第13話 街で過ごす二人の時間
王都の賑やかな中央通りは、雲一つない秋晴れの風が吹き抜けていた。
いつもなら仕事着であるエプロンのエルネだが、今日はアルディスから贈られた柔らかい桃色のワンピースに身を包み、緊張した面持ちで立ち尽くしていた。
もろもろの事件の処理が終わり、ようやく作れた二人の休み。
「待たせてしまったかい、エルネ」
振り返ると、そこには普段の重厚な甲冑や騎士団服ではなく、上質な紺色のコートを羽織ったアルディスが立っていた。
冷酷な騎士団長と恐れられる男の面影はない。
その金色の瞳にはエルネだけを映した柔らかい光が宿っている。
「ううん、今来たところです! ……あの、アルディス様、その……すごく素敵です」
いつと違う少し控えめな様子。
「君こそ、とても愛らしいよ。……手を繋いでもいいかい?」
「は、はい……っ」
差し出された大きな手に自分の手を重ねる。
指が優しく絡め合わされた。
二人で歩く街の散策。
エルネにとって人生で初めての「デート」が始まった。
これまで二人の時間といえば、森の中や危険な谷。
素材採集や討伐がほとんど。
ゆっくりと街を歩くことはなかった。
アルディスが目立つせいもある。
しかしこれまでの二人が、エルネをアルディスが追いかけまわすという構図だったせいだ。
先日エルネが初めて恋を自覚。
しかしやたらと事件に巻き込まれ、それどころではなくなってしまった。
二人が向かったのは、大通りから一本入った小路にある古びた雰囲気の『不思議な雑貨店』。
店内に足を踏み入れる。
宙に浮かぶ本。
歌を歌うオルゴール。
光るガラス玉。
妖しい魅力に満ちた魔法具がところ狭しと並んでいた。
「わあ……! すごいですアルディス様、あの時計、針が逆回りに動いています!」
「古代の時魔法が組み込まれたクロノ・時計だね。……君が気に入ったなら買おうか?」
「えっ!? い、いえ! 見ているだけで十分です!」
慌てるエルネの姿。
アルディスは目元を緩めてくすくすとおかしく笑った。
続いて二人が足を運んだのは、冒険者や調合師が集う有名な『珍品素材屋』。
店内に入った瞬間、エルネの目が一変する。
棚に並ぶ無数のドライハーブ。
瓶詰めされた魔物の体液。
怪しく光る鉱石の数々。
彼女の鑑定眼が最高潮に活性化し、キラキラと瞳を輝かせ始めた。
「アルディス様、見てください! この『星屑の苔』、こんなに良い状態で保存されているなんて奇跡的です! 砕いて精製すれば、最高級の夜光塗料になりますよ!」
「ほう、それは興味深いね。店主、この『星屑の苔』を棚にある分すべて買い取ろう」
「ええっ!? 全部ですか!?」
「君の弾む声を聞けるなら、安いものだよ」
「もう……アルディス様ったら!」
呆れつつも、自分の大好きな「素材選び」を心から一緒に楽しんでくれるアルディスの優しさに、エルネの胸は温かな幸せで満たされていった。
街を巡り、夕暮れ時を迎える頃。
二人は街を一望できる、静かな王立公園の丘へと向かった。
オレンジ色に染まる王都の街並みが、美しく広がっている。
「今日は本当に楽しかったです、アルディス様。こんなにステキな一日を過ごせるなんて……夢みたい」
エルネがうっとりと夕焼けを見つめていると、不意にアルディスが足を止め、彼女の正面に立ち塞がった。
「アルディス様……?」
アルディスの表情は、今まで見たことがないほど真剣で、そして溢れんばかりの愛おしさに満ちていた。
彼はゆっくりと膝をつき、エルネの手を優しく包み込んだ。
「エルネ。あの日、死にかけていた俺を君が救ってくれた時から……いや、君の温もりと純粋な心に触れたその瞬間から、俺の人生は君のものになった」
「あ……アルディス様……」
「俺は騎士として国を守る術しか知らなかった。だが、君と出会い、君の笑顔を守ることこそが俺の生きていく意味だと知ったんだ。俺の過去も、地位も、これからの未来も……そのすべてを君に捧げたい」
アルディスはポケットから小さな革箱を取り出し、ゆっくりと開いた。
夕日を受けて輝いていたのは、精巧な銀の細工に、透き通るような美しい藍色の魔石が嵌め込まれた指輪だった。
それは、どんな猛毒や危険からも持ち主を守る、アルディス自身が魔法を込めて作らせた特別な指輪だった。
「エルネ。俺と結婚し、生涯を共にしてくれないだろうか。君を誰よりも幸せにすると、誓う」
真摯なプロポーズの言葉に、エルネの大きな瞳からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
自分のような平民の薬草収集家が、こんなにも深く、まっすぐに愛される日が来るなんて。
「……はい……っ! はい、アルディス様……! 私でよければ……喜んで、お受けします……っ!」
エルネが頷くと、アルディスは感極まったように立ち上がり、彼女の指先へ指輪をそっと嵌めた。
そして、そのまま彼女を愛おしそうに強く抱きしめた。
「ありがとう、エルネ……! 愛している、俺の永遠の光」
「私も……私も愛しています、アルディス様……!」
沈みゆく夕日の中、二人は優しく唇を重ね合わせた。
泣き虫な最強騎士と、可憐な薬草収集家。
様々な騒動を乗り越えて結ばれた二人の指先で、深い藍色の宝石が、永遠の愛を約束するように美しく輝いていた。
あと書き
バタバタしながら
婚約のお話まで進むことができた2人。
第一クールは終了となります。
評判が良ければシーズン2も検討しています!
面白かったら星やフォローで応援してもらえると嬉しいです。




