111話 アズリア、謝罪というケジメ
あくまでガリエラを背負って移動していたのは、金属鎧を装備していたからであって。
移動が困難になる程、脚を負傷したからでは決してない。
アタシはそれを目で訴えてみたが。
「……まだ気が済んでなかったのかい、赤髪娘」
最初に口を開いたのは仲間三人ではなく、マデリア。
しかもその言葉には、アタシがガリエラの脚の負傷に関与どころか。明らかにアタシを犯人扱いし、非難の視線を向けていた。
つまり、一度合流を待たなければならない程アタシらが遅れたのは。ガリエラとの決着に納得がいかず、再び諍いを起こしたのだ──と。
あまりに的外れな想像に、アタシは憤りを感じずにはいられなかった。
「はあ?」
普段から交流のない治癒術師のマデリアが、アタシへ「粗雑で短気」という印象を抱いていたのは。これまでの会話からある程度は理解していたが。
まさか、一度決着した問題を再燃させる程だと思われていたとは。
アタシは次いで、言葉を発しなかった他の三人の顔を順に覗き込む。まさかとは思うが、三人もマデリアと同じ意見なのかを確かめるために。
すると、イーディスとサバランは申し合わせたように顔を背け、アタシから目線を逸らそうとする。
「何で──こっちを見ないんだい?」
ガリエラを背負ったままのアタシは、そんな二人に詰め寄り。
何故に目を合わせなかったのか、その理由を笑顔を作りながら問い掛ける。
顔こそ笑ってはいたが、凄みを利かせた低い声で二人に接近した事で。
「……い、いや、これはべ、別に、っ」
一歩も退かず、どうにか冷静を装おうとしていたイーディスだが。
短い受け答えの中には声の震えが混じり、マデリアの説を否定する事は決してなかった。
さてもう一人、サバランはと言えば。
「お、俺は思ってないぜ。お前が怪我させた、だなんて……」
いつも余計な一言を口にする彼らしく。
動揺しながら、アタシがガリエラの脚を負傷させた可能性に触れる。まだ誰も、何故がりを背負って移動していたのか、確かな事を口にしていない内から。
「……ああ、そうかいそうかい」
仲間二人にすらガリエラを負傷させる性格だと思われていた事で、すっかり不貞腐れてしまう。
まだ関係が希薄なマデリアに好戦的だと誤解をされるのは、まだ飲み込めたとしても。
さすがに半年の間、同じ部屋でほぼ一緒に行動していた二人に。マデリアと同じ誤解をされるのは精神的に堪えたからだ。
「……で。アンタはどうなんだい」
最後に残ったのは、ランディ。
まさか男女の関係となったランディにまで同様の誤解をされていたら、と思うと。一瞬だけ確認を躊躇ってしまう。
それでもアタシは聞かずにはいられなかった。
「さっきから何も言わないけどさ。アンタもどうせ
、三人と同じ意見なんだろ」
「いや」
「……へ?」
すると意外にもランディは、即座にマデリアの説を否定するように首を横に振ると。
意外な反応が返ってきて、呆気に取られていたが。
「アズリアの事だ。どうせ色々とガリエラに立ち入った話をして、俺たちを見失ったから。慌てて追い駆けるためにガリエラ様を担いだんだろ」
続けてランディが語ったのは、実はアタシとガリエラのやり取りを何処かに隠れて覗いていたのでは──と思う程。
あまりに正確が過ぎる内容だったのだ。
「──あ」
言葉は悪いが、先の二人にすっかり裏切られたばかりのアタシは。
ランディのあまりに正確な読みに、嬉しさが胸に込み上げ。口角が緩み、頬が熱くなるのを察し、思わず顔を伏せてしまうアタシ。
アタシの驚きを代弁したのが、背負われていたガリエラだった。
「驚いたな……まるでこちらを監視していたかのようだ。その通りだ」
緩んだのは顔の表情だけではなく、ガリエラの脚を掴んでいた指の力も、だったらしく。ここでようやくガリエラは、担がれていたアタシの背中から降りる。
脚を負傷している、と勘違いしていたマデリア他二人は。地面に足を着き、まるで普通に歩いているガリエラの姿に驚きを隠せなかった。
「そ……それじゃ、ランディが言った通り?」
ランディとガリエラを交互に指差し、恐る恐る聞いてくるイーディスに対し。
アタシは首を一回頷き、先程の想定こそが真実であると肯定する。即ち、ガリエラの脚は負傷などしておらず、ただ迅速な合流のためだけに背負っただけなのだと。
「ああ。慣れない移動に多少、脚を痛めはしたが。歩けなくなる程ではなかったんだがな。アズリアが無理矢理、私を背負ってな」
「そうでもしなかったら、こんなに早く合流出来なかっただろうが」
とはいえ、無理にガリエラを急かしていれば。装備していた金属鎧の重量が負担を掛け、皆の心配した通りに脚を負傷していたかもしれない。
アタシは自分の選択が間違ってはいなかった事をようやく実感する。
すると、サバランが両手を二、三度打ち鳴らして、この場にいる全員の注目を集めた後。
「ま、まあ……アズリアとガリエラ様が合流出来たなら、先を急いだほうが良いんじゃねえか?」
討伐隊が定めた合流地点へと移動していたアタシらだったが。
空を見上げれば、ガリエラと遭遇、救援や合流という一連の展開で。すっかり半日程度の遅れが生じていた。
養成所は兵士を育てる帝国の施設であり、まだ兵士ではないがアタシら訓練生は兵士同様の扱いを受ける。
つまり到着が遅れれば、隊を束ねる隊長や指揮官から懲罰を受けるかもしれない。
先を急ぐ必要があるのはサバランの言う通りだが。
移動の再開の前にやらなければならない事が、アタシにはある。
「──その前にさ」
ガリエラが背中から降りた事で、自由に両腕が使えるようになったアタシは。
移動のため、前を向いたイーディスとサバランの首に背後から左右の腕を回すと。強引に自分の元へと二人の頭を引き寄せ。
「なあ、サバラン。イーディス。アタシに何か、言うコトがあるんじゃないのかい?」
そう。
アタシはまだ、マデリアの説に賛同し。ガリエラの脚を負傷させたという誤解をした二人から。謝罪と反省の言葉を聞いていなかった。
出発の前に済ませたかったのは、二人から謝罪の言葉を引き出したかったのだ。
少々、強引な気もするが。
誤解された時のアタシの落胆と、同様の立場だったランディがあれだけ正確に何があったかを的中させただけに。
謝罪も無しに、無かった事には出来なかった。
でなければアタシは、討伐隊での激しい戦闘で。イーディスとサバランを完全に信用し、背中を預ける事が出来なくなってしまう。
折角、ガリエラという味方を引き入れたのに、である。
だからアタシはどうしても、この場で二人から謝罪の言葉を聞かなくてはならなかった。
「……あ」「……ゔ」
アタシの腕を首に絡められ、逃げ場のない二人は互いに目を合わせ、何かを言い淀んでいたが。




