遡りの外法
「――既に遡ったのか?」
「ああそうさ」俺は苛つきを抑えて答える。「遡ったよ遡ったもう何度も遡った何度も死んで何度も遡ったさ。これは一体どういう――」
「素晴らしい!」ヨルは唐突に叫んだ。「稀人召喚のみならず、遡りの外法にまで成功するとは……今日はなんと素晴らしい日だ! 間違いなく歴史に残る一日となるぞ! 偉大なる魔術師ヨルガリア=ブーグルトが、世界の運命を決定した日だ!」
あ、なんかスイッチ入っちゃった?
「今日という日は"ヨルガリアの日"として万人に記憶されるだろう! 毎年この日が来る度に国中が盛大に祝祭を挙げ、世界最高の魔術師の名前はその偉業とともに親から子へと語り継がれる! そしていつからか私は神格として崇められるように――」
黒いローブの下で小刻みに震えるヨルを、俺はじっと見つめる。
「――おっと」ヨルは俺の方を向く。「こほん。勇者イリス殿、でしたかな? もちろん、祝日の命名に関してはあなたに優先権があります。世界を救うことを運命付けられた勇者なのですから、当然です。そこはいくら私でも譲りましょう。し、しかし。しかしです――」
ヨルは素晴らしい思いつきを得たかのように、指を一本立てた。
「魔王を打ち倒したその日こそ、"勇者イリスの日"と呼ぶにふさわしいのではないですか?」
俺は思わず殴りかかろうとしたが、背後でラートが斧槍を携えていることを思い出し、振り上げた拳をそっと降ろした。
「……いや、どっちでもいいけど、とりあえず、足を止めないでくれませんか? 後ろがつっかえてるんで」
「これは失礼」と言って、ヨルは歩みを再開した。俺とラートもそれに続く。
今回、また俺はいつぞやのようにヨルを言いくるめ、官邸へと向かっていた。
いまはラートとヨルに挟まれ、神殿前の階段を降りているところだ。
別にラガハマとかいう髭のおっさんに会いたいわけではない。
ただ、広場まで降りれば、酔い止め薬をより早く手に入れることができる。
既にペオルには酔い止め薬を持ってくるよう頼んでおいた。
先に階段を降りて薬品庫へと向かっているはずだ。
俺たちが官邸に着く前には薬を持ってきてくれるだろう。
平穏に事を進めるにしても、できるだけ早く薬を手に入れたい。
「あのー、そのー……」ヨルが階段を下りながら、もじもじこっちを伺ってくる。「『どっちでもいい』というのは、つまり、今日は『ヨルガリアの日』でよいということですか、イリス殿?」
まだ言うかこいつは。
「ああうん全然オーケー」俺の言葉にヨルの顔がパッと明るくなる。
「それより、遡りの外法? がどうとか言ってたけど、どういうことだ? なにか俺のループについて知ってるのか?」
「それはもちろん!」ヨルはドヤ顔をする。「私が召喚陣に仕込んでおいたのです」
やはり。
薄々察してはいたが、こいつの仕業だったか。
複雑な気持ちだ。
ループがなければ何度も死ぬような苦しみを味わわなかった。
しかし、ループがなければ俺は今ここには立っていない。
ヨルを憎むべきか、感謝するべきか――まあ、とりあえず。
「詳しく説明してくれないか? まずその、外法ってのは何のことだ?」
「ふむ。異世界から来た御仁が知らぬのも当然」ヨルはひとり頷く。「よろしい、説明しましょう。外法というのは……」
「あ、いや、こっち向かないでいいから。階段降りながらでいいから」と、俺は無理やりヨルを前に向かせる。
「むう。顔を見ずに講義というのは難儀な――」
「つべこべ言うな。今日が『イリスの日』になってもいいのか?」
「――不肖ヨル、歩きながら説明させて頂きます」
ピンと背筋を伸ばしてすたすた歩く黒魔術師の少女。
「まず、〈外法〉というのは、現代の魔法理論で説明の付かない現象全般を指します」
あまり説明になってない。
「具体的には?」
「様々です。実に様々です。そう、例えば――
『運が良くなる』『物の重さが消える』 『未来に起こることを夢に見る』
――などが有名な外法として挙げられるでしょう。
それぞれ、
『揺らぎの外法』『量りの外法』『微睡みの外法』
と呼ばれております。
これらの外法は古くから知られ、いまだ熱心に研究されている分野です。
一方、かつて外法とされていたものが、現代では魔法として説明できるケースもあります。
古くは『物が燃える』『雷が落ちる』『水が凍る』ことすら外法と呼ばれていました。
今では当然、これらはすべて精霊の働きとして原理が解明されています。
完成された魔法理論の分野には〈魔術〉としての名前が、王立魔法協会から与えられます。
『火焔魔術』『雷電魔術』『氷結魔術』と言ったように……」
うーん。精霊? なんだそりゃ。
現代日本人の俺にとっては、魔法と外法の境目がよくわからない。
だが、おそらく。
〈外法〉ってのは、俺がいた世界における〈魔法〉みたいものだな。
科学理論で説明の付かないことをひっくるめて魔法って呼んでたわけだから。
つまり、科学→魔法、魔法→外法、ってとこか、
俺の世界の言葉と、こっちの世界の言葉を対応させるとしたら。
ややこしい。
「……ん? 『物の重さが消える』って、言ったか? 空中浮揚は魔法じゃないのか?」
俺がオイタをしたときに、ペオルが唱えて俺の身体を浮かせた呪文だ。
「ほう。さすが勇者どの」ヨルが振り返った。目が輝いている。
「鋭いご指摘です! 〈空中浮揚〉と〈量りの外法〉は、未だに少なくない魔術師の混同するところ。先に答えを言ってしまうと、空中浮揚は風霊の力を借りた魔術、つまりは風雲魔術の応用にすぎません。ところが、〈量りの外法〉は一見すると空中浮揚と同じようでも、精霊の力や魔力をまったく必要としない、原理からしてまったく異なる現象なのです!」
ヨルは階段を駆け下り、後ろ向きに歩き始めた。
「五百年ほど前の古文書に、三代目勇者が『千の剣を身の回りに浮かせていた』という記録が残っているのです。これをほとんどの学派は単に『三代目勇者は風雲術師であった』と解釈していましたが、ある学派だけがこれを魔法ではなく外法であると主張し、互いに喧々諤々の議論を交わしていたのです。ところが近年になって、旧魔王城の遺跡が発掘され、そこに魔力枯渇の魔法陣が仕掛けられていたことが判明しました。魔力の枯渇! そのような場所では、如何に勇者とて、毛ほどの魔術も使えるはずありません。にもかかわらず古文書は、魔王城に入った勇者が尚も『千の剣を振り回した』様子を繰り返し記述している……この矛盾から、腰の重い王立魔法協会 も、ついに〈量りの外法〉の存在を認定せざるを得なくなったわけです……もちろん、私は遺跡など発掘される前から、この外法の存在を確信していましたがね? 古文書には勇者が『物を重くしている』と読み取れる描写もあるのだから、すべてを単純な風雲魔術に帰するには、明らかに無理があった……そう! 私は〈量りの外法〉は物を軽くするばかりではなく、重くすることもできたと考えています。この考えはまだ王立魔法協会に認められたものではありませんが……まったく、奴らときたら! 外法の研究というだけで他人を異端扱いしおって! 宮廷魔術師だのと言っても、地位に安住して探究心をなくし、未知の存在から目を背ける連中ばかり! 中には『すべての外法は既知の魔法で説明できる』などと戯れ言を吐く奴もいるほどです! 現在確認されているだけでも外法には魔力や精霊を介在しないという共通点があり、これは明確に魔法の定義から逸脱――」
「はいストーップ!」
身振り手振りを交えて唾を飛ばすヨルに、俺は待ったをかける。
ヨルの社会に対する呪詛を聞くだけで貴重な10分を終えたくはない。
「ストップストップ……いや、足は止めないでいいよ?
あー、魔法と外法の違いについてはなんとなくわかった。もうそれはいい」
ヨルが外法研究の専門家で、魔術師のコミュニティにおいては異端らしいということもわかった。
「むう。〈熱りの外法〉と火焔魔術に関する議論もまだあったのですが……」
ヨルは口を尖らせる。
何やら色々な外法が出てきたが、肝心の〈遡りの外法〉はまだ話に出てきていない。
まあ、どういう力なのかは聞かなくてもわかるからいいけど。
今はそれよりも先に知りたいことがある。
「三代目勇者が〈量りの外法〉とやらを使っていたと言ったな。
そこを詳しく聞きたい。俺も勇者なら、同じ外法を使えるんじゃないか?」
胸のときめきを抑え、冷静に尋ねる。
「ふむ……どこからどう説明したものか……
まず、ほとんどの〈外法〉は、神隠しや人体発火のように、偶発的に起こる自然現象として確認されるのが普通です。
しかし、ある非常に限られた特殊な場合に限り、人為的に〈外法〉を起こせることが知られています。それこそが――」
「勇者さま! お薬を持ってきました」
ヨルの言葉を遮ったのは、白いローブに身を包んだエルフの少女、ペオルだった。
手に握った青い瓶を見せびらかして、こちらに走ってくる。
「おう、サンキュ」と、俺はそれを受け取って一気に飲み干す。
何度飲んでもドクターペッパーの味である。
「わぁ、豪快な飲みっぷり。さすが勇者さま」と、ペオルが手を叩く。
「おだてても何も出ないよ?」
俺は空になったペオルに瓶を突き返し、晴れ晴れとした気分で時計を見る。
今回、酔い止め薬を手に入れた時間は――
〈21:25〉
なんてこった。
これじゃ神殿を逃げ出したときと変わっていない。
危険を顧みず酔い止め薬を自力で取りに行く意味はなかったのか。
なぜだ。
ペオルが俊足なのか?
俺の知らない秘密のルートがあるのか?
――いや、違うな……俺が遅すぎるだけだ。
特に、俺が銅像の後ろに2分も隠れているのは無視できないだろう。
あれは大きなタイムロスだ。
しかし、ペオルならそもそもあそこでトラップされないわけだ。
……ああ、今までの努力は一体なんだったんだろ。
目の前のことに夢中になりすぎて、損得勘定を忘れていた。
「あの、勇者さま……」黙りこんだ俺に、ペオルが心配の声をかける。
「お薬、効いてますか? 魔法で精製された薬なので、すぐに効き目があるはずなんですけど……」
「……薬はちゃんと効いてるよ。ありがとう、ペオル」
「ほっ、よかった」
ペオルが加わり四人になった俺たちは、再び官邸へと歩き出した。
「すまん、ヨル。話の途中だったな。
えーと、なんだっけ? 結局、勇者なら外法を使えるってことでいいのか?
じゃあ俺にはまだ何か秘められた力が――」
「事はもう少し複雑です」ヨルは首を横に振る。
「確かに、異世界から訪れし者――稀人は〈外法〉を意図的に使える場合があります。
一方、この世界の住人、すなわち我々に外法を操る力が備わったという話は古今東西ありません。
おそらくは稀人がこの世界の〈外〉の存在であるという、まさしくその理由によって、
この世界の秩序から逸脱した〈外法〉を使うことが許されている、と私は考えています。
そしてもちろん、勇者と呼ばれる存在は、外法を使える稀人に限られています」
「いやそれはわかった、だから俺も――」
「ただし」ヨルが人差し指を立てる。
「歴史上確認される限り、ひとりの勇者が使える外法は一種類だけです。
また、勇者の使える外法は、どうもその勇者に特有のものらしいのです。
三代目勇者は〈量りの外法〉しか使えなかったし、他の勇者は〈量りの外法〉を使えなかった」
俺は首をうなだれる。
「っつーことは、〈遡りの外法〉とやらを使える俺は……」
他の外法は使えないということか。
「おそらく」 ヨルは頷く。
「しかし、これまで召喚された稀人三百人のうち、勇者と正式に認定されたのは六人だけ……
たったの六人です。これだけの数字では、学術的に確たることは言えません。
もしかすると、イリス殿が……他の外法を使えるときが……来る……かも」
「無理に気を遣わなくていいよ」
……しっかし、稀人三百人に勇者六人か。
ラガハマ将軍もいつだったかそう言ってたな。
確率にして、たったの2%。
小さな宝くじに当たるような幸運だ。
「せめて勇者として選ばれた偶然に感謝するか……」
「いや、それは偶然ではありません。必然です。
私が召喚陣に仕込んだと言ったではありませんか」
「あ、そうだったな。
……ん? でも確実に勇者を召喚する手段があるんだったら、
どうして今までの歴史でそんなに勇者が少ないんだ?」
「フフ。よくぞ聞いてくださいました。確かに本来、稀人が外法を使えるかどうかは、召喚者にとっては完全なる偶然。それも百人に二人という小さな可能性に掛けるしかない。もしかすると外法を使える条件が何かあるのかもしれませんが、今のところは誰も知りません。また仮に召喚されるのが勇者であるにしろ、何の外法を使えるかは事前に予想しようがない。いくら勇者が戦略兵器たりえる存在とはいえ、そのような偶然に頼るのは心許ないことです。もし私が無策で稀人召喚を行うなどと言っていたら、軍は一銭足りとも金を出してはくれなかったでしょうな!」
早口で喋りながらヨルは、官邸の前に立つ守衛に手を振る。
守衛が一礼して俺たちを敷地内に通す。
「そこで私は、自ら外法を編み出すことにしたのです。ヒントは、既知の外法が魔力を必要としないということにありました。この世界では、あらゆる自然現象に魔力の流れが伴います。ちょっと物を動かすにしても、相応の魔力が必要なのです。人間の筋肉とて、元を辿れば魔力によって動いている。では、外法だけが例外なのか? いや、外法も法、なにか秩序があるはず。そして私は考えました。この世界に〈外〉があるのなら、そこにも魔力はあるに違いない。稀人たちは、おそらく己の身体を通して、この世界の外から魔力を調達しているのだ、臍の緒を通して母親から魔力をもらう胎児のように――そう気付いたのが今から十年前です」
ヨルは遠い目をする。
「〈再帰的召喚〉――初期の構想ではそう呼んでいましたが、なんてことはありません、普通の召喚魔法と同じ要領で、呼び出す対象を己の願いに沿うよう選定するのです。ただし、過去の魔術師のように『魔王を倒せる勇者を』などという過ぎた願いでは、召喚陣が相応しい相手を見つけだす前に、魔力が尽きてしまう確率の方が高い。そこでわたしは、『魔王を倒せなかった勇者を』と願うことにしました。ええ、何の意味もない、馬鹿げた願いに聞こえることでしょう。しかし、召喚された勇者の脳に、同じ召喚陣が転写されるよう仕込んでおくと――」
魔女は黒いローブを翻し、二階へと続く階段を昇る。
「魔王を倒せないことが確定した瞬間、勇者は『過去の世界』に召喚されることになる。そう、勇者の精神は魔王を倒せないかぎり、時を遡ってこのマィアウリスの丘に戻り続けるのです。そしていつかは、豊富な知識と経験を持った勇者が、魔王を打ち倒す。そのとき初めて歴史は前に進むのです。 逆に言えば、歴史が前に進むのは、勇者が魔王を倒したときしかありえない! 最終的には勇者が必ず魔王を倒すよう、世界の運命を確定できる! ……もちろん、最初の一回の召喚だけは例外的に異世界から器となる肉体を呼び寄せる必要があり、これには相応の大きな魔力を用意しければなりませんが、『魔王を倒せる勇者を』という従来の願いよりはずっと少なくて済みます。そして二度目以降の『未来の世界からの召喚』は、魔法陣の共鳴によって相手を探す手間が省ける上、どれだけ桁違いの魔力が必要だったとしても、勇者自身が『この世界の外』からそれを調達してくれるのです! たったひとつの召喚陣にこれだけ複雑な命令を織り込むのには随分と苦労しましたよ。おかげで召喚酔いのことなどすっかり忘れておりました。
――以上が〈再帰的召喚〉、もとい、〈遡りの外法〉のからくりです。どうです、ご理解いただけましたか、この素晴らしさが? 鰊で鯨を釣るような、実に画期的で経済的な魔法、いや、外法なのですよ! だから感謝するなら偶然などではなく、この私に感謝して欲しいものですな、イリス殿!」
「あーうん、とりあえず、ありがとう……?」
早口すぎて言っていることの半分も理解できなかったが、とりあえず感謝の言葉を言っておいた。
俺の友達にも得意分野の話題になると早口になるオタクいたわ。
「ううっ、なんど聞いてもよくわからないです~」
話を横で聞いていたペオルも頭を抱えている。
ラートは……兜で顔が見えないし、だんまりを決め込んでるが、
この脳筋お姉さんがわかっているとは到底思えない。
「さあ、着きました!」いつになく清々しい表情のヨル。「ここに砦の司令官がいるはずです」
ヨルが作戦会議室の大きな扉を、躊躇なく両手で押し開ける。
「ラガハマ将軍! 約束通り、勇者殿をお連れしました!」
部屋中央のテーブルを囲んでいた男たちが、一斉にこちらを向く。
突然の闖入者と予想外の言葉に、驚きの表情を浮かべている。
「勇者だと!?」「いま、勇者と言ったか?」「おお、なんと!」 「まさか、本当に……」 「お伽話ではなかったのか!」
口々に騒ぐ部下を制し、眼帯のドワーフ、ラガハマ将軍が口を開く。
「素晴らしい! 勇者召喚に成功するとは……ヨル殿、あなたは一流の魔術師でいらっしゃる。これで戦況が覆りますぞ!」
「フフ、お世辞は結構」と、まんざらでもなさそうなヨル。
「それより、勇者殿が将軍殿にお伝えしたいことがあるとのこと。さあ、イリス殿、どうぞ」
黒いローブがすっと横に動き、俺の姿を衆目に晒す。
うーん、照れるね。
「あー……勇者のイリスだ。手短に言おう。
とある外法により、俺は既にこの世界の未来を知っている。
伝えたいことは、この地に大きな危険が迫っているということだ」
「き、危険とは?」ラガハマ将軍が息を呑む。
「何者かが、ここに星を落とそうとしている――彗星魔術だ」
俺の言葉を聞いた瞬間、ヨルの顔から笑みが消えた。
「彗星魔術 !? 十大禁呪のひとつではないか!」
ヨルの言葉に、部屋中の人間の顔がサッと青ざめた。
「禁呪だと!?」「いったい何者が……」「魔王軍に決まっておる!」「罰当たりめ!」
ラガハマ将軍の額にも、大粒の汗が浮かんでいた。
「ま、まことですか、勇者殿……そのような恐ろしい未来が待ち受けているとは。
いやしかし、事前に来るとわかっていれば、何かしら対策が立てられようというもの。
それで、その〈星落とし〉とやらが実行されるのは、一体いつのことなのです?
十年後ですか? 一年後ですか? 一ヶ月? 一週間?
よもや、明日ということはありますまいな?」
「……どう思う、ヨル?」俺は隣の少女に尋ねる。「10分で彗星魔術の対策を立てられるのか?」
「え?」ヨルに困惑の顔が浮かんだ。
部屋のテーブルやイスが、ガタガタと震えだした。
「いや、違うか」俺は腕時計を見た。「もう1分もない」
窓の外から、ゴオオオオというジェットエンジンのような低い唸り声。
「馬鹿な……」ラガハマ将軍が悲鳴を上げる。「馬鹿な ! 馬鹿な!」
窓から差し込む赤い光が、冷や汗を浮かべたヨルの横顔を照らす。
「勇者どの、まさか――10分間だけ、なのか?」
俺は肩を竦めた。
〈21:30〉




