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第1話:王宮からの召喚状

【不帰の森】から生還して一週間。俺、相川ヒロトは、生まれて初めて「暇」というものを味わっていた。ギルドマスター直々の命令で危険な依頼は全て禁止され、暫定Aランクという破格の待遇で、用意された宿屋のふかふかのベッドの上で毎日ゴロゴロするだけ。もちろん、スキルガチャだけは毎日欠かさず引いている。【バターを塗ったトーストが必ずバターを塗った面を上にして落ちる】とか、【どんな鍵穴にもピッタリ合うが、絶対に回らない鍵を一本だけ生成する】とか、そのラインナップは相変わらずだったが。


そんな俺の元に、王宮からの召喚状が届いたのは、まさにそんな怠惰な昼下がりのことだった。


王都までの道のりは、セリアと二人、王家が用意した豪華な馬車での旅となった。

「いいか、ヒロト。王宮は森とは違う。貴族たちの言葉は、魔物の牙より鋭く、その笑顔はどんな罠よりも狡猾よ。絶対に失礼のないように」

「はいはい」

隣に座るセリアは、まるで保護者のように俺に注意を繰り返す。彼女との間には、もう以前のような壁はなかった。


壮麗な王都に到着した俺たちは、息つく間もなく王宮へと通された。謁見の間には、玉座に座る壮年の王と、その脇に控える者たちの姿があった。

「面を上げよ。【奇跡の調停者】相川ヒロト、そして【銀閃】のセリア。よくぞ参った」


国王テオドールは、疲労の色を隠せないながらも、威厳のある声で俺たちを歓迎した。挨拶もそこそこに、王は本題を切り出した。

「単刀直入に言おう。我が王都は今、神の使いの気まぐれに悩まされておる」


王の言葉と共に、謁見の間の巨大な窓の外に視線が集まる。その先、王宮で最も高い尖塔の頂きに、神々しい何かが鎮座していた。鷲の上半身と、獅子の下半身を持つ伝説の聖獣――グリフォンだ。


「一月前、かの聖獣が飛来し、あの尖塔を己の巣と定めた。我々はそれを吉兆と喜んだのだが…」

王は深くため息をついた。

「聖獣が放つ神聖なオーラが、王都の魔力循環を著しく乱しているのだ。魔法は暴発し、転移門は機能不全。このままでは、王都の機能が麻痺してしまう」


もちろん、騎士団や魔術師団が追い払おうと試みたらしい。だが、少しでも敵意を向けると、聖獣は羽ばたき一つで小規模な嵐や地震を巻き起こし、追い払うどころか被害が拡大するだけだったという。


その時、王の隣に控えていた、いかにも高位の魔術師といった風体の老人が一歩前に出た。

「陛下。もはや猶予はございません。古の禁術【次元追放の印】を用い、かの聖獣を強制的に排除すべきかと」

「大法師ヴァレリウスよ。その術が、王都にどれほどの負荷をかけるか分かっておるのか」

「多少の犠牲は、覚悟の上です」


王はその議論を、手で制した。

「大法師の意見も一理ある。だが、その前に、我々にはもう一つの選択肢がある」


王の視線が、まっすぐに俺を射抜いた。

「【奇跡の調停者】ヒロトよ。森の呪いを解いたというお前の奇想天外な才覚、この王都でも見せてはくれまいか。かの気高き聖獣を、傷つけることなく、穏便にあの場所から立ち去らせることはできぬものか」


謁見の間の全員の視線が、俺一人に集中する。大法師ヴァレリウスの、あからさまに「こんな小僧に何ができる」と言いたげな視線が痛い。

俺はゆっくりと立ち上がり、尖塔のグリフォンを見据えた。


セリアが、心配そうに俺の顔を覗き込む。

「どうするの、ヒロト?」

俺は彼女にだけ聞こえるように、そっと答えた。

「どうするもこうするも、まずはいつも通りだよ」


―――明日の朝、どんなスキルが手に入るか。全ては、そこから始まる。

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