必要がない、というか他のプレイヤーの邪魔にしかならないので出来ない。それでもユリはβテストの時から直直、スキルを駆使した多段攻撃の練習をしていた。
SSSの中で最も有名なソロプレイヤーであろう、「朔夜」 のただ一つのプレイ動画を見て以来、それはユリの憧れであった。
エリアボスに対し一人で挑み、一撃も喰らうことなく激しい連続攻撃を浴びせ続け、圧倒的なスピードで舞い、華麗にボスモンスターを屠る。
消費したMPやSPを頭の中で計算しているのであろう、攻撃の手を一時も緩めることなく、しかも完璧なタイミングで回復薬を飲む。
型に嵌められたかの様な一連の動きは、もはや芸術の域に達していた。
その手に持つのは一本の片手剣のみ。無駄を極限まで削ぎ落としたその動きは、ユリを惹きつけて止まなかった。
それ故にユリは盾を持たない。
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同じく、その日の夜 魔王
「ふんふふん。今日は何をしようかの。大剣の扱いにも慣れてきたし、そろそろ強い敵と戦ってみたい。そう言えばここのボスとやらは何処に居るのだ?少し探してみるか.....」
魔王は始まりの草原をまるで散歩するかの如く進んでいた。
途中スライムドスやらゴブリンにワーウルフなどと出くわしたが、大剣の技スキルを使い軽々と屠っていた。
そして30分も右往左往しながら歩いたところで、一匹の巨大な狼を発見する。体高6mはあろうかという巨大な狼の魔物である。
しかし、その様子が可笑しい。まるで自身に集る羽虫でも追い払うかの様に飛び跳ねたり、前足を振ったりしているのだ。
「む.....なんだあれは?」
目を凝らすと其処には一人。
自身の何倍もあろうかという巨体に張り付き、尽く狼が繰り出す攻撃をさらりさらりと躱す者が居た。
その様子を良く見ようと、魔王は巨大な狼の下へと近付く。
「ゴラウルルッ!!」
ヒュン!ザッ!ボウッ!!ダッザザンッ!!
速く的確に躱す――――その姿はまるで、舞台に立ち華麗に舞う踊り子の様であった。
但し、その手に光る刃が次々と狼の身体を切り裂いていく...
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獣と戦う少女
私は朔夜――――夜に咲く花。
それが私の名前。
私は小さい頃からダンスを習っていた。
所謂バレエ、私にはその才能があった。
小学校に入る頃には国内に敵なし。
コンクールでは毎回一番だった。
そして海外のバレエスクールから推薦ももらった。
私と同じ様な人がいるというその場所に行けるのが純粋に嬉しかった。
でもそこでも私は一番だった。
そのせいで嫌味だったり陰口だったりを言われるのにはもう慣れた。
踊るのが好きだったし、私には才能があったから。
いつの間にか踊る事は、私にとって生きること息をするのと同義になっていた。
でもあの日......何の前触れもなく私は息を止めた。
死んだ訳ではないけど、本当に死んだも同然だった。
皆は私のせいじゃ無いと言うけど、じゃあ私はどうすれば良かったの。
朝、家を出るのが遅ければよかった?
途中でお店にでも寄れば良かった?
もう少し早く歩けば良かった?
もう何もかもどうでもよくなっていた。
それから私は踊るのを辞めて日本のお家に帰った。
そして、ある日、私は <sword skill story>に出会った。
私が通い始めた中学校で生徒がSSSの内容とβテストのことを話しているのを偶々聞いたことから始まった。
私はそれを聞くと早速お母さんにお願いした。
そしてお母さんは不思議と喜んで応募してくれた。
私はβテスターに当選した。
3年生のクラスに突然編入した私に友達なんか居ない。
それに昔からそういうのは苦手だったから。
そんな私は自然とゲーム内でもソロプレイヤーの道に走っていた。
そして、私はSSSにどんどんのめり込み、いつしかボスでさえも一人で討伐出来る様になっていた。
私にはダンスの他にも才能があったみたいだ。
こんな身体でもこの世界では自由に踊れる。
ううん、現実以上に軽やかに踊ることが出来た。
でもある日、ボスと戦っている時の姿を他のプレイヤーが撮っていたらしく、その動画はインターネット上にに勝手に挙げられていた。
それからは最悪だった。
街を歩けば知らない人から声を掛けられ、パーティに誘われ、スキルを聞かれ、しまいには暴言すら浴びた。
だから私はこんなことを考えながら、誰も居ない時間、こんな場所で巨大な獣を前にして踊っている.....
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魔王は一人の少女と一匹の獣の戦いを真剣に眺めていた。
(....なんと美しく激しい戦い方だ。まるで舞い踊っているかの様な身の躱し.....この様な動き初めて見たぞ)
少女は一人の少年が自分の戦いを見ているなど知らずに黙々と華麗な舞を続けていた。
しかし、巨大な狼の牙を避け宙をクルりと舞った時、その視界に一人の少年の姿が目に入る。
「ッ!!?」
その不意の事実に、少女はたじろぎ次の動作への判断が一歩遅れる。
その隙を逃す筈も無く、巨大な狼はその爪を少女に向け振った。
「つっあ!!」回避が遅れ攻撃を喰らう。
直撃は避けたが少女の身体は吹き飛び、勢い良く地に叩き付けられる。
「ッ!! マズいっ!!!」
魔王はそれを見るやいなや一本の大剣を抜き走り近付くと、今まさに追撃を仕掛けようとする狼の顎に向け大剣を切り上げた。
ヴンッ!!!その一撃は狼の下顎に、鋭い一筋の裂傷を作る。しかし、傷は浅いのかポタポタと血が流れ落ちる程度だ。
「大丈夫かっ!?邪魔をした様で済まないっ!!」
吹き飛び地に蹲る少女は、顔を上げヨロヨロと立ち上がり腰に着けた小さなアイテムボックスから一本の小瓶を取り出すそれを飲み干す。
「いえ......もう大丈夫よ。」
再び剣をスラリと構えた少女は感情を殺し、警戒した様な声で答える。
「む、ならば良かった。手助けは無用か」魔王はその様子を見て、後ろに飛び下がる。
元はと言えば自分の存在が邪魔をした様だと悟り、助太刀は不要と思った様だ。
「ええ。」それからまた獣と少女の戦いが始まった。
先程の出来事が嘘の様に安定した戦いぶりで、再び巨大な狼のHPを削っていく。
もう残りのHPは2割程度といったところだ。
朔夜が戦うのは「ブラッドウルフ」。
赤黒い体毛を生やした巨大な狼のモンスターである。始まりの草原のエリアボスであり、その俊敏な動きと強力な爪牙からSSSを始めたばかりのプレイヤー達を尽く葬り去り、「初心者殺し」の名が与えられていた。
実力で言えばアーマークラブには劣るであろうが、初めてのボスとの戦いに慣れていないプレイヤー達にとっては十分過ぎる程に脅威であった。
そうして例の如く、ブラッドウルフは紅い光を纏い始めると黒く紅い身体はさらに不気味になっていった。
「グルルルァッ!!!アオオォォォォーーーーーンッ!!!!!」
「っ!!」
巨大な咆哮と共に、急に加速したブラッドウルフに合わせ、朔夜はその攻撃をさらに素早く躱す。しかし、完全には避け切れていない様で徐々にではあるが朔夜のHPは減っていた。
だがそれでも、ブラッドウルフのHPもまた同様に、徐々に徐々にと削られていく。
お互いのHPは減り続け、両者の激しい動きも相成って、遂にはその赤色すら見えない状況となっていた。
魔王はというと、少し離れた処からその様子静かに眺めていた。
この戦いを見始めてから既に1時間は経っているだろう。
それでも両者は休むことなく、剣を振るい牙を向ける。
そうして.......いよいよ....その時が訪れる
身体に絶えること無く纏われた蒼い光は消え、もう一歩たりとも動けないという様子で少女はガクンと膝を着く。
それと同時に巨大な狼に纏われた紅い光を消し去り、ズドンと鈍い音を上げ地に倒れる。
――――――両者の戦いは、人間の少女の勝利で終わったのだった......
テレレテッテレー♪
テレレテッテレー♪
<称号:<大物を喰らう者>を習得しました>
様々な情報と共にそんな文字が少女の目の前に現れる。
「称号.....?」
「フッフッフ...<大物を喰らう者>.....ではなかったか?」少女はその声に気付くと、急ぎ取り出した回復薬を飲み干し剣に手を添える。
「.....!?こんな場所に一人で.....誰?」
突然目の前に現れた男、称号「大物を喰らう者」のことを知っているであろう二本角の生えたその少年に、少女は警戒する。
イベントか何か?いや、さっきブラッドウルフに攻撃していた。だとしたらプレイヤー?でもなんでこんな時間に....少女の頭には疑惑の念が泡の様にフツフツと現れては弾けていた。
「む、警戒させてしまった様ですまん。我も一度その称号を目にしたのでな。それと、ここのボスを一目見てみようと歩いていたのだが、そしたら先の戦いが行われていてつい観戦させてもらったという訳だ。
それにしても美しい戦いであった。あの様な戦いぶり初めて見たぞ。本当に美しい戦いであったな」
その少年の言葉に少女は警戒を緩める。変わった姿をしているが声に悪意は見えなかった。それどころか、妙に落ち着いた声と喋り方に不思議と安心してしまうのだった。
(私の事は知らないみたいだ...)「そう.......」
「ん?なにやら浮かない顔だな。せっかくあの巨大な敵を倒したと言うのに嬉しくないのか?」
嬉しくない訳じゃない。でもどう表現して良いかわからない。それに、
「あまり人に戦いを見られるの得意じゃない」
昔はそうじゃなかった。
でも今は苦手だ。
あんな事があってから、人前で戦うのは不安になる。
「そうであったか....お主の戦いは確かに人を惹きつけるものがある。色々とあるのだろう、済まぬな。」
不思議とこの人は納得してくれた。
なんというか見た目は子供なんだけど、おじいちゃんと話しているみたいな気分だ。
人と話すのが苦手な筈なのに、何故だか緊張しない。
「いいの.....私は朔夜。あなたの...名前は.....?」
「我か?我は魔王ディザスターという。.....この世界の者にはあまり信じてもらえぬのだがな。」
目の前の男の子は変な事を言う。でも私は不思議とその言葉を信じた。
嘘を吐いてる様には思えなかったから。
「そう....信じる。」
「なんと信じてくれるのか!!朔夜と言ったな、お前の様な素直で優しい者に会えるとは今日此処に来て本当に良かったぞ。フハハフーハッハッハッハー!」凄い嬉しそうに笑っている。
魔王は本当に不思議な人だ。
「そうだな、我を魔王と信じてくれた礼に朔夜に何か馳走しよう。」
そう言うと魔王は小さくスキップしながら歩きだした。子供みたいで、でもおじいちゃんみたいで何だか可笑しい。
「ふふっ.......あっ!?」気付くと私は声にだしていた。
笑ったのなんて本当にいつ振りだろうか。
たぶん小学生の時にお家に推薦状が届いてお母さんに報告した以来だ。
なんでこんなことで笑ってしまったのだろう?
でも自分に驚くと同時に笑えたことが少し嬉しかった。
「ん?どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない」
それから、私達は始まりの街へと戻り人の余りいなさそうなレストランに入った。時間帯もあってか、殆ど人は居なかった。 魔王は自分の事を楽しそうに話してくれた。なんでももう200年以上生きているそうだ。
今はもう歳を数えていないらしい。どうりでおじいちゃんみたいな訳だ。それから私は、魔王の色んな話しを聞いてまた笑ってしまった。たまに子供ぽい所もあるし、変な笑い方をする。
でもこんなに楽しいご飯を食べたのは久しぶりで.....本当に久しぶりだったそれは暖かいものだった。私にも友達が居たらこんな感じになれたなのかな。毎日のダンス教室や学校で、誰かと一緒にご飯を食べたり、昨日あった出来事を楽しそうに語り合ったり。
私には手の届かない、私とは関係のないもの....これから先も永遠に手に入れることはないと思ったそれは今日不意に私の下にふわりと訪れた。
気付けば私の目には涙が溜まり、坂道にピンポン玉を落としたみたいにポロポロと。
それは頬を伝いテーブルに敷かれた純白の布地へ小さい円を作りながら零れ落ちていた。
気付いてしまった。私はもっとこうして居たいと。
誰かと一緒に話したり、笑ったりそんな事を夢見て居たのだと。
傷付くことを恐れて私が頑なに貯め守ってきたダムは、プライドは。
こんなにも簡単に。
私に向けられた楽しそうな笑顔によって。
無数の亀裂がお互いを望む様に伸び、進み、繋がり。
そして決壊した。
「うっ....うう.......うわーんっ!!!」それからの事はあまりよく憶えていない。
泣いてる私を見て魔王は心配そうにオロオロとしていて、必死に私を元気付けようとしてくれていたし。
素っ頓狂な事を言ったり、謝ったり、変な顔をして笑わそうとしたり、そんな事をしてくれていたけれど。
私はこの人と一緒に居たい。そう思ったことだけは憶えている。