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10話 アズリア、養成所の外の異変に

 (ただ)一人、サバランを除いては。

 

 まだ状況を理解出来ず、突然口数を減らして耳を澄ませていた三人に説明を求めるサバランだったが。


「お、おいおい……どうしたんだ三人とも? 怖い顔しやがっ──」

「……しッ!」


 アタシは一本立てた指を自分の口唇(くちびる)へと当て、黙るように合図をサバランへと飛ばした後に。

 今度は木製の柵を指差して、柵の外に異変があったという事を指の動きのみで知らせようとする。


「ん? 外だって……」


 アタシの指から意図を汲み取ったのか、サバランもようやく柵の外から聞こえてくる異変を理解出来たようで。

 サバランが驚きの表情を浮かべ、アタシと同じように柵を指差しながら。目を見開いて異変を教えたアタシや他の二人を見てくる。

 

「お、おいっ? こ、これってまさか(・・・)?」

「……その、まさかだよ」


 サバランとイーディスの口から出てきた「まさか」という言葉の意味。

 それは、養成所の外であるヘクサムの街に、金属音を鳴らすような不審な存在がいる……という事を示していた。

 アタシが養成所に来て半年経つが、初めての事だ。


「……さて、どうしたモノかね」


 アタシは三人と顔を見合わせ、これから動くのか相談を持ち掛けてみるのだが。

 

 今も変わらずに柵の外から聞こえてくる金属音と、そして(うめ)き声も加わって。養成所の外に、本来いないはずの不審な存在がいるのは最早(もはや)確定なのだが。その正体を確かめる手段や理由が、今のアタシらにはない。

 というのも。


「二人、三人いれば肩に乗って柵の外を覗き見れるだろ。それで確かめるってのは」

「いや……さすがにそれは、脱走を疑われちまう。見つかったらただじゃ済まんぞ」


 養成所と街とを隔てる柵を乗り越えてしまうと、理由はどうあれ施設を脱走した扱いにされてしまう。

 それに元来、就寝する時間に部屋の外へ出ている事自体が既に。養成所の規律を破ってしまっていたからこそ。

 もし仮に金属音や(うめ)き声の正体が知れたところで。不審な存在が柵の外にいる事実を、アタシらは誰にも報告する事が出来ない。


「じゃあ見回ってる所員に『不審な物音がした』って知らせれば……」

「それ、アタシらが建物の外にいたって白状してるのと同じコトなの、分かってるかいサバラン」

「……ゔ、っ」


 下手に報告すれば、アタシが外に出ていた事を自ら認めてしまう事に他ならない。


 だが、不審な存在がいると分かっていながら、みすみす放置も出来ない。街で何かしらの異変が既に発生していれば、間違いなく大事(おおごと)だ。

 だからこそアタシは。困惑した表情を浮かべ、三人へと声を掛けたのだが。

 

「じゃあ、どうするんだよ?」

「……何とか、アタシらの仕業(しわざ)でなく、誰かに不審な奴が外にいるのを伝えられたらイイんだけど」


 四人で考え込んでも、何ら良い提案が生まれないまま。その場に立ち尽くしたまま、決して短くはない時間が経過していく。

 その間にも、不審な物音はゆっくりと移動をしているようで。最初に聞こえた位置からは既に物音はなく、別の場所へと物音の発生源が移っていたからだ。


 となると、悩んでいられる時間も限りがある。


 今はまだ養成所の付近にいるのを確認しているが。

 仮に、不審な金属音の正体が人々に危害を加える存在で。今いる場所から、住民が寝静まった街中へと移動されてしまえば。対処が遅れ、被害に()う人も出てくるだろう。


 良い提案が浮かばなかったアタシは、いよいよ最後の手段を取るべきかを考えていた。

 

「まあ、いざとなりゃアタシ一人で罪を被ってでも……」


 そもそも、夜の就寝時間に部屋を抜け出して訓練場で剣を振るっていたのはアタシなのだ。ランディ含む三人は、そんなアタシを探しに来てくれただけ。

 ならば、三人には部屋へ帰ってもらい。アタシが一人で養成所内を巡回している所員を見つけ出し、不審な音について報告するのが最善の手ではないかと考えていたのだが。

 

「おい」

()ッ、たあ?」


 アタシは突如、横にいたランディから不意に頭を小突かれてしまう。

 大した強さで叩かれたわけではないのだが、ランディが相手という事で。アタシは叩かれた頭を押さえ、わざと大仰(おおぎょう)に痛がる態度を見せた。


「な、何すんだっての、ランディ」

「アズリアの事だ、自分だけが罰を受ければいい、とか考えてるんじゃないかと思って、つい」


 ランディの言葉はまさに、こちらの本心を透かして見たような内容だった事に。


「え? あれ? アタシ、口に出してた?」


 アタシは自分が心の内を口から漏らしていたのではないかと、思わず自分の口を両手で覆ってしまい。

 続けて、何故思っていた事が見透かされたのかを不思議に思いながら。横にいたランディを睨んでしまう。


「──そうだ、ランディは」


 すっかり忘れていたが。

 以前からもランディは何故か、アタシが口にも出さず考えている内容を言い当ててくる事が何度かあった。

 何故にアタシの思考を読み切れるのか、その理由をランディ本人に質問すると。


お前(アズリア)は分かりやすい性格してるから』

 

 という答えが返ってきたのを不意に思い出してしまい。

 好意を持つ相手により深く理解されている、というむず(がゆ)さもあるが。それよりも、簡単に頭の中を読まれてしまう自分の思考の単純さに苛立ちを隠せなかったからだ。

 

 アタシと、アタシに睨まれたランディが黙り込んでしまい。さらに結論は遠のくかと思った──そんな時だった。


「……所長を起こすか」


 そう意見を出したのはイーディスだった。


 確かに、他の所員らとは違い。所長のジルガとはアタシが養成所に来た初日の模擬戦や。ナーシェンの一件でも狼煙(のろし)を見て、岩人族(ドワーフ)らを引き連れ救援に駆け付けたという経緯から。

 このような非常事に、一番助けを求めやすい相手だとアタシらの中で認識されていたが。


 そんなイーディスの提案にも、実は大きな問題点があった。


「ちょっと待て、イーディス。所長を起こすって……今、この場から所長の部屋まで行くってか?」


 サバランが異議を唱えるのも無理はない。

 

 所長が就寝しているのは、アタシらの部屋のある宿舎とは別。養成所の本館とも言える一番立派な建物の一室だ。

 養成所の本館は所員らの部屋もあり、当然ながら一番巡回や警備の目が厳しい区画でもある。しかも一度訪ねたことがあるが、所長の部屋はかなり奥まった位置だったのを覚えている。


「そ、そうだぜイーディス。アタシもさすがに今回はサバランに賛成だ」


 不審者の報告をしようとして、アタシらが所員らの建物に侵入する不審者として発見されてしまっては元も子もない。

 アタシもサバランに賛同し、所長へ報告するというイーディスの案を反対するが。


「二人とも、落ち着け」


 それでもイーディスは表情を一つも崩さずに、言葉を続ける。


「俺は別に所長の部屋まで行くなんて、そんな危険度の高い話をしちゃいない」

「じゃあ、どうやって──」


 どうやらイーディスも、この時間に所長の部屋にまで行く行為が如何(いか)に危険を(ともな)うのか、理解していない訳ではない。

 にもかかわらず、自分の提案を取り下げるつもりもないイーディスの態度に。

 アタシはいよいよ何を考えているのか理解が及ばなくなっていたが。

 

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