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そういう事は止めとけば?



 ふー。食った食った。良い感じ。ビール飲み物ながらの屋台巡り。もうクセになりそうな今日この頃です。



 またしても食材の爆買いツアーだ。ミラがいるから、食料はいくらあってもいいんだけど。2人の〈身体強化〉の影響で、確実に食費は伸びている。楽しかったから良いんだけどね。


 明日の準備も終えて、俺は1人で酔い覚ましに街をお散歩中。まだ日も高いから安全だと思うよ? 殺人トラップも持ってるし?




 あれれ~~? まだやってるよ。あの人。怪しい人。俺? 俺じゃないよ? 怪しいのは認めるけど? 《ステルス》発動したからね。だって、巻き込まれたくないじゃないか。



 やっぱり怪しい商売だった。


 売ってた皿と壺。なんか見覚えのある絵柄だなぁと思って確認してみたんだよね。『素人がつくった変な皿×4』『一見高く見えるけど、実は安いただの壺×2』。ジャッジメントの団長が持ってたよ? それも複数個。特徴のある柄だからね。俺でも見分けがつくからね。あ。違いの分かる男だね。


 何でかな? 買っちゃったのかな? 騙された? いや。価値を認めて買ったのなら、騙されてはいないのか。


 同じモノだったよ。正に(うり)二つ。いや皿壺2つ。と言う事は、2つに割っても同じかな? うん。割らないよ。その技術の方が凄いと思うから。そこは魔法で何とかなるものなのかな?


 更に、『素人が描いたよく分からない絵画×2』もあるんだよねぇ。もしかしたら、この絵画もこの人と関係あったりするのかな? あれれ~~?


 うん。そこは、まあいいや。



 町で、詐欺師? 開運商法なるモノをしている人を発見です。


『これを買えば幸運がやってくる』『これであなたも金持ちになれる』『これを飾るだけでも効果がある』などと謳ってモノを売る商法。この人がやってたのは、正にそれ。


『変な皿』は、『幸運を招く有り難いお皿』。

『ただの壺』は、『お金が貯まる凄い壺』だそうです。


 そんな凄い壺なら、売らずに、貯まったお金を配ってくれればいいのにね? 幸せのおすそ分けって言うのなら、お金取っちゃダメじゃない? その壺持ってれば、お金が貯まるんでしょ? うん。訳分からん。


 トドメはこの言葉。

「ふん。バカな奴らだ。こんなモノに大金払うとは。価値の分からん人間相手は楽でいい。だからこの商売は止められん」


 なんて言ってたよ? オイラ〈ステルス〉中。背後に潜んでいるからね。素人には気付けないかもよ?

 あら残念。やっぱり、心躍るような特殊効果はなかったか。魔法の在る世界だからね。俺の知らない効用があるかもしれないから、ちょっとだけ期待してたんだよ? やれやれだ。


 こりゃいかんって事で、やり返してあげたよ? ジャッジメントの団長の趣味で飾ってた皿と壺だからね。仇は取るからね? 仇なの?


 見た事なかったみたいだから、『素人が描いたよく分からない絵画×2』の1つを、とっても良心価格で売ってあげたよ? こういう絵画を手に入れたのですが、私には価値が分かりません。アナタのような徳のある方になら、この絵画の価値も分かるかもしれません。ってね。ちゃんと納得してたから問題ないんだよ? 双方納得の上での取り引きだ。


 俺はちゃんと言ったんだよ? これは、そんなに価値のあるモノじゃない。ただのよく分からない絵画だと。ただ、この絵画の前で祈りを捧げると、とても気持ちがスッキリするのです。なぜですかね? 最後に祈りを捧げさせて下さいね。後でお金を返してくれと言ってもダメだよ。そこまで売って欲しいと言われるなら、本当はイヤだけど、本当は手放したくないんだけど、渋々だよ?


 そこまで欲しがってくれる人に引き取られるのなら、この絵画も本望だろう。大切にして下さいね。あまり人に見せると、羨ましがられて憎まれたり、盗まれちゃうかもしれませんからね。保管は厳重に。出来れば1人で鑑賞して楽しむ事をお勧めします。


 はい。そうですか。ありがとうございます。

 これで、この絵画は晴れてあなたのモノです。



 エフェクト付きの名演技だからね? アナタの口八丁の販売方法より、それらしく見えると思うよ? 詐欺師対決で俺に勝とうなんて、3日早いわ。こんなん誰でも出来るし、すぐ覚られるでしょ。だから3日。〈光〉と〈闇〉魔法が使えればね?


《エフェクト光》と《エフェクト闇》を効果的に発動させて、それらしく見せる合わせ技。

 素人が描いたよく分からない絵画を前にして、しばらく祈りを捧げると、ぶわっと身体から〈闇〉が出現する。それを〈光〉によってピカッとやって消してやるんだよ?

 祈りを捧げる事によって、あたかも俺の中の負のオーラが吸い出され、暖かな光により身体が浄化されるかのような演出だよ? 分っかるかなぁ?


 ふわぁ~~って全身が光るからね。凄いよね。どうなってるんだろうね。見てるだけじゃ理解できないよね。ふふふ。謎が謎を呼ぶ演出だ。迷探偵を舐めるなよ?



 はっはっはっ、見抜けまい。祈りを捧げて目を瞑っているからね。俺が祈ってる時に後ろで見てたから、自分が祈る時にも同じようになってると思うでしょ? このアホちんがぁ! 前髪長くないから真似できないぞ。どうしてくれるんだ。この空気。


《スルー》あんど《冷風》だ。より効果的になってしまったではないかぁ。ぐわぁ。


 しばらく目を瞑ってれば心も落ち着くだろうし、実際に、自分の目で演出された光景を見てるからね。疑いようもあるまいて。仲間でもいれば別だけど、ずっと1人みたいだし、居たら居たで分け前も減るからね。居るのかな? 本心からの祈りなら、何かしらの感情も湧いてくるかもしれないよ? それが改心の感情ならいいのにね?


 せっかくだから、《浄化》しといてあげるね? これは無料サービスだよ。不浄を強力に払うはずだけど、どんな効果があるか分からないからね。副作用はないと思うけど、人に使うの初めてだから人体実験って言うのかな? いや。これも有意義な魔法の検証だ。オイラの魔法は生活魔法だから、変な事にはならないと思うよ? パァ~~ってなってたし? 多分? きっと? そうだと良いね? ふふふ。


 この人も、いつも同じような事やってるから、この演出でも難しいかなぁと思ったけど、案外大丈夫だったね。これも、『幸運を招く有り難いお皿』の効果だと思ってるのかな?


 はい。絵画1つで500万エーン。少し値引きしてあげたよ? 俺ってば優しいからね。いつもニコニコ現金払いだよ?


 よく即金で払えたね。どんだけ儲けてるんだっつーの。

 まあいいや。ありがとうございました。またどうぞ?


 効果の責任は取れないからね。それはあくまでも、ただの絵画ですから。クーリングオフも適用されません。しっかり説明もしたし、俺は善良なる一般市民だよ? 最終的に価値を決めたはそちら。買う意思表示をしたのもそちら。あなたは商売人ですからね。うふふふふ。

 でも、案外この〈浄化〉演出の効果で、こんな商売は止めてくれるかもしれないね。うん。そう願ってるよ?



 じゃ、お逃げだ。ばいばいきーん?



  * *



「ただいまー」


 いいお取り引きができたよー。

 団長の持ってた絵画が高値で売れれました。要らない物はリサイクル? 必要にしている人に譲るのです。それなりの対価が発生するのは、仕方のない事なのです。


 しっかり付加価値を付けといたからね。あの人も喜んでたよ? 何かスッキリした顔してたしね? あはは。同じモノがもう1つ残ってるからね。また同じような事やってる人を見掛けたら、優しく(さと)して譲ってあげよう。うん。値段は合わせるよ? 恐らくね? 500万エーンからのスタートです。値段を決めるのは、買い手次第です!


 宿屋の部屋で休んでいた2人に、事の経緯を説明した。


 また、いつものように呆れられ、またしでかして来たんですねと、心配もされた。あれれ~~? 何でかな?



「まあ、そヤツも、同じ様な事をして荒稼ぎをしておったのじゃろう。自業自得と言うヤツなのじゃ。気にする必要もないのじゃ」


「そうですね。説明もして、値段も自分で納得して購入したのなら、何の問題もないですよね。その人は商人なんですから。タビトさんは、何にも悪くないと思います」


「うん。ありがとう。嘘は言ってないからね。演出はしたけどさ。それについてはノーコメントで。その時の気分だったからかね。ははは」


「別に大した問題ではないのじゃ。そヤツが自分で価値を見出し、納得出来たから購入したのじゃ。嘘を言っていなければ、そヤツよりはマシなのじゃ」


「はい。私もそう思います。そんな在りもしない効果を謳って高額なモノを売りつける人なんかより、よっほマシだと思います」


「ははは。2人とも、俺には優しいからね。でもね、かなりグレゾーンだったけど、その人も嘘は言ってないんだよ?


『幸運を招く有り難いお皿』は、『変な皿』だけど、本当に幸運を招くかもしれないでしょ? 検証できる? 実感するのに時間が掛かるかもしれないけど、幸運の在り方も人それぞれ。感じ方もね。幸運は招くけど、受け取れないかもしれないでしょ? 幸運になれるとは言ってもないからね?


『お金が貯まる凄い壺』は、『ただの壺』だけど、壺の中にはお金が入るからね? お金を貯められるでしょ? たくさん入るからね。凄いでしょ? お金持ちが持ってるから、自分もそうなれるかもしれない。私もあんな風にお金持ちになれるかもしれない。かもしれないって思ってるのは受け手次第。あなたがお金持ちになれますよとは言ってないんだよね。まあ、お金を入れたその壺を持ち上げれば、『お金の入った『お金が貯まる凄い壺』持ち』、略してお金持ち?

 

 勝手に判断して、勝手に付加価値を付けてるのは買い手の方なんだよね。そうなるように上手く誘導してるってのはあるけどさ。そうやって価値を付けて、高額なモノでも高額ではないと思わせちゃうんだよね。怖いでしょ?」



「うおっ。おぬし、そんなエグい話まで理解して手玉に取るとはの、よっぽどおぬしの方が怖いのじゃ」


「うわぁ。そんな悪い誘導されてたんですね。商売人て怖いです。気を付けないといけませんね。でも、そう言えば気になってたんです。『価値』を商売にしちゃうって言うのも、そういう事なんですか? 今回も、演出して付加価値を付けたって言ってましたけど、簡単に出来るモノなんですか?」


「ははは。うん。そうだね。俺を敵に回すと怖いかもよ? よっぽどの事がなければ、敵対なんてしたくないんだけどね。今回は、ちょっと目に余ったのかな。ジャッジメントの団長の事もあったし、あんな発言聞いちゃうとね。


 そもそも、鑑定して対価を受け取る事も、価値を商売にしてるって言えるよね。自分で鑑定ができなくても、『鑑定』を利用すれば、付加価値を付けてやる事も不可能ではないんだよね。


 例えば、あの壺とかでも、物凄い偉人が作った壺っていう鑑定書があったら、どう思う? 仮に同じ物が2つ並んでたとしても、鑑定書がある方が価値があるって思えるよね。それが例え、全く同じ物だとしてもね。


 そして、そういう事を違った形で利用するんだよね。アタマを使ってね。希少性を理解してもらったり、実際に効果を見てもらったり、どれだけ人気があるのかを分かりやすく説明したりしてね。

 悪用しようとすれば、偽物の鑑定書を用意したり、嘘、大袈裟、紛らわしい。そういう盛りまくった触れ込みだけで信じさせたりしてね。でも、そういうのは長くは続かないからね。やらないよ?


 ミラにも分かりやすく説明すると、ミラの大好物の『ジャンボシイタケ』。あれに、凄い付加価値を付ける事も出来るんだ。

 あれって、元は毒キノコだよね。誰も食べない。食べると死んじゃうから当たり前なんだけど。でもそれを、〈殺菌〉して食べられるようにしたよね? しかも、ミラが大好物になるくらいの美味しさだ。じゃあ、それって幾らで売れると思う? 幾らなら出してもいいと思えるかな? 


 その価値を決めるのは俺達だよね? その方法を見つけたのは俺達なんだから。その時に、どうやって売っていくのか、宣伝文句って言うのかな。ただ、美味しいから食べてみてってやるのもいいんだけど、より付加価値を付けるのなら、どうすればいいか。例えば、


 奇跡のキノコ。

 ()の時の皇帝が食べたとか食べなかったとか。

 あの美食家も大絶讃。ミラの事ね?

 まだ市場に出回っていない新種のキノコ。

 一度食べたら止められない。悔しかったら止めてめろ。

 今回入荷したのは、この1箱だけ。

 この地域だけの限定販売。

 今日はお試し価格で売ってます。

 10本買うと、オマケに1本サービスするよ。


 やり過ぎても逆効果。クレームがついちゃうかもしれないし、時と場所を選びましょう。もちろん嘘もいけません。

 あまりに高過ぎても売れないし、安過ぎると商売にならない。手間が掛かるだけだからね。そもそも、ミラの大好物なんだから、安売りなんかしたくないしね。その辺の価値の設定が難しいんだよ。


 爆発的に売れちゃうと、何かと面倒事も増えるしね。いろんな人に目を付けられると、ややこしい問題が発生するのが世の常だ。調子に乗って工場拡大して、間もなく潰れちゃいましたなんて、よく聞いた話だし。本社ビル作り始めたはいいけど、入居出来ませんでしたってね?


 でも、やりようによっては、俺達の作ろうとしている場所の売りにもなるんだ。実際に売り出したら名物になると思うしね。拠点に帰ったら、いろいろやってみようかとは思ってるし。


 どう? つい長話しちゃったけど、何となく分かった?」



 価値も人それぞれ。美味しさに価値を見る人もいれば、珍しさ、希少性に価値を見る人もいる。値段しか見ない人もいれば、そこから得られる効果に価値を見る人もいる。食べると痩せられるとか、強くなれるとかね。商売って難しいよね。

 騙し騙されたなんて当たり前。口コミすら操作されてたくらいだから。売り手の誠実な姿勢ですら、ネットでは叩かれたりしちゃうからね。


 でも、ここは魔法の在る世界。価値観も受け取り方も違うかもしれないからね。やってみないと分かりません。はい。



「話が長過ぎてよく分からんのじゃ。じゃが、ジャンボシイタケはいいモノじゃ。それだけは間違いないのじゃ。安売りなんてするくらいなら、わしが全部食べるのじゃ」

 

「はい。とにかく、やり方によっては良くも悪くも出来るってことは理解できました。ジャンボシイタケの可能性も、そこまで考えてたんですね。さすがです。あれなら町の名物になる事間違いなしです。美味しいですから」



「ふふふ。まあ、それも帰ってから皆で考える事だけどね。規模が大きくなれば皆の協力は必要だから。勿論、ミラの悪いようにはしないから安心してね。2人とも頼りにしてるよ?」


「ふん。わしの悪いようにしないと言うのであれば、それでいいのじゃ。わしに任せておけば何の問題もないなのじゃ」


「はい。頑張って協力します。タビトさんから頼りにされると嬉しいです!」


「うん。2人とも、よろしくね。よし。じゃあ報告はお仕舞い。出発の準備も出来たし、明日に備えて早めに休もうか。それとも、臨時収入もあったから、また乾杯する?」


「もちろん、乾杯するに決まっておるのじゃ」


「はい。もちろん乾杯します」


「ははは。よし。じゃあ乾杯だ!」



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