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雷帝の過去と贖罪

第二の町 北の洞窟 雷帝


 そうして俺達が町を出て、10分ぐらい歩き着いた其処は、一面に苔が生え少し臭う仄暗い洞窟だった。恐らく臭いのはボブゴブリンの悪臭が溜まっているんだろう。ゲームだからある程度カットされている、とは言えやっぱりくせー。

 その臭い洞窟を駄弁りながら進み、ボブゴブリンの隠れ処へと辿り着いた。其処は巨大な空洞になっていて、ボブゴブリン達の住居の様だった。辺りには動物の骨や人の頭蓋骨なんかが散らばっていて、正直見ていて気持ちいいものじゃ無い。


「うげー飯が不味くなるんだな」

「いや此処で食うなよっ」

「うわーポチャ、流石に其れは引くよー」

「流石ポチャ!惚れるでしかし」

「お前らふざけてないで早く狩るぞっ」


「うわー、こういう時ぐらい真面目にやれよ。お前等マジないわー」


「雷帝が真面な事言った!?」

「いやお前が言うなしっ」

「いきなり真面目キャラとか、ないわー、むしろお前がないわー」

 そんなふざけた会話をしつつ、俺達は早速ボブゴブリン達を狩る。

 ズバッ!ザシュ!バシュ!ドス!バリバリ!ズドン!

 順調だ。俺としてもこいつ等との連携は結構良い線行ってると思う。

今回はあっさり終わりそうだ。


「うぶぶ此処に居たぞ」

「ぐふぐふっ、おおおれがたたたおす」

「うひゃーマジやっちゃって良いの?あれ雷帝でしょ?」

「ああああぶぶちのめしてえ」

「てか、やる気満々じゃんお前ら」

「なあ女だ。あいつ殺りてー」

「俺が最強...俺が最強...俺が」

 そんな声が突如後ろから聞こえて来た。その会話の内容に嫌な気配がする。


「おいっ、やべーぞ!!俺達の事狙ってやがる!」

 その何十人も居るプレイヤーの中には見覚えのある顔が幾つもあった。

 最初に出会ったギルドの連中のニヤニヤと醜く歪んだ顔が。

 リーダー格の奴らは垢BANされたが、無事だった奴等も居た様だ。

其れに俺が誘いを断ったギルドの連中もいる。

これは俺への私怨だ。

「くそっ、こいつ等マジ頭可笑しいから気を付けろ!」

 俺はそう言いそいつ等とボブゴブリン両方と同時に戦う。

 当然ボブゴブリンは俺達のみが攻撃対象になっている。


 ズバッ!ザシュッ!シュドオッ!!バリバリ! 傷付きし者かの者を――――神の恩寵を授け給へヒール! キュルキュル、ザンッ!ズドン!!ブンッ!!


 俺達もあいつ等も回復しながら戦い、時間は長引いた。

 そして漸くボブゴブリン達を殲滅し形勢がこっちに傾く。そう思った時......俺の矢が切れた。

 相手の数と回復とボブゴブリンのせいで手数が増え、いつの間にか俺の矢は尽きていた。

 助ける事も出来ず、アオタがやられ、ムラサキがやられた。

ポチャがやられレッドもやられた。

そしてダイダイすらも遂にやられた。

 攻撃を避け魔法で応戦していた俺も、数による波状攻撃の前になす術も無く負けた。

そうして結局、俺達は負け、町へと飛ばされた。


「くそがっ!!皆わりい、彼奴ら俺の知ってる奴らだ。前に話したろ。最初に会ったギルドの奴らの事を」

「何言ってんだよ!だったら雷帝の所為じゃねえよ」

「雷帝は被害者なんだな」

「しょうがないよ。今回は運が悪かったんだって」

「気にするなライ。別に一回殺されたからって多少アイテムを失うぐらいだ。またやれば良い」

「そうそう!気にすんなよ雷帝っ!!俺等はあんな奴等無視して楽しくやろーぜ」

 こいつ等は俺のせいじゃないと言ってくれた。だが違う、これは俺のせいだ。


 たぶん彼奴らは俺の断る態度が気に入らなかったんだ。正直、毎回毎回ウザかったから俺も罵声を浴びせたり、馬鹿にしてあしらったりしていたからだ。

 最初のギルドの奴らは単純に頭の可笑しい連中が多かったが、なら始めから関わらなければ良かっただけの話だ。理解出来ない理屈を押し付け、執拗に追い粘着する様なイカれてるとしか言いようがない連中。それに関わった事自体間違いだったんだ。

 偶に居るだろう。思考回路が完全に一般人とは違う、分かり合うなんて初めから存在しないイカれた奴らが。だからこそ厄介だった。それから俺達ユグドラシルは毎日毎日徹底的にマークされ、執拗に粘着される様になった。


 そうして1ヶ月、それでも俺達はSSSを続けていた。

 徐々に増えていたギルドメンバーは急速に減った。俺も何度も抜けると言ったが、ダイダイ達創立メンバーはお前のせいじゃ無いと言って引き留めてくれた。

 運営に抗議しても、PKは仕様ですので規約に違反しない限り、忠告しか出来ません。の一点張り。

 ユグドラシルは最近俺が入り急速に勢力が伸びていたこともあって、周りのギルドから疎まれる事は有っても、良く思われる事などなかった。


 だから、俺は、俺達はどうする事も出来なかった。せめてあの時、彼奴等に勝っていたら、矢が切れていなければ、弓にもっと威力があれば、俺のプレイヤースキルがもっとあれば。こんなにもあいつ等に調子付かれる事はなかったのかも知れない...だがもう遅い。


 最終的にユグドラシルに残ったのは、ダイダイ達5人と俺だけだ。段々と俺達のログイン回数は減っていき結局最後には皆SSS自体を辞めていった。

 何とかする方法はあったんだろうけど。ダイダイ達は卑怯な手を嫌がり、決して復讐したり反撃したりする事はしなかった。結局これでギルドは解散。俺はまたソロに戻った。別に辞めても良かったけど、負けた気がしてムカつくし、復讐する為にSSSをやり続けた。


 一人でも絶対負けない様に、彼奴等を叩き潰せる様に。そして俺は一人何度も何度も報復した。正直それは楽勝だった。ムカつく程に。弱い癖に調子に乗って、我が物顏で傲慢を尽すその姿が、醜い顔に汚らしい肌が。きっとこいつ等は現実での憂さを晴らす為に俺達を使っただけだ。


 弱者を弱者と思えば思う程に、何の価値もない奴らだと思う度に、俺の腐った怒りはより酷く膨れ上がっていた。結局、俺もこいつ等と同じだったんだ。復讐を望まなかったダイダイやポチャ、ムラサキにレッド、アオタ達とは決定的に、俺は違った存在と成っている。復讐という名の弱者を痛ぶる快感に、俺は浸かり腐っていた。

 俺は彼奴等がSSSを辞めるまで毎日毎日痛ぶり続けた。恐らくイジメをする奴ってのはこういう心境なんだろう。俺は強い俺は偉い、そんな優越感を得る為に、どんどんそれに浸っていく。終いには嫌っていた理由も忘れて、その存在自体を唯々憎み見下す。自分の醜さに気付きながらも、それを隠し続ける為に。


 そしてあいつ等が消えた事で俺の復讐は終わった。それからは特に理由も無く憂さ晴らしにひたすらボスを狩り続け、偶に寂しくなっては仲間を求めた。俺の心は弱い。

 だから俺はギルドがめんどくせーんだ。自分の弱さってやつを思い出させるギルドが...あーマジでめんどくせー俺。


そうしてβテスト期間の半年が経ち、俺のβテストは終わりを告げた。


 


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 合同訓練 広場 雷帝


セインに向け罵声を吐き捨て、自分の成長の無さに呆れたその時、不意に俺の鼓膜に懐かしい声が響いた。

「ライ...久しぶりだな。ライ」

 俺の事を唯一ライと呼ぶ男、その人懐っこい声、そして少しも変わらないその姿。

それはダイダイだった。

「ダ...ダイダイ......? お前なんで此処に...?」

 ダイダイはSSSを辞めた。俺はそう思っていた。

 なのにこの男は、懐かしい顔をするこの男は。

今、俺の目の前にいた。

「いやそのな、お前があの後もβ版でプレイしてたのは、ネットとかで知ってたんだ。それで、そのなんだ、気になったからちょっとな」

 ダイダイは照れ臭そうに申し訳なさそうに笑いながら話していた。

 なんだよそれ、だったら早く言えよ面倒くせー奴だな。

 不意の友との再会に、懐かしい笑顔に、そう口から出そうになった。

だが出せなかった。

 俺がこいつに、こいつ等にそんな事を言っていい資格はもう無かった。


「っ...すまないダイダイ。俺の所為でお前は...そして今もこんなデスゲームに...。本当にすまない」

 申し訳なくて、違い過ぎて、遣る瀬なくて、俺は謝った。場所も弁えず土下座をしながら。

「ば、馬鹿っ何やってんだよ!?早く立てよ!...俺は何にも気にしちゃいない。あの時も今も、お前がした事もだ」

 俺の腕を引っ張り上げながら、そんな声が返ってきた。周りにはセインや魔王達、それに多くの観衆がダイダイと俺を見つめ立っていた。

 俺はまた、こうしてダイダイに迷惑を掛けている。そう思った。だがそれよりも、言われた言葉が頭の中に、鐘の様に反芻する。

 お前がした事...ダイダイは俺がした事を知っている。それでも今此処に居る。俺を気に掛けてくれながら。


 申し訳なくて、申し訳なくて...俺がまたこうして迷惑を掛け、命すら危険に脅かした事が申し訳なくて、俺は。それでも、許し心配してくれる嘗ての友の存在に俺は。

 ダイダイに引っ張られる腕からも、繋がるその身体からも力が抜け、俺はその固く冷たい煉瓦敷の大地に頼る様に持たれ掛かっていた。


「気にすんなよライ。別に俺達だって力があればお前と同じ事をしてたさ。でもしなかったのは、出来なかったのは、俺達が臆病だったからだ。これ以上人の嫌悪に、妬みに、憎しみに恨みに触れるのが怖くて逃げ出しただけだ。たかがゲームだとバカにして逃げ帰っただけなんだよ。だからこうしてデスゲームに遭ったのも罸だと思っている。お前を一人にして逃げた、所詮ゲーム中の友情だと言い訳をして裏切った俺への...だからお相子だ。相子なんだよ。だからごめん...本当にごめん。顔を上げて、立ってくれないか?」

 ダイダイの気持ちを思いを、初めて知る。そんな風に考えて居たんだと。


俺はダイダイの言葉に立ち上がり、そして少しずつ今までの互いの話をした。

 俺の罪とダイダイの罪、ユグドラシルの皆の罪とあいつ等の罪。全員が全員、きっとそれぞれの罪を背負って居たんだと知る。あの連中だって、現実の辛さや自分の弱さから目を背ける為にこの偽りの世界に逃げていた筈だ。


悪いのは俺だけじゃ無かった。弱いのは俺だけじゃ無かった。

 俺の罪とダイダイの罪、同じ罪を背負ってくれる仲間と、あいつ等に、結局俺は救われた...

 許し償うのでは無く、同じ罪悪感を感じ共有することで。セインの言っていた事はこう言う事だったのかもしれない。


 俺は。

俺は此処から。


 ダイダイや嘗てのユグドラシルの皆。

魔王、朔夜やユリちゃんを此処から、この世界から出してやりたい。


 それぞれ弱さと罪を背負った皆を、俺がこの世界から救い出してやりたい。

ああ、ああそうだ。俺がこのゲームのラスボスを倒して皆を救ってみせる。


 罪を背負った主人公が、贖罪の為に戦う。悪くねーかもな。めんどくせーけど......くはは

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