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アシャズの町 お仕事初日



 調子に乗って、幾らでも掛かって来いとは思ってみたものの、今日やる事は決まってるし、それ以上でも以下でもない。


 それが、施設作成と言うものだ。工期は、なるべく決められた通りに、段取りに沿って行います。打ち合わせで、そう言われたんでした。あはははは。



  * *



「おはようございます。『ジンバール』さん。今日はよろしくお願いします」


「おはようございます。タビトさん。こちらこそ、よろしく。

 とにかく快適な事で噂になる程の地下施設です。私達のサイズに合わせるのは大変かもしれませんが、皆楽しみにしておりました。出来る限りの協力はしますので、遠慮せずに力仕事に使ってやって下さい。わっはっはっ!」


 あ。笑い方がミラに似てるかも。戦士の笑い方は共通なんだろうか? うん。機会があったら検証してみよう。それに、地下施設を作るのは、魔法のチカラだけでも十分なんだけど、何か手伝ってもらう事なんてあったかな? 


 まあいいか。何でも協力するって言ってるし、雑用でも何でも、必要になったらお願いしようかな。


「はい。その時はよろしくお願いしますね。力仕事は、私の不得意な分野です。ジンバールさんが居てくれれば、10~20人力くらいですかね?」


「わっはっはっ! なかなか良い見立てですな。通常であれば、それくらいが妥当なラインでしょう。しかし、一度(ひとたび)本気になれば、私1人で30~40人力は余裕でしょうな。わっはっはっ!」


「おお。30は軽く越えますか。凄いですね。でもそれって、理性が飛んでますよね? 対個人の戦闘向きではあるけど、こうした作業には向かないパワーですよね?


 止めて下さいね? ジンバールさんに地下で暴れられたら、皆さん大怪我では済まないかもしれませんからね?」


「ぐっ。どうしてそれを。よくぞそこまでご存知で。確かに『狂化』は、作業には向かないチカラですからな。流石に作業中には使いませんよ。安心して下さい。


 それにしても、いきなり私を手玉に取ってしまうとは、やはり恐ろしい人なのですな。気を付けねばなりませんな。わっはっはっ!」



 理性を飛ばして肉体のみを超強化し、狂戦士と化す『狂化』。まさに『バーサーカー』。こんな巨人さんにやられたら、地下では逃げる場所も無いからな。ホント勘弁して欲しい能力です。


 訓練を積んで、その極意を体得すれば、ある程度は自分でコントロールする事も出来るらしいから、大丈夫だとは思うけどね。防衛団の副団長。その肩書きは伊達じゃないはずだ。


 冗談でも、『ぐおー!』とか言いながら突進して来ないで欲しいかな。夢に出てきて、うなされそうで怖いから。



「まあ、冗談は置いておいて、そちらの方々が、この町の土魔法使いの皆さんですか?」


「おお。そうでしたな。紹介するのを忘れておりました。失礼しました。

 おっしゃる通り、今回あなたの地下施設作成の見学と研修をさせていただく、土魔法使いの皆さんです。


 こちらはタビトさん。『土魔法の大家』『大先生』とも呼ばれる、土魔法の(たくみ)です。見学中に思う所も出てくると思いますが、『殺人トラップの人』とも呼ばれています。質問等する際には、必ず1言告げてから近付くようにして下さい。


 私でも対処できないレベルのチカラだと聞いておりますのでな。皆さんも気を付けて下さい」


 げっ。なぜその『二つ名』を知ってるの? そう言う情報まで、先触れが伝えてるの? でもおかしいな? その呼び名は、先触れが出てから広まったはずだけど?


 俺からの切なる願いをお伝えしてた後のはずなんだけどな。でも、まあ『首輪の人』が広まってるよりは良いのかな。


 あっ。この人、『ダッタル』でも居た人だ。追い掛けて来たのかな? えっ? もしかして、追っかけ? ストーカー? 


 街道ではすれ違わなかったはずだし、追い抜かれてもないはずだぞ? 別ルートがあったとか? うーん。謎だ。まだ俺の知らない便利魔法でもあるのだろうか。


『あなたの知らない世界』の魔法。きゃ~! 知りたい!

 あ、施設完成後の次の1日は、休憩という名の会議に参加してたからな。その日のうちに旅立ったとかかな?



 ただ、純粋に土魔法を極めて行きたいから、単独でこの町にもやって来たと? 教わる機会を作るには、そうするのが1番だと思ってやって来たと。


 ふむ。その純粋な思いも、1つ見方を変えれば立派なストーカーに早変わりだからね? 気を付けてよね? 俺にそっちの趣味は無いからね。頼むよ? 折角、ミラとアリーと『家族』になれたんだからね。気持ちだけ?


 でも、まあ、この人が事前に伝えてくれてるなら有り難い。

 俺の役目は、あくまでも地下施設を作る事だけだ。

 町の運営に口を出すつもりも、その権限もない。部下にも変な忖度をさせず、要望を聞き、出来るだけそれに合わせた施設を作るだけのお仕事です。


 俺の立場は、『ロジアーブ王国 ガルーマ・ザッヒン領主付き特殊部隊兼特別商隊』。よろしくね?


 俺の『二つ名』の発信源になった集団の1人だと思うからね。その辺は大丈夫だと思いたい。皆さん、妙に穏やかな笑顔してたからね。まさか、こんな行動に出る人が居るなんて思わなかったよ。


 でも、良い仕事してますね。土魔法使いの皆さんは、基本的には真面目で努力家だ。町を越えての連帯感もあるのかな? 俺から教わった内容は、既にレクチャー済みですと?


 しかも、俺のハッタリ上乗せ演出、〈ブラックホール〉マジックの説明まで済んでると?

 球体の暗闇を作り出す演出とアイテムボックスを併用して、発動範囲の中にあった『石』を、〈エフェクト闇〉を球体にしたヤツで包んでから、俺のアイテムボックスに収納しただけの手品だよ? 勿論、種明かしはしてないけどね。


 話を盛ってないよね? そこん所は大丈夫だよね? 怪しいなぁ。


 でも、凄いなこの人。そこまでの情熱とやる気を土魔法に捧げていると? ほう。ストーカーとか思ってごめんなさい。こりゃあ、マジなやつだね。土魔法の将来を何とかしたいという強い思い。確かに受け取った。俺の出来る範囲で伝えましょう。



 しかも、何ですか。あなた『土魔法の鉄壁のモーク』さんじゃあ、あ~りませんかぁ。そこで何しとんねん!


「すいません。『土魔法の大家』『大先生』から直接レクチャーが受けられると聞きまして、居ても立っても居られなくなりまして……。


 やはり、あなたでしたか。タビトさん。そうじゃないかと思いました。タイミングといい、あなたの土魔法も直接この目で見ましたから。是非私にもレクチャーをお願いします」



 エルフの3人組みのうちの1人。『エルモークジェマン』さん。エルフ特有の習慣、1人前になるために経験を積むための武者修行。旅立ったはいいが、町を出て速攻で奴隷狩りに遭い、首輪を着けられてしまった人達。


 偶々、俺達がその場に遭遇し、助ける事になった3人組み。その中で唯一の土魔法使い。馬車の修理の為に数日はこの町に居るとは思っていたけど、まさか、ここで会うとはね。やってくれるね。モークさん。


 感動の再会とかでもなく、巨人のジンバールさんの影で隠れて見えなかっただけだけど? まあ、特にレクチャーするのが仕事でもないけどね。この前は、前向きで直向(ひたむき)きな皆さんの姿に触発されて、調子に乗って軽くレクチャーしちゃっただけなんだよね。


 あれれ~~? 俺ってば、いつも調子に乗ってるな?

 俺、反省。でも、この調子に乗ってるは、良い調子に乗ってるだよね。うん。オイラは悪くないんだよ? 皆さんの熱い思いが、オイラを奮い立たせたんだよ? そう。だから、それが悪いと言うのなら、それは皆さんが悪いと言う事だ!


 どうだ! この論拠。とんでも論拠だ!


 さあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!


 見るがいい! 〈魔力感知〉から成長したオイラの『土魔法』の性能とやらを! 『生活魔法』ですが、何か?



 とりゃあーー!! バリバリッ!! ビリッ!



 まずは、見せる。そして各自検証!


 必殺? 責任は全て俺が取る! 攻撃。いや『口檄(こうげき)』だ。


 いつも通り。

 まずは、ゆー、思った通りにやっちゃいなよ? 己の魔力が尽きるまで。口を動かす前に、魔力を動かすぞ!


 これぞ、実施研修だ。


 各自の質問に答えながら進めます。


 事前の講習があったからか、皆さんやる気が違う。いいね、いいよ。もう1部屋いっとく?


 お勉強に遠慮は要らないからね。

 自分の得手不得手を理解しての勉強だ。質問内容も、より良い質問が飛んでくる。自分の得意分野に特化して、更にそこを伸ばして行くか。不得意な分野を少しでも埋めていくか。既に決めてあるようだ。決めるのは、あなた次第だからね?



 おっ。それは良い質問ですねぇ。1度言ってみたかった。ありがとう。また1つ、夢が叶ったよ?


 やっぱり仕事には、出来るサポート役が居ると違うよね。

 明確な事前説明と、的確なフォロー。有り難い。これは助かります。ありがとう。あなたのお陰で、『ダッカル』の時より仕事が(はかど)ったよ? 魔力量の増加で、俺の土魔法が更にパワーアップした事もあるけど、やはり、こういう仕事は、1人でやるより大人数の方が効率がいい。


 交易の町、中央の町と言うだけあって、土魔法の使い手も多いのか? 俺抜きで全部で10名。そりゃあ早く終わるよね。


 この町の施設は一括売却で、保守メンテナンスは俺がやらないかもしれないから、念を入れてしっかり〈強化〉しておいた。所々、要所要所、まとめてドン! 最後にとりゃあ! って感じで〈強化〉しまくっといた。


 ここまでやれば、何もしなくても数年は耐えられるんじゃないかな。勿論、通常の使用を前提としてだけど。こればっかりは、時が経過しない事には分からないからね。あはははは。



『北の大型地下衛兵待機所』の完成です。

 皆さん、お疲れ様でした。オイラはまだまだイケるけど? 今日はここまでに致しましょう。板します? 塞いじゃうの? 折角作ったのに?



「おお。これは凄い。私達のような巨体の持ち主が、こんな立派な部屋で過ごせる事になろうとは。ここまで細かい所まで作り込んでしまうとは。これが土魔法のチカラなのか。


 しかも皆個室で、風呂まで付いているとは。おお。何と、トイレまで別部屋になっているとは。凄い、凄過ぎる。こんな短時間でこれを完成させてしまうとは、『土魔法の匠』とは、正にその通りの二つ名だ」



 違った。板じゃなくて、家具みたい? 早く完成しそうだからって、部屋に入れる家具を取りに行ってたんだって。やれやれ。紛らわしいなぁ。俺には、ただの板にしか見えないんだけど? まあいいか。


 どうしようかと考えてた『大きな扉』は、巨人さん達が暮らす町だけあって、どこでも手に入れる事が出来るみたいだし、衛兵待機所に予め準備されておりました。しかも、建具や部品、道具まで。


 うん。流石、事前準備の出来る町? いや、仕事も心遣いも出来る、親切な秘書さんのお陰だね。打ち合わせの内容から判断し、必要になるであろうと思われる物を手配してくれたんだよね。1日で。


 うん。凄いよね。これで、コミュニケーションが取りやすいように化粧を改善出来たなら、1家に1人は欲しいかも? 流石に、仕事とプライベートは違うかな?


 更に、昼飯の準備までしてありました。ありがとう。

 ここまでやってくれてるんだから、あの金額設定も、決して『安過ぎた』なんて事はないと思うけどね。



 じゃあ、お昼休憩にしましょうか。いい時間だし。皆さんも、それなりに疲れたでしょう? よく動き、よく休む。よく考え、よく食べる。栄養補給と休息は必須だからね。


 集中力なんて、そんなに続くものでもないし。無理して頑張っても、逆に効率が悪くなるだけだからね。安全第一。笑顔で休める事。これ大事。いつもは無理でも、たまにはね。あはははは。


 はい。これでも笑顔だよ? 笑えば楽しい気分になっちゃうし? 笑い声が先か、笑顔が先か。はい。どっちもありです。笑顔のチカラ、笑い声のチカラ。笑えば楽しくなってくる。そう。これはもう、『魔法』です。〈生活の知恵魔法〉。


 心のノートに登録しといてね?



  ◆ ◆ ◆



「これはどう言う事? アシャズの町の拠点が無くなってるみたいだわ」


「何を言っているんだ? お前の能力なら、動物からの視覚情報がそのまま見られるんじゃないのか?」


「そうなんだけど、その拠点であったはずの場所に、建物が見当たらないの。あの大きな倉庫が無くなってるの」


「は? そんな事があるのか。見間違えとかじゃなくて? そこは本当に拠点の場所で合ってるのか?」


「ふんっ、勿論よ。いくら私の能力が、そこまで自由が利かないとは言っても、動物に覚えさせた場所は間違えないわ。失礼しちゃうわね。それに、数日前に見に行った時には、確かに倉庫は在ったのよ」


「まあまあまあ、落ち着きましょう? 今は、その原因究明の方が先だわ。お互いの能力には、得手不得手があるんだから、しょうがないでしょう?」



「ふんっ、そうよ。私のこの目のお陰で、どれだけ情報収集が楽に出来てると思ってるのかしら? あなたなんて、その場に行って忍び込まないと、何の役にも立たないじゃないの」


「ふっ。動物が見た映像()()が白黒で見える()()の能力なんて、無いよりはマシなレベルのチカラだ。有用な情報は、結局自分の目と耳で確認しない事には、当てには出来ないものだ」


「ふんっ、それは私にケンカを売ってんの? 

 影に潜んで、忍びの真似事()()できないあなたが、私に勝てると思ってんのかしら? 鑑定も使えないくせに、何を偉そうに」


「ふっ。たかだか複数の小動物を操れる()()の動物使いが。鑑定の能力があった所で、何の脅威にもならないわ。笑わせてくれる」


「何ですって! 表に出なさい! この際どっちが強いのか、ハッキリさせてあげるわ! 勝負よ!」


「まあまあまあ、いい加減落ち着きましょう? じゃないと2人とも、魅了して操作しちゃうわよ? いいの?」



「うっ。それは嫌だわ。ごめんなさい。ちょっとカッとなってしまったみたいだわ。

 ごめんなさい。ナンバー『2』。私の可愛いペット達が無能みたいに言われた気がしたから、つい、ね」


「ああ。私も魅了されるのは御免だ。勘弁してくれ、ナンバー『1』。

 それと、ナンバー『3』、すまなかった。別にお前のペット達をバカにした訳じゃないんだ。ここの所、ずっとナンバー『6』『7』の消息が不明でな。少しイラついていたのかもしれん」


「ふんっ、ま、まあ。そう言う事なら、無かった事にしてあげてもいいわ。確か、ナンバー『7』は、あなたの良い男だったものね? 2人して拷問し合って楽しむのが趣味だったかしら?」


「あ、ああ。知ってたのか。まさか、それも動物達の目からの情報じゃないだろうな?」


「ふんっ、勘違いしないでよね。それは、あのイカレ銃野郎のナンバー『6』が言ってた話よ! わざわざ用もないのに、仲間を監視したりなんてしないわ。失礼しちゃうわね。

 でも、その相方の『6』も消息不明になってるんでしょ?」


「ふっ。あんな偉そうな奴など、どうなってもいいのだが、それより問題は、『7』の行方とアシャズの拠点についてだな」


「ふんっ、イカレ野郎の『6』に関しては同意見ね。でも、アシャズの拠点に関しては、もっとしっかり調査する必要があるわ。


 私も、可愛い子達を増やして調査してみるけど、あなたもお願いね、ナンバー『2』。こういう時こそ、あなたのチカラが役に立つわ」


「ふっ。任せておけ。私も、お前のその能力には感謝している。お前が空から全体を見渡し、異常箇所の詳細を私が細かく調査する。お前のお陰で、随分仕事がし易くなったからな」


「ふんっ、分かってればいいのよ。分かってればね」



「まあまあ、2人とも。ちゃんと仲良くできるじゃないの。

 そうよ。2人はチカラを合わせてこそ、その能力をいかんなく発揮出来るのよ? いつもそうしてくれると助かるわ。私達の為にもね? ふふ。


 それでは、引き続き『6』『7』の捜索と、アシャズの拠点の調査をしていくわよ。状況次第では、私も動く事になると思うから、早めの報告をするようにしてくださいね。


 仲間に何かあったのだとすれば、私達にも少なからず影響が出るわ。ここは慎重に行きましょう」


 パンっ


「じゃあ、2人とも、いいわね?」


「ふんっ、分かったわ」


「ふっ。分かった」



 ガタッ、ガタッ


 コツコツコツコツ…………



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