錆色の船出
視点はリドに戻る。
最悪だ、異種族の体になるなんて…
もしかして夢なんじゃないか?
いや、夢であってほしい…
夢である事を願うリドだが、夢であるはずがないのは解っている。
しかし何故獣人…それも、黄金の獅子に…?
そんな事を考えていると突然、特徴的な銀色の髪の女がリドの前に歩み出てきた。
見覚えがある…嗚呼、不味い!この町の警備長だ!
覚えがある。鉄の女のセスラと吟われる人間で、事件や戦闘に関与するのが三度の飯より好きらしい。
実際、盗賊団の仲間が数人この女に捕らえられたそうだ。
盗賊の俺からしたら、絶対に出会いたくなかった。
そんな鉄の女…セスラは何故か震えながら、
野獣のような笑みを浮かべていた。
明らかに異常な雰囲気を纏っていた為、つい俺は
「…え、なにコイツ…?」と、無意識に呟いてしまった。
するとその呟きが聞こえたのか、セスラが不気味な笑みを浮かべる。俺は不穏な物を感じ一歩下がろうと…
遅かった。足を動かす前にセスラが物凄い早さで俺の体に飛び付いた。どうやら、地面に押し倒そうとしているらしい。
不意に飛び付かれた為に対応できず、
大きくバランスを崩した俺は派手な音をたてながら仰向けに倒れてしまった。
幸い負傷はしていないようだ。
だが俺を組伏せようとしているセスラを何とかしなければならないだろう。
「や、やめろ!俺は被害者で…」
「くひひひひっ!!なあ、なあなあなあ!
ウチ、お前が欲しいんだけどさぉ!!」
「は、はぁ!?」
何を言ってるんだコイツは!?
若干引きながらセスラを説得しようとしていると、
今度は複数の足音が俺を囲むかのように近づいてきた。
辺りを見渡すと、武装した警備兵達が俺を取り囲んでいた。
そういえば、今の俺は獣人の姿なんだっけ…
や…やばくないか?今の状況…
今自分がどんな状況なのか、
理解してしまった俺の息が荒くなっていく。
異種族がユニティ領内で捕まる。それが意味するものは…
俺に馬乗りになっているセスラに警備兵の一人、
黒いオールバックの髪の男が話しかける。
「警備長、その異種族は…?」
「ディセル、これはな、こいつはな!ウチの運命なんよ!!見た瞬間ビビーッてきたんよ!?」
「…警備長はお疲れの様子。しかし、異種族を捕まえたのは流石と言うべきか……おい、獅子の異種族の貴様。何者だ?」
ディセルという名の男が、俺を睨みながら質問してくる。
話が通じそうなまともな人間だが、今はまともな人間の方が厄介かもしれない。なんとか生き延びるために、俺が剣を盗んだ事や盗賊であることは隠し、俺の身に何が起こったかを説明する。
俺の証言を聞いていたディセルは眉をひそめる。
「眉唾ですね…セスラ、こいつを拘束します。手伝ってください」
「えー…ウチの運命…」
…不味いことになった。
俺は元人間…しかし盗賊団に属している身だ。
人間だったことを証明できたとして、もし盗賊であることがバレたら結局俺は殺される。
捕まった仲間がどうなったか知らない訳ではない。
自分も人を何人も殺した。
始めて人を殺したとき、自分も誰かに殺される事になるだろうと、死を覚悟した。
けど、…覚悟したとはいえ、怖いものは怖い。
死ぬのは嫌だ。
生き残るため、俺は即座に行動した。
先ずは馬乗りになっているセスラを全力で突き飛ばす。
ディセルと話をしていたセスラは俺の行動に反応できなかったらしい。簡単に吹き飛んでくれた。
運命の人どうこうという内容のわめき声は無視する。
ディセルは一瞬狼狽するが、即座に剣を抜き俺に斬りかかってくる。
…反応速度はこちらの方が上だった。
剣が俺の体を切り裂くよりも早く、俺はジャンプする。
跳躍力もあるみたいだ。
5メートルほどの高さまで跳躍することに成功し、
側にあった建物の壁になんとかしがみつく。
壁登り…ある程度修練を積んだ盗賊ならば
凹凸のある壁をよじ登る事は簡単にできる。
幸いにも今俺がしがみついている建物の壁は、
凹凸が僅かながらあったのだ。
真下から警備兵達の狼狽する声が聞こえる。
どうやら壁登りを出来る人間はいないらしい…
俺はチャンスとばかりに、急いで屋上まで這い上がる
…これからどうするべきだろう?
辺りを警戒しつつ、これから自分が取るべき行動を考える。
ユニティ領内にいるのは危険だろう…
仲間の所にも帰れない。連邦に行くのは正直嫌だ。
奴隷だった頃の記憶は殆ど残っていないが、本能的に連邦に行くことを拒否している。
なら…行くべき場所は一つしか無いだろう。
エルフの支配している国、シャフルーだ。
シャフルーはエルフ統治国家だが異種族の扱いについてはそこまで悪くないはずだ。
人間やオーク、アンデット等の種族は別だろうが。
一度シャフルーに行き、これからのことを考える。
それでいいだろう…はぁ、本当に災難ばかりの日だ。
リドはそう小さく呟き、東へと歩を進める…




