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そういう事にしておいた



 通常は、『奴隷商の腕輪』から『主の腕輪』『隷属の首輪』に魔力が流され、紐付けられる。これにより、その後の管理が可能になるという仕組み。その後に、『主の腕輪』『隷属の首輪』の間で同時に魔力を流して『対』の契約が結ばれる。これが俗に言う『奴隷契約』。


 ちなみに、今回はめた『首輪』は、セバイスさんから受け取った物で、セバイスさんの持つ『奴隷商の腕輪』によって魔力が流され、紐付けされた物。そう、正規品だ。

 俺が今着けている『主の腕輪』も、同様にセバイスさんから渡された正規品だ。だから、『隷属の首輪』との間で魔力を流してやれば、『対』の契約が結ばれ、正式に『奴隷契約』が成立した事になる。


 俺が『ジャメン』に行った『強制奴隷契約』より強力だよ? 何てったってアイドルだからね? 《スルー》 正式な契約だからね。


 なぜ俺が、そんな正規品を持っているんだろうね。うん。謎だ。しかも、結構な数を受け取った。何でだろ? また何かとやらされてる気がするんですけど。怖いよぉ。


 以前に『ジャメン』が不法に持っていた『主の腕輪×2』と『隷属の首輪×47』は、まだ俺のアイテムボックスに収納されている。

もちろん内緒だ。『青魔石×5』『黒魔石×3』も持ってるからね。ふふふ。オイラと首輪は使いよう。ちゃんと使い所は考えてますよ? その場の雰囲気だからね?



  * *



 ミラとアリーも合流し、5人の襲撃犯? になる予定だった者達の取り調べを始める事にした。


 でもその前に、ケガをしたヤツは《癒しの光》で回復しておいた。アタマのケガは治せても、アタマの中までは治せないよ? 変な方向に曲がってた腕も、はい。元通り。中程度の回復効果というヤツがこれってね。凄いね生活魔法。そう言えば、ここまでのケガを負った場合の回復魔法は初めてだったからな。これも良い検証結果となりました。


 自分でワザと怪我して回復とかしたくないからね。いくら検証と言えども、痛いのはイヤ。それ常識。身代わりになってくれてありがとう? いや、回復してもらったんだから、お前が感謝しろよってね。


 俺ってば、優しさの塊だからね? カッチカチやぞ?



 それでは、一問一答方式による聞き取りを開始します。



「ちょっと待つのじゃ。その前に、さっき起こった事の説明を要求するのじゃ。あれは何だったのじゃ? わしも初めて見る魔法じゃったぞ? 遠くからでもヤバい雰囲気がビシビシと伝わってきたのじゃ!」


「はいっ! 私も、まず説明を要求します! あれは何だったんですか? 物凄く格好良かったです。ボウボウ、バチバチなってて、もうヤバいくらいに強そうでした!」



 げっ。聞き取りは後回しですか? それよりも、オイラの黒歴史に照明を当ててきますか? しまった。もう遅いけど。ヤバい雰囲気って、人によって受け取り方もこうも変わるかねぇ。


 方や、ビビりまくりの怯えまくり、方や、強そうで格好良いって。人間て複雑な生き物なんだね。はぁ。何も説明しないでは済まされないよね。うん。そうだと思ってたから仕方ないね。あの視線は痛かった。



「あ。うん。やっぱりヤバそうだった? あれは〈バーサクモード〉って言うエフェクト魔法で、俺のオリジナルなんだ。多分見せるのも初めてだから驚いたと思うけど、実際に近づくと洒落にならないからね? これからも発動させる事があるかどうかは分からないけど、その時は近付いちゃダメだからね。覚えておいてね」


「ほう。バーサクモードと言うのじゃな。それもまた格好良い名前なのじゃ。わしもちょっと真似して見るのじゃ。あのボウボウなるヤツくらいなら出来そうな気がするのじゃ」


「あ。うん。ミラは〈火〉と〈風〉魔法が使えるんだよね。だったら出来ると思うよ? まずは、全身に火を纏わせるイメージで、それが出来るようになったら、更に風を上に向けて、火を大きくしてやる感じかな? 慣れるまでは大変かもしれないけど、ミラのセンスがあれば、すぐにコツを掴めると思うよ。そこは、いつものミラクオリティだからね」


「おお。そうか! それくらいなら、わしにも出来そうなのじゃ! ちょっと練習してみるのじゃ。後の事は任せたのじゃ」


 おう。さすがミラさんです。頭で考えるより、体で覚えろってね。まあ、大した事でもないから、すぐに出来るようになると思うけどね。ははは。よし、これで1人片づいたぞ。



「はい。分かりました。バーサクモードって言うんですね。格好良いけど、近付かないように注意します。私も魔法が使えれば良かったのに、残念です」


 あれ? あっさり終わっちゃったぞ? アリーは、〈身体強化〉の魔法くらいしか使えないからな。獣人ならではの悩みなんだろうな。あれ? と言う事は、オイラの黒歴史はセーフだったのか? 実は黒じゃなくて白? 白歴史? 真っ白だったら、歴史にも残らないじゃん。アホや。《スルー》



「はい。では、気を取り直して聞き取りを開始していきます。順番に聞いていくからね。分かってると思うけど、俺に逆らうと、首輪による『害意判定』による死だけじゃなくて、物理的? 魔法的にも死が待ってるからね? そこん所よろしくね? 大人しく言うことを聞いてれば、さっきみたいに優しく対応してあげるから、心配しなくていいからね」



「ぐっ。よろしくお願いします」

「もう好きにして下さい」

「何でも聞けばいいだろ」

「どうせ俺達に待ってるのは……」

「……」



「あ。でも勘違いしないでいいからね? ()()、お前達を罰するつもりはないからね。包み隠さず事情を説明してもらって、それに納得できれば、悪いようにはしないから。

 こっちから説明しちゃうと、基本的には、『国境の町 オデルローザ』まで行ってもらって、そこでの指示に従ってもらうからね。そこに奴隷商のセバイスという支配人が居るから、彼を訪ねて奴隷商館まで行くって感じになるかな」



「おお。そうなのか? 俺達を戦闘奴隷として戦わせたり、死ぬまでこき使うんじゃないのか? 何て良い人なんだ」

「おお。ケガも治してもらったし、正直に説明すればいいんだな? それならお安い御用だぜ」

「そうなのか? 答えるだけでいいなら、何でも聞いてくれればいい。隠す事なんて無いし、どうせ隠せないしな」

「もう、こうなったら仕方ないからな。ここで殺されないだけマシかもしれない」

「……」



「そう言う事だ。しつこいようだが、()()お前達を罰するつもりはない。安心して話せば、その分早く()()()()は解放されるし、町に到着するのも早くなるぞ。お互いにメリットのある話しをしようじゃないか。早く終われば、俺も助かる。お前達には、町までに必要な水と食料を提供する。それでどうだ?」



「おお。やっぱり何て良い人なんだ。俺達は何て人を襲うつもりだったんだ」

「全くだ。元から変な依頼だと思ったんだ。1台だけで通って来る家紋の入った馬車を襲えなんてよ」

「ほんとだぜ。土魔法しか使えない3人組みで、その家紋は偽物だから遠慮はいらない。簡単な仕事だってな」

「それにしちゃあ報酬が良かったからな。騙されたのは俺達だったみたいだな」

「……」



  * *



 まとめるとこうだ。


『獣人の町 ダッカル』で、警備を任されている組織の1つ『ガーディアンズ』。ここの担当者と名乗る男からの依頼で仕事を受けた。

 男の名前は分からない。町の為になる仕事だからと言われ、更に報酬が良かったから引き受けた。俺達の情報も、その男から聞いた話。

 依頼内容は、1台で町へ向かって来る家紋入りの馬車を、この町に来させなければいい。最悪の場合は、全員殺しても構わないが、その場合には、証拠は全て燃やしてしまう事。

 その家紋入りの馬車は、以前に盗まれた物だから遠慮はいらない。家紋を盾に上からモノを言ってきても、無視して構わない。護衛も付けていないような馬車は、怪しいからすぐに分かるはず。

 この依頼に失敗したら、この町での仕事は無くなる。

 前金は受け取っておらず、手っ取り早く全員殺してしまうか、追い返して報酬を受け取るつもりだった。



 この町では、大方の仕事は町長から出されているらしい。

 町長が頭となり、行政のやるべき仕事のいろんな部分を、町の住民が集まって作った組織に発注している。組織に属していれば、その仕事をして暮らしていけるが、属していない者は、更にその組織から出される仕事を受け、その対価をもらって暮らしている。下に行けば行くほど対価は安くなり、生活も厳しくなって行く。そういう仕組みが当たり前になっていて、それでも何とか回っているのが『獣人の町 ダッカル』という町らしい。


 町長が発注者、町にある各組織が元請け、そして今回襲ってきたのが、いわゆる下請けって感じなのかな。孫請けじゃないよな? 流石にそこまでいくと、ブラック臭がプンプンしてくるからね。


 これは、何処からの依頼なのか分からないって言うのがミソだよな。出発点が分からない。『ガーディアンズ』を訪ねても、恐らく、その依頼は更に上から出されたモノだろう。まさか、その出発点が町長だとは思いたくないが、オデルローザでの一件もある。警戒するに越したことはないのかな。やれやれだ。


 それでも、取り敢えずは、町の警備を任されている『ガーディアンズ』を訪ねるしかないんだけどね。




 領主さんから事前に話が通ってて、地下施設を作るだけの簡単なお仕事かと思ってたのに。はぁ。こりゃあ前途多難かもね。こんな感じで、勘違いされて襲われて来られた日には、安心して街中も歩けないぞ? どうしたもんか。


 オイラ、悪い事した記憶はないんだけどなぁ。やっぱり、何をやっても恨む人は出てくるのが世の常か? くそぉ。だから、大人しく顔を出さずに過ごしていきたかったのに。やられたね。この怒りは、今度はどこに向ければいいのやら。また、神様に聞いてみようかな?


 アカン。また潜入なんてしたくない。いや、待てよ? 時給100万エーンか? 今度は幾らかな? うふふふふ。冗談だよ? オイラ、もう結構なお金持ちだよ? 毎月施設使用料が入ってくるからね? あ。それがイヤだからって、オイラ消されちゃうのかな? マジで? それは勘弁して欲しいよね。散々働かせといて、不要になったら棄てられちゃうなんてさ。全く、どこの世界も同じだね。


 いや。今回は、施設の保守・点検の話もしてるからな。まさかそこまでは考えてないはずだ。うん。信じてますよ、セバイスさん? セバイスさんがその気になれば、俺なんて瞬殺だろうからな。利用価値のあるうちは、消される事はないと信じたい。あれ? でもこれって、俺が消される前提の話だよな? 縁起でもない。演技かもしれないけど? 《スルー》


 怖い発想は〈スルー〉に限る。良い魔法の言葉を手に入れたものだ。ありがとう! 誰かさん!




「タビト! どうじゃ! これがわしの〈バーサクモード〉なのじゃ!」


 おお。すげー。客観的に見ると、こんな感じなんだな。確かに格好良いかもな。ボウボウと炎が立ち上り、〈風〉によって更に激しく燃え盛っているのが分かる。こりゃあ、近付いたら、ただ熱いじゃ済まないな。うん。俺のは更に属性が多いからな。これよりもっと凄いって事だよな? ふふふ。作った甲斐があったかな。



「ふおおーーっ!! やる気があるなら、掛かかってくるのじゃ! 一瞬で楽にしてやるのじゃ!!」


 ぐはぁっ。耳からダメージが入ってきたぞ? そのセリフ。聞こえてたのか? あの距離で? やはり黒歴史は拭い去れないのか?


「わぁっ! ミラさん、格好良いです! タビトさんのとは、ちょっと違いますけど、これはこれで凄いです! いいなー」


 アリーさんや。また、目がキラキラしてますよ? 本当に羨ましいんだね。こういう魔法は使えないからね。何か少し分かるような気もするよ。俺も、この世界で魔法が使えなかったとしたら、結構悲しかったと思うし。



「う、うん。凄いね、ミラ。この短期間で自分のモノにするなんて流石だよ。グッジヨブだ!」


「ほう。そうか。格好良いのじゃな。そうじゃろ、そうじゃろ。これをわしの〈バーサクモード〉にするのじゃ! ふおおーーっ!!」



 何か、もうどうでも良くなってきたぞ。凄い威力だな。エフェクトの有用性も実感できたからな。うん。良しとしようかな。目と耳からもダメージが入ってくるぞ? 予想外だ。




 この襲って来ようとした5人組み、聞き取りも済んだので、お帰り願う事にした。お帰りは、あちら。『国境の町 オデルローザ』。そこがあなた達の仮の住まいになるんだよ。良かったね。


『奴隷商館 支配人 セバイスさん』。その人を訪ねて行きなさい。優しい人だからね。決して逆らっちゃダメだから。会えば分かるけど、まとめてかかって行っても瞬殺だと思うよ? 気を付けてね?


 まあ、その首輪を紐付けした大元になるからね。逆らう事なんて出来ないけどね。正にゴッドファーザーだよ? あと、間違っても『セバスチャンさん』なんて、笑って呼んじゃダメだからね。そっちの方が怖いから。しっかり守るように。


 俺からは以上だ。忠告料として、有り金全部置いてきな。安いもんだからね。良かったね。命拾いしたんだからね。冗談じゃなくて、本当に何人か逝っちゃってるからね? あの世だよ?


 うん。代わりに、食料と飲料水を渡しておくから。

 げっ。差し引きで、マイナスになっちゃうじゃないか。ホントに有り金これで全部? うん。ウソは付けないからね。分かってるよ。しょうがないなぁ。この差額は、あなた達にこの仕事を依頼したヤツに払ってもらいましょうかね。倍返しでね。あなた達に渡すはずの報酬と、俺への迷惑料ね。


 ふふふ。待ってろよ。誰だか知らないけど、迷探偵団がもうすぐ行くからな。あ。まあいいや。



『丸投げ体質の町 ダッカル』。上手い事回ってればいいけど、また問題があったら、オイラしでかしちゃうかもしれないよ? そんなニオイがプンプンしてきたぞ。せっかくの獣耳の町が台無しだ。



 ちっくしょー。もふっと仕事を終わらせて、とっとと次の町へ行ってやる!



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