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16話 ヴェルゴ砦、新たな北狄の脅威

 先に届いた騎士の槍が、小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)の細腕を斬り落とす。


『ギャアア⁉︎』


 発動直前まで準備を終えていた火の玉は、腕を両断された痛みで制御を失い。砦や味方の軍勢にではなく空中へと放たれ、(はる)か上空で爆発する。

 準備した魔法を台無しにされた小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)だが。

 次の魔法を唱える機会は永久になかった。

 

「──とどめだっ!」


 何故ならば。槍を振るった騎士に遅れ、もう一騎が馬上から放った剣閃が。小鬼の魔術師(ゴブリンメイジー)の頭を叩き割ったからだ。


『ガ……ッフゥ⁉︎』


 小さな断末魔を残し、絶命した小鬼(ゴブリン)の身体がその場に崩れ落ちるが。

 二人の騎士は完全に息の根を断つために、一度は斬撃を放った後に走り抜けるも。馬の(きびす)を返し、友軍の元へ戻るついでに。倒れた小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)の身体を馬の(ひづめ)で踏み潰す。


小鬼(ゴブリン)の群れ、とは珍しいが。これで大体は片付いたかな?」

「見るに、指揮をしていたのはこの魔法を扱う小鬼(ゴブリン)だろうからな。後は放っておいても平気だろう」


 砦から援軍に駆け付けた二人の騎士、オレントとロージャは。周囲にいる小鬼(ゴブリン)らを槍と剣で殲滅(せんめつ)しながら、言葉を交わしていた。

 二人の判断は間違ってはいない。

 攻撃魔法、という強力な後方支援を失った小鬼(ゴブリン)らは。同数であれば完全武装した兵士に及ぶべくもなく。

 左右、そして中央と三分割された小鬼(ゴブリン)の群れは、見る見る内に数を減らされていく。


「さすがは名高い隊の兵士たちだ」


 ヴェルゴの北壁は国境沿いに位置し、しかも外側には敵対する国家もない。なので事情を知らない帝都の貴族は、この地に派遣される部隊を「力量がない」と誤解される。

 現に白薔薇(エーデワルト)公爵領の外から派遣されたオレントとロージャの二人も、勘違いしていた人間側だったが。


「最初、ヴェルゴに配属が決まった際は、権力争いか何かに巻き込まれたと本気で悩んだがな」

「はは、俺もそうだ。だが存外、噂など不確かなものなのだとは。砦に配属されてあらためて知ったよ」


 この地を管理する白薔薇(エーデワルト)公爵は、北狄の脅威を誰よりも認識していた。だからこそ、ヴェルゴに配置される部隊は練度の高い兵士らを選別していたのだ。

 今配置されている「勇壮なる槍」「赤い軍旗」「疾風の狼」の三つの隊も。数々の侵攻戦で活躍した部隊でもある。


「そら、あれだけの数ももう終わりそうだぞ」


 小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)に率いられた、一〇〇体以上の小鬼(ゴブリン)は。既にその数を二〇体以下にまで減少させており。

 今や左右、中央とどの戦線でも兵士らが数で勝り。小鬼(ゴブリン)一体に、実力で上回る兵士らが数人で取り囲む状態だ。

 一体、また一体と小鬼(ゴブリン)は討伐されていき。


 二部隊に加え、騎士が砦を出撃する程に。北狄(ほくてき)の魔物が一箇所に集結し、砦や石壁を襲撃してくるなど──半年ぶりの事態だったが。

 まだ砦に一部隊と多数の騎士を温存した状態で、壊滅させる事にほぼ成功した。


「では、今夜は盛大に戦勝会だな」


 勝利を確信したオレントとロージャの二人も、まだ生き残りの小鬼(ゴブリン)を掃討していた兵士らに戦場を任せ。

 砦へと引き返し、門を潜ろうとしたその時。


 見張り役の兵士に帰還を引き留められたのだ。


「ま、待って下さい騎士様! ま、まだです!」

「「……は?」」


 二人の騎士が揃って口にした疑問の声。


 大群を率いていた魔術師の小鬼(ゴブリン)を倒し、踏み潰したのは二人だ。

 しかも、指揮役が倒され。総崩れになった小鬼(ゴブリン)らの数が残り(わず)かになった時点まで、二人は戦場で確認していた。

 当然ながら、見張り役の兵士に放った疑問の声には若干の苛立ちも含まれていたが──それでも。


「し、信じられないですが……魔物らの、第二陣がっ……」

「な、何だとっ⁉︎」


 見張り兵の報告に驚きを隠せずに、声を荒らげる騎士オレントだったが。

 どうやらまだ。報告には続きがあるのを汲んだロージャはオレントを一旦(なだ)め、見張り兵に報告の続きを話すように(うなが)すと。


「そ、それに、その……第二陣には、小鬼(ゴブリン)だけでなく巨大な魔物の姿もっ……」

「「な、何だとおっ⁉︎」」

 

 大型の魔物までが出現しているという報告を聞いて、今度はオレントとロージャが声を揃えて驚く。


 確かにこれまでも数度、小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)などの人型の下位魔族の他にも。大型の魔物や、食人鬼(オーガ)岩巨人(トロール)などの巨大な人型魔族の目撃も報告されていたが。

 そのような魔物や魔族が、数を集めて砦に攻撃を仕掛けてきたのは。二人が知る限り、半年ほど前に一度きりだったからだ。


「ば……馬鹿なっ?」


 二人の騎士は馬の手綱(たづな)を引いて馬の向きを反転させ、再び戦場に駆け出していく。

 報告を受けた第二陣を、目視出来る距離まで。


 そして、二人は見てしまった。


「う、お……っ!」

 

 一見すると、先程よりも少数。半分にも満たない数の集団でしかない第二陣だが。

 問題はその陣営、揃えた顔触れだった。


 先程、巨大な火の玉を操り、一〇〇体以上の小鬼(ゴブリン)を指揮していた小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)と同じ格好をしたのが、少なくとも五体。

 さらに前列に紛れていたのが、外見はほぼ小鬼(ゴブリン)と同じながらも。赤い帽子を被っているような頭部をした「血帽子(ブラットベレ)」と呼ばれる凶悪な小鬼(ゴブリン)の変異種。

 そして、戦鬼(ホブゴブリン)食人鬼(オーガ)、それに岩巨人(トロール)といった巨大な人型魔族も一〇体以上が確認出来る。

 

 第一陣より数こそ少ないが、間違いなく第二陣(こちら)こそが主力と言える編成に。

 こちらに一歩、また一歩迫りつつある第二陣を目の当たりにした二人の騎士は。思わず(つば)の飲み、馬上ながら膝を震わせる。


「……なあ、ロージャ。勝てると思うか?」


 代々継承されてきた帝国の武技を学び、騎士としての地位を得ているオレントだが。

 食人鬼(オーガ)岩巨人(トロール)の強大な腕力の前では、一対一で勝利するのは非常に困難だという事くらい理解出来ていた。


 それでも、同じ騎士であるロージャから少しでも気休めとなる言葉を貰いたかったのだが。


小鬼(ゴブリン)相手ならともかく、戦鬼(ホブゴブリン)食人鬼(オーガ)となると。砦の全員を当たらせてようやく……だろうな」


 期待に反してロージャは、第二陣で揃えた魔物らと砦が有する戦力を冷静に分析し。互角だ、という気休めにならない判断を口にし。


「それに、どうやらそう判断したのは俺だけじゃないみたいだ」

「──何、だと?」


 言葉の後にロージャが背後を指差すと。

 砦の城門の前には既に、残る「勇壮なる槍」隊全員と、八名の騎士。

 さらにはレームブルク伯までもが出撃の準備を済ませていたのだ。


 ならば、まず二人が戦場でやるべき事は。

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