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銀の衝動

ペスレス大陸…

総面積2000万キロ以上の大陸である。

ペスレス大陸には多数の種族が生息しており、

複数の国家が樹立されていた。


そのペスレス大陸の最北東端にその国はある。

名を<ユニティ>。

海に面している沿岸国であり、総面積は約20万キロ程のペスレス大陸唯一の人間主導国家である。


隣接している国家を見てみよう。


ユニティを中央に見て、

南東に位置する国家<シャフルー>。

魔法に秀でていて、身体能力も高い上に平均寿命も人間と比べると遥かに長い、<エルフ>が統治している国家である。

ちなみにこの国での人間の扱いは奴隷以下であり、シャフルーとユニティは戦争こそ起こっていないものの、激しく水面下で対立している。


次は南東、そして南を支配しているペスレス最大の国家、<ディボナール連邦>。

様々な種族が共生している多種族国家だ。

人間のこの国での扱いは奴隷とされており、ユニティ領に連邦の兵隊が侵入し領民を誘拐する事件も多々起こっているほど連邦とユニティの仲は悪く、過去に戦争も何度か起こっている。


その他都市国家等が複数存在している他は、今は説明する必要は無いだろう。


ユニティは長い間鎖国を続けてきた。理由はユニティ領内に異種族が入り込んできた場合、人間を見下しているほとんどの異種族が人間に友好的な態度を取るわけが無い為、犯罪率の上昇や治安の悪化を招くと考えられたからだ。更に大抵の種族は人間より強いため、一度内部に入られるとユニティはたちまち内部崩壊してしまう。


例をあげると、数十年前に連邦領と近い位置に存在していた村が、連邦の軍隊に襲われた事件が発生した。

その結果ユニティ国内にて市民の不安が爆発し、暴動が発生。鎮圧のために複数の死者を出してしまったのだ。


そういう経緯もありユニティ領内には人間種族しかおらず、大抵の人間も異種族を酷く嫌っていた。


話の舞台はユニティ領の丁度中央に位置する首都<ペンタゴン>の南、約100キロ程離れた場所にある町、<リョル>に移る。

この町の警備長である通称鉄の女・<セスラ>は警備小屋の二階、警備長室で暇をもて余していた。


セスラは、戦士という言葉を体現している人間だ。

180を越えるであろう身長を持ち、体は筋肉隆々としている。髪は銀のショート。目の眼光は鋭く、端麗な顔立ちながらも決して近寄りがたい威圧感を放っている。有事の最に身につける鎧と剣は強化魔法がかけられたミスリル製だ。厚い皮を持つアリゲーターの獣人の表皮でさえ簡単に切り裂く。

連邦との小競り合いが唯一の楽しみと嘯くその姿は、髪色と合間って頑強な鉄を思わせるのだ。


「ぁぁ…暇ぁ!なーんでウチが警備長なんてしなくちゃいけないのさ…あー!ウチも暴れたいぃーー!体が怠けちゃうよー!」


癇癪を起こしたように軽く叫び、天井を虚しく見上げるセスラ。

天井には水晶のような物が紐で繋がれており、ぶら下がっていた。現代でいう所の、電球のような働きをするアイテムである。

特別高級な物らしく、金細工が施されていた。


何故セスラが暇をもて余していたか。その原因はセスラの戦闘能力と頭脳だ。戦闘時におけるセスラの判断能力は素晴らしく、ユニティ中でも単純な戦闘能力だとトップクラスに位置する程。

が、反面幼い頃より剣の訓練ばかりしていたせいか文字が読めないのだ。そのために警備長という、元来内政ばかりしなければならない地位にいるにも関わらず、彼女に回ってくるはずの地味な仕事は助手が一手に引き受けている。そのため、暇なのだ。

二日後に行われる訓練を待ち遠しく思いながら、水晶をぼーっと眺めてるセスラ。最近は楽しい<事件>もない。

酔っぱらいの本気の喧嘩でも起きないかなー…と、不謹慎極まり無い事を思っていたその時。


……ふと、水晶が揺れた。

この部屋は風通しが悪く、水晶のような重いものは簡単に揺れることはほぼないのだが……また、揺れた。


セスラは直感的に不穏な物を感じた。

腰に据え付けてある剣に手をかけ、水晶を睨む。


暫く水晶は揺れた後、突如激しく動き出した。まるで自我を持っているかの如く跳ね回り、ついには紐をちぎり、勢いよく窓ガラスを突き破って外に飛び出してしまった。


セスラは急いで窓の側に駆け寄り、水晶を探そうと外を見る。


外は異常な光景が広がっていた。


様々な物がある一点を目指して移動しているのだ。まるで自我を持っているかの如く、跳ねたり転がったりしながら。


急いで警備室から飛び出し、水晶が向かった場所へ走る。


何か異常な事が起こっているのはわかったが、セスラの心はときめいていた。気分の高揚は顔にもでる。本能が刺激され、野獣のような笑みが漏れてしまう。


満面の笑みを浮かべるのをなんとか抑え、物達が目指していたと推測される場所についた。

既に辺りには人が沢山いた。皆、ある一点を見つめて唖然とした顔になっている。否、唖然としてる人だけでは無い。

恐怖に顔を引きつらせてる人もいれば、歓喜の笑みを浮かべながら涙を流してる人もいる。


その人達の目線を追うと…それは居た。


それは獣人。異種族だったが、セスラが以前目撃した連邦の獣人とは風格が違った。立派な佇まい、人間を軽く吹き飛ばせそうな大きな体。そして何より…神を思わせる、黄金の体。

人々の心に警戒心ではなく、畏怖の感情を植え付ける威圧感。


…セスラはそれを目撃したが、他の人間とは違う反応をした。


セスラはこの黄金の獣人を見た直後、確信したのだ。


これから起こる事件は…必ずウチの心を満足させてくれるほど、とびきり大きな物に違いない!


歓喜の笑みを必死に隠そうとするが、最早止められない。セスラは狂気的な笑みを浮かべながら獣人に歩み寄った。

この爆発的な、恋にも似た狂気的なこの感情!

どういう風にアイツにぶつけてみようか…


黄金の獣人はセスラを一瞥し、小さな声で呟いた。


「………え、なにコイツ…」



セスラの直感は当たっていた。

実際彼女の運命は今この瞬間、

黄金の歯車によって動き始めたのだから。

黄金戦争録における用語解説

種族編


人間

二足歩行をする知名度の高い種族。かつてペスレス大陸全土の支配者であったが、とある事件を皮切りに権威が失墜。現在はペスレス最北東端に小規模の国を構え、僅かな都市と町村を複数抱えるのみになっている


種族としての長所は平均して高い知能を持つ他、低確率で優れた能力をもつ個体が生まれる事。

弱点として通常の個体の戦闘力は全種族中最低クラスである上、生殖能力も平均より劣る。環境適応能力も低く団結力も無い為、一度劣勢になると壊走しやすい


また、ペスレス大陸で最も嫌われている種族であり、ユニティ国以外での人間の扱いは大抵奴隷か家畜。

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