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セバイラモさんの思い



 黒装束の賊の正体は、『スペード』のナンバー『2』。その能力は、影に潜む事。忍びの諜報員。『スペード』初の女だった。


 拠点の異変を察知して、様子を伺いに潜伏し、町を回っていた所で『打ち上げ会場』を発見。1度内に入ってしまえば、あとは行動も自由。食べ放題飲み放題の打ち上げの場だ。


 衛兵達も多い事から、拠点で何があったのか、情報を手に入れるには絶好の機会と判断し、影に潜んで潜伏。様子を伺いながら、ずっと情報収集していたらしい。


 そこで、仲間についてのあまりの言われように、堪忍袋の緒が切れ、飛び出して来てしまったという訳でした。



 えー。それじゃあ、セバイラモさんの思惑通りじゃない? 知ってたの? 忍耐力がない事を? 切れやすい性格だって事を? まさかね? そんな能力、あったら怖いよね。会った事もない人の性格が分かっちゃうなんてさ。欲しい能力でもないけど、敵に回すと怖い能力ではあるよね。



『2』が言ってた事は、半分本音で、半分建て前。

 仲間の事を悪く言われキレてしまったのは本当だが、実のところ、ナンバー『7』とは恋仲にあり、趣味は拷問。2人で拷問し合って楽しんでいたらしい。本当かよ。


 その貴重な趣味を理解してくれる恋人の『7』が、なかなか戻って来なくてイライラしていた所に、その趣味を『ヤベー趣味』呼ばわりされ、『アホな集団』の言葉でプチンときてしまったらしい。


 趣味は人それぞれ。人様に迷惑さえ掛けなければ、良いも悪いもないからね。好きにすれば良いと思うよ。俺はね。でも、趣味をバカにされたからって、いきなり飛び掛かって殺そうとする? それってヤバくない?


 人の趣味について、とやかく言っちゃダメ。下手すると、殺されちゃうかもしれないよ? こっちの世界ってば、怖い世界だね。それが常識だとすれば?


 

『2』が捕まった事により、残りの『1』『3』の情報が得られるかと思いきや、得られたのは、実質『3』の情報だけだった。そもそも、組織の事など興味なし。興味があるのは、『7』と共有できる趣味の事だけらしい。



『1』の事は、『知ってるようで知らない。女性だったような、男性だったような? 理解できない感覚で詳しく説明出来ない。ポッカリ穴が開いたような感じだ。私は、どうしたんだろうか?』 本人談。


『3』は、『ヒステリー気質で、扱いが難しい女だ。

 能力は、小動物遣い。同時に複数の小動物を操り、視覚情報を得られるだけのもの。白黒で見えるだけで、音までは聞こえないと教えてもらった。鑑定能力を持っている事を鼻に掛けるような、面倒臭い性格だ』


『ジョーカー』は、他のメンバーと同様の解答で、『分からない。興味ない』



『2』が着けていた指輪の色は『黒』。指輪まで含めて黒装束だったという訳ね。俺と同じ黒だったなんて、やりますな。何が? 分かりません!


 当然のように、指輪の中身はセバイラモさんが回収し、指輪だけを迷惑料として渡された。おう。また来たよ? そりゃあ、嬉しくない訳じゃないけど、微妙な気持ち。やっぱりオイラ、指輪回収業者かな? なんて思っちゃったりなんかしちゃったりしてね?


 でも、指輪が『黒』になってるって事は、4回は追加で強化されてたって事だよね。それなりの能力になってたはずだ。新しい能力の追加を選んだのか、自分の能力の強化を選んだのかは知らないけど。


 俺の生活魔法でも、それなりの属性が追加されてきた訳だから、実は凄い忍びの者だったのかもしれないね。『くのいち』か。


 男絡みのイライラと、悪趣味な性格さえ無ければ、ヤラレていたのはこっちの方だったのかもしれないね。これだけの敵が居る場所で立ち回っておいて、何とかなると思ってた訳だからね。現に、余裕で潜伏してた訳だから。凄い事だよね。


 影に潜む能力か。うん。使い方次第だよね? 下から覗き放題か? 残念だよ? おー、怖い怖い。



  * *



『打ち上げ亭 とりあえずビールで』の個室。


 俺だけがセバイラモさんに呼ばれ、2人きりでの話をする事になった。ドキドキしてるのは違う意味でだよ? 決して()()()の趣味はない。無いよ? 本当だよ?


 俺には、ミラとアリーが居るからね。言ってみれば、昨日、結婚披露宴をしたばかりの、ホヤホヤだよ? サラサラのもふもふだからね。そこん所は誤解しないでね?



 ナンバー『2』は、ランバール団長とジンバール副団長の2人の手によって、衛兵待機所の地下牢に連行されて行った。


 ミラとアリーは、引き続き『打ち上げ』を楽しんでもらっている。



「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。この話も、別に俺の本業の仕事じゃないから、このままの口調でいかせてもらうからな。君も気軽に話してくれていいから、よろしくな」


「そうですか。それでは、気軽に話させてもらいましょうかね。それで、2人だけで話したいというのは、何の話でしょう?」


「はっはっはっ。そんなに警戒しなくても大丈夫だ。言っただろ。セバイスからも君の話は聞いてるし、俺もそれなりに評価している。今回の件で尚更な。


 だから、しっかり説明はしておかないといけないと思ってな。わざわざ時間を作ってもらったというだけの話だ。いや。本当にすまなかった。申し訳ない」



 どうも話というのは、『ここだけの話』と『ご免なさい』を伝えたかったから。奴隷商館支配としての立場もある。まあ、仕方がないのかな。こう見えても、色々考えてるんだね。うん。意外だね。


 町の警備に関わる事だから、あまり広める訳にはいかない内容だった。警備の仕組みは、この町の機密事項だから、伝えて良い相手は、町長が選んだ人だけで、セバイラモさんは当然その1人。町長の許可もあって、俺には伝えておく事にしたらしい。


 何故か? ナンバー『1』『3』の存在が残っているから。またこの町に現れる可能性もある。だから、今回のように突発的な事態に陥った時でも、臨機応変な対応が出来るようにしておきたい。俺達の戦闘を見て、そうする事にしたらしい。


 ぶっちゃけ、何かあったら協力してねって事だよね? まあ、この町に居る間ならいいけどさ。襲って来るなら返り討ちにしたいしね。


 それで、この町の警備の仕組み。

 町全体では難しいけれど、1部の場所、町長邸宅、奴隷商館、衛兵待機所などの限られた場所には、特殊な感知魔法が展開されており、出入り口で通行人の魔力を確認し、登録した者との区別がつくようにしてあるらしい。


 今回は、特別にこの『打ち上げ会場』に、そのフィールドを展開しておいたらしい。おう。マジで? 最初からそのつもり?


 凄いね。流石魔法の在る世界。なかなか便利な防衛用の魔法もあるんだね。人の魔力を感知して判別出来るなんてね。どれだけの広さ、人数に対応出来るのかは分からないけど、要はそれも使いよう。効率的に設置してやれば、穴を無くす事も出来るのかな。



 それで、団長のランバールさん、副団長のジンバールさん、支配人のセバイラモさんによって、その対策をしてある各所を確認して回っていたらしい。異常がないかをね。


 そしたら、異常が発生してました。おかしいぞ? この会場を出入りした人の数が会わないぞ? 何でかな?


 おお、こりゃいかんって事で、全員集合! まだ8時じゃないのにね? 《スルー》


 それで、会場を見て回っていたが、異常は確認出来ない。細かい位置までは特定化出来ないのだろうね。でも人数は合わないまま。おかしいぞ? それなら、挑発してみるか?


 よし、そうしよう。で、どこでやる? おっ、丁度良さそうな場所に、丁度良さそうな人物が居るじゃあ~りませんか? 


 よしっ。それでいこう。どこに何があるか分からない以上、説明するのはNGだ。後でしっかり説明すれば、理解はしてくれるはずだから、間違いが起こらないように、しっかり警護はするように。


 といった感じの短い作戦会議を経て、GO!


 おう。流石、『即断即決即行動の町 アシャズ』の皆さんだ。早さが売りの町のだからね。そういう裏話があったんだね。それならしょうがないのかな?


 って、なる訳がないでしょうにっ! 俺達は、ただの一般人ですよ? 知ってるでしょ? 俺のこの町での役目は、あくまでも地下施設を作る事だけだよ?



 あっ? ん? あれれ~~? 


『ロジアーブ王国 ガルーマ・ザッヒン領主付き特殊部隊』


 領主代理執行班、建築班、諜報班、戦闘班を兼ねる。それに、『町を1つ作っていい』権利付き。俺の立場、肩書きは、こんなんだった。


 面倒な事は、すぐに忘れたくなっちゃうタイプだから。オイラ、デリケートだからね? そう言えば、『特殊部隊』って入ってるんだった。これも仕事の1つにされても、何の文句も言えないね。そんな感じでも言われてたし? 《スルー》なんて出来ない絶望感?


 そうだった。色々協力して欲しいって事の中にも入ってたね。思い出しました。『地下施設作成』『奴隷狩りの殲滅』『スペード、ウロボロスのマークの組織の情報を探って報告する事』。



『奴隷狩り』の殲滅も、立派なオイラの任務だったんだね。あれれ~~? おかしいなぁ。じゃあ、ツッコム所じゃないんだね。俺、反省。まあ、実際にはツッコんでもないけどね。


 だって、そんな事が出来る訳ないじゃないかぁ。皆さんずっと警戒して過ごしてたらしいんだよ? 拠点壊滅作戦からずっとだよ? おう。お疲れ様で御座います。


 町の平和を守る為、町の平穏を守る為、地道で大変な警戒を続けてくれていたんだね。良い町じゃないか、『アシャズ』。一般市民として暮らして行く分にはね?


 守る側からしたら、大変極まりない努力だね。ありがとう? 俺達が居る間の、平穏で安全な治安の確保はお願いしますね? あははははぁ。




 でも、そうやって教えてくれるって事は、やっぱり、ナンバー『1』『3』が、またやって来る可能性が高いって事だよね? うん。俺でもそう思うから。


 情報を集める役目の諜報員、その『2』が戻って来なければ? 闇の犯罪組織ならどう動く? 


 この町との徹底交戦? 再度諜報員を送って状況確認? こりゃヤバいと考え、お逃げする?


 さあ! どれだと思う? じっちゃん!



 最後に、セバイラモさんからの有り難い忠告もいただきました。


「人間、守るモノが出来ると弱くなる。逆に、強くなるなんて言う奴も居るが、それはない。守る対象が増えれば増える程、それだけ守れるだけのチカラが必要になるからな。


 だから、チカラの無い奴が、守りたいと思うモノを抱えるな。抱えるのは、自分で守れる範囲までにしておけ。それがこの世界の常識だ。能力を持った者が抱える宿命だ。


 その隠してる指輪、それを着けている以上、お前も()()()()の人間だ。どんな能力かは知らないが、それなりに強化されているようだし、使いこなしてもいるようだ。


 そのチカラをどう使うかは、お前の自由だ。それについてどうこう言うつもりもないし、言う資格もない。だが、お願いだから、あんな『スペード』のような、闇の組織みたいな方向には行ってくれるなよ。


 俺は、認めた奴らとは闘いたくはないんだ。それだけは覚えておいてくれ。


 はっはっはっ。つい喋り過ぎてしまったな。歳を取ると、どうしてもお節介を焼きたくなるものだな。まあ、そう言う事だから、これからもよろしく頼むぞ。


 それから、『これ』を渡しておく。俺からのプレゼントだ。恐らく、これで一旦打ち止めになるはずだ。それ以上のチカラが欲しければ、()()()の世界に来るしかない。()()()に来るなら教えてやるが、どうするね?


 まあ、急いで結論は出さなくてもいい。セバイスも狙ってる事だしな。はっはっはっ。まあ、その気になったら、また訪ねて来ればいい。俺も待ってるからな。じゃあな、時間を取らせてすまなかったな」



 そう言って、『打ち上げ亭 とりあえずビールで』を出て行った。何とも締まらない店名だと思ったね。セバイスさんと同様に、セバイラモさんの背中も漢を感じさせる程に格好良い。


 なのに、去りゆく先の看板に、この店名が刻まれているのだから仕方がない。『とりあえずビールで』。俺が残念だと思ってしまったのも、仕方のない事だったのですよ?



 ありがとう。セバイラモさん。ちょい闇オヤジなんて思ってご免なさい。あの軽さも口調も、渋くて優しい本心を誤魔化す為に、照れ隠しで演じているだけなのかもしれないね。


 これくらい持ち上げておけば良いかな? うん。良いよね。もう行っちゃったからね。


 ふー。疲れたよ。ナンバー『2』との戦闘よりも気疲れしたよ? 何でだろ? 相変わらず、セバイスさんも俺をそっちの世界に引き込もうと考えてるのか。何でだろ?


『これで一旦打ち止めになるはず』とか、『それ以上のチカラが欲しければ、こっちの世界に来るしかない』なんて言われたら、気になっちゃうじゃないか。何の事を言ってるのかね。


 俺には、そんな大層なチカラは必要ないと思ってたけど、セバイラモさんの言う通り、『人間、守るモノができると弱くなる』。


 うん。俺もそう思う。ミラやアリーの事を考えると、弱くなってしまう俺がいるのかもしれない。後先考えずに突っ走ってしまうなんて出来ないからね。


 勿論、守る為の努力はするけど、痛い所を突かれたね。流石だね。よく分かっていらっしゃる。ははは。



『守る為には、チカラが必要だ』か。戦いたくなんかないのに、守る為には、守る為のチカラが必要だ。そのチカラ次第で、守れる範囲が決まる。


 チカラとは、地位? 武力? 能力? 知識? 人? 金? これ全部?


『この世界の常識』だってさ。『能力を持った者が抱える宿命』。どこまで知ってるのかな。奴隷商館支配人。何か違うチカラを持った人達だ。俺にはまだ理解すらできないけどね。


 プレゼントまでくれちゃうし、どんだけお節介なんだよね? ははは。嬉しいけどね。



 能力は一旦打ち止め。それ以上のチカラもあるが、そのチカラを欲するなら、そっちの世界に行くしかない。うん。怖い勧誘だ。どっかの闇の組織よりも怖いかもしれないよ? あんな人達が平然として居るのが常識な世界ならね、あはははは。行きたくない。そんなチカラは要りません。



 俺は、生活魔法を相棒に、みんなが安心して平和に暮らせる場所を作って行くんです。それ以上でも、それ以下でもありません! そう決めたのは、俺自身です!



「はい。心の準備もできました。ほっ、『パカッとな』」


 はい。やっぱりそうだ。これだと思った。これなんだなぁ。まだ上がありましたか。さあ、何色に変わるのかな? 楽しみだ?



「あれ? これって、『メッセージの主』とやってる事が似てないか?」



 あれれ~~? これって、核心か? 突いちゃったりしてるかな? 核の心を?


 いや。深入りは良くないな。深煎り珈琲は好きだけど? あっちの世界になんて行きたくない。オムツなんて、いくらあっても足りないよ?


 うん。これ以上考えるのは止めとこう。俺ってば、それで正解だと思うかな。



 これってば、今着けちゃうと、しばらく『ポワーン』ってなっちゃうヤツだよね。もう4回もやってるから、分かってるんだよ。騙されないよ?


 ここではめるのはマズいかな。宿に戻ってからにしようかな。うん。そうしよう。俺ってば、少しくらいはお預け出来る大人なんですよ?



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