第二十三話
「その時、呪われた子を産んだ責任を感じた母は、家を出て行ってしまったから──」
「……!」
それは、あまりにも切ないお話でした。
淡々と述べられているようですが、少し覇気がなく感じました。それもそうです。
「重たい話をしてしまったな」
「いいえ。きっとお母さまも、お辛かったのでしょうね」
「ああ、幼いころに母を肯定することはできなかったが、今となっては気持ちがわかる」
「その後、お母さまは……?」
「行方が分からないのだ」
「そんな……」
「もしかしたら、新しい場所で、まったく違う人生を歩んでいるかもしれない。その時は、幸せでいてくれればいいな」
私はその言葉を聞いて悲しくなり、涙があふれてきました。
何故涙が、というと馨さまのやさしさに対してだと思います。子供の自分を置いていなくなった母に対し、憎しみを持っていてもおかしくありません。それなのに、馨さまは「幸せでいてくれればいいな」なんて器の大きなことを言います。
同じことを、私が母に言うことはできるでしょうか。いいえ、そんな風に思える優しさは、私にはありません──。
「どうした?」
「す、すみません……これは同情とかそういうものではなく……。自分が不甲斐なくて」
「なぜだ?」
「私の母親は……馨さまとは真逆でした。白眼の娘を産んでも、それは自分より身分の低い父親と結婚したせいだと開き直っていました。それで私などなかったことのようにして……蔵や家の中に閉じ込めたのも、母で……私はどう回っても、母に対して優しい気持ちを持つことはできませんから」
馨さまは私の涙を優しく拭ってくれました。
「そうだろう。園子はついこの間まで、つらい環境にいたのだ」
「ありがとうございます」
「俺も、ありがとう。やはりお前となら、悲しみも憎しみも全部、分かち合えると思う」
「私も、そう思います」
涙が止まると、馨さまは私をぎゅっと抱きしめてくださりました。ええーっ! と照れてしまいますが、気が付けば、すーすーと馨さまは寝息を立てておりました。
まさか、このまま眠るのでしょうか!?
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「お母さま!!」
「どうしたの瑠璃子、あなた涙を流して」
家に帰るとお母さまは私をよしよしと撫でてくれた。
そのやさしさに包まれたら、私ほっとしてしまった。
「何があったのか、話してみなさい」
「実はね……お姉様に会いに行ったの。元気にしてるかなって思って」
「まあ、あんな子……放っておけばいいのに。ですけど、わざわざ会いにいくのがあなたの優しいところよ」
「ありがとうございます。お母さま。ですが……驚きました。姉さんたら、油小路さまをたぶらかして、すっかり次期侯爵夫人を気取っていたんですもの。その証拠に『YOI SUGISAKI』の着物を着ていて」
「なんてこと……! 家から出た途端……あの子は……」
お母さまは、がくがくと震えて肩をさすり出しました。そして早口で語りだしたのです。
「『白眼』とは、元を辿れば、白狐の力です。狐とは人を騙し誑かす力を持った女狐のようなものよ。まさか、外に出したせいで、呪いの力が強まってしまったんじゃないかしら……」
「そ、そんな! お母さま。お姉さまの呪いがこのまま、油小路さまに広がったりしたら」
「ええ、大変よ。そんな子を嫁に出した我が家は責め立てられて、最悪の場合、男爵家の爵位の没収だってあり得るかもしれない」
「まあ……なんてことかしら。ごめんなさい。お母さま、私が『白髪』のお方との結婚なんて嫌と言ったばかりに、こんなことになってしまって」
「瑠璃子……ひとついいことを思いついたわ」
「なんですか?」
「油小路さまは『白髪』の呪いを持っているとはいえ、次期侯爵。軍の中枢機関に在籍し、皇室とも縁のある期待の若者よ」
「ええ。お母さまのおっしゃる通りで間違いないですわ」
思わずあの場所から逃げ去ったあと、私はどうにもその後が気になって商店街に戻った。
そうしたら園子がまだ商店街にいて、油小路さまと仲睦まじげに総菜を半分ずつ交換して食べているところを見てしまった。
油小路さまは、白髪だけれど、よく見ると整った顔立ちで黒く太い眉が凛としてハンサムて素敵。噂だけで縁談を園子に譲ってしまった自分を恨んだ。
「ですから、園子を連れ戻して、あなたが油小路さまと結婚なさい」
お母さまの言葉に、私は待っていましたとばかりに、にやにやしました。
そうよ、そのはず。油小路さまにふさわしいのは、私。私に違いない。
「お母さま。かしこまりました」
「ふふ。瑠璃子、お母さんは元々伯爵令嬢だったのよ。この家なんかよりずっと格のいい家の出。この家に嫁いだせいで、園子のような娘が生まれてしまった」
高嶺の花だったお母さま。しかし三姉妹の末娘だったせいで、新興貴族であったお父さまの元に嫁ぐこととなった。我が家ではお母さまのほうが発言力が高いのだ。
「侯爵夫人になるのは、あなたのほうがふさわしい。それは間違いないわ。お母さんはあなたに幸せになってほしいの」
「はい、お母さま」




