そういう事で出発した
「タビトよ。やはりおぬしは規格外なのじゃ。戦闘力だけでなく、いろんな知識もある。それに優しさも。おぬしは、いったい何をやろうというのじゃ。何か使命を持つ者なのか?」
宿に戻り、2人に怪しい商売人との有意義な取り引きの報告を終え、楽しく乾杯して飲んでると、突然ミラが質問してきた。ちなみに、2人が飲んでるのは、ただのジュースでアルコールは含まれてはいない。
「あ、はい。私もそれは気になります。タビトさんが規格外なのは知ってますけど、何か使命があるのですか? そういう人なんですか?」
そこにアリーも加わり、素直に感じてたであろう質問を上乗せしてきた。
「え? どうしたの突然。俺に使命なんてないよ? そんなの与えられてもないし、聞いた事もないよ?」
「そこまで規格外のチカラを持っておるのじゃ。何かしらの使命があってもおかしくないと思うのじゃ」
「はい。私もそう思います。選ばれた人だけに与えられる使命みたいなモノがあるのかと思っていました」
「えー、何それ? 選ばれた人って言われてもねぇ? うーん。どうなんだろ? 確かに魔法とかは何かおかしいし、規格外かなぁとも思うようになってきたけど。だから言って、俺が使命を受けた選ばれた人っていうのも違うと思うよ? そんな柄じゃないし、そんな風には見えないでしょ?」
「まあ確かに、そんな風には見えんのじゃが、その規格外には何かあると思うのじゃ。何か心当たりはないのかの?」
「確かに、ぱっと見はそんな風には見えませんけど、いろんな事が規格外ですから、私も何かあると思います」
自分で言っておいて何だけど、確かにそんな風には見えないってさ、何か軽くダメージ入るよね? 気のせいなのかな? うん。《スルー》しとこ。
ん? そう言えば、いろいろしてくれた『メッセージの主』からは、『使命は特にない』って聞いたかな? 俺次第で、自由に生きられるのなら、自由に生きたらいいって。ん? それが使命になるのかな?
「あっ。でもね、使命って訳じゃないけど、俺は俺のやりたいように生きて行くつもりだよ。人様に迷惑を掛けるつもりはないけどね。悪意のあるヤツとかは、許せないって思える自分がいるんだ。だから、そういうヤツらには、思いっきり迷惑を掛けるかもしれないけどね? ははは。
それに、いろんな知識があるように見えるのは、『そういう世界』で生きて来たからかな? 情報が氾濫している世界。目まぐるしく移り変わる世界。そこでしばらく生きて来たからね。もしかしたら、こっちの人達よりは変な知識を持ってるかもしれないね。役に立つかどうか分からないものもあるけどね」
「おお。そうか。使命はないのじゃな。ふむふむ。タビトがやりたいように生きて行けば、悪いようにはならんじゃろう。わしも協力させてもらうのじゃ。
タビトが例えどんな世界を生きて来ていたとしても、わしの思いは変わらんのじゃ。その規格外は既に受け入れておるしの。わっはっはっ。やはり、わしの目に狂いはなかったのじゃ。おぬしこそ、わしの運命の人だったのじゃ」 ガバッ
「あっ。私も、タビトさんのやる事には間違いがないと思います。その規格外も、とっくに受け入れています。それに、私は2番目ですけど、『運命の人』宣言は私の方が先ですからね」 ガバッ
「ふむ。では、運命の人宣言は、おぬしが1番。『一生付いて行く』宣言は、わしが1番という事で良いのじゃ。実際にそうだったからの。これからもよろしく頼むのじゃ。ミラ」
「はい! ミラさん。ありがとうございます。『1番』て言うのも、良い響きですね! 何か嬉しくなります」
「そうじゃろ、そうじゃろ。じゃから順番は重要なのじゃぞ。ようやくアリーも理解出来るようになったかの。ふむ。やはり乾杯して正解だったのじゃ」
「はい! 乾杯して正解でした! 良かったです!」
これこれ2人とも? 抱き付いてくれるのは嬉しいけどさ、俺を放っておいて、2人だけで盛り上がり過ぎじゃないかな? これはどういう事? 新手の放置プレイ? まあ、いいか。よしよし、サラサラ。よしよし、もふもふ。
相変わらず、ミラはサラサラで気持ち良いし、相変わらず、アリーはもふもふで気持ち良いな。これは、どちらもやみつきになるかもな。〈エフェクト闇〉使っとく? いや。演出の効果が逆だから。絶望や失望感出しちゃダメだし。あ。〈闇の癒やし〉で心を落ち着かせようかな? うん。俺ってば、グッドアイデアだ。グッジョブだ俺。《闇の癒やし》 ポワァーン
「2人とも、ありがとう。俺も嬉しいよ。俺も、2人には一生付いて来て欲しいし、運命の人だと思っているからね。皆で、やりたい事を相談しながらやっていこう。そうすれば、周りの人達も幸せになっていけると思うからね。よろしく頼むよ」
ギュッ ギュッ
「おおー。タビトもそう思ってくれるのか。ようやく口に出してくれたのじゃ。嬉しいのじゃ。やっぱり、もう1回乾杯するのじゃ! こんなにめでたい日はないのじゃ!」
「はい! タビトさんからもそう思ってもらえるなんて、夢のようです! 嬉し過ぎて涙が出てきました。えーん。
でも、これは嬉し涙です。感動の涙です。もう乾杯するしかないです!」
「はははは。俺の本当の気持ちだからね。ずっと一緒に歩いて行こうね」
「あい、分かったのじゃ。末永くよろしく頼むのじゃ!」
「はい! 不束者ですが、幾久しくよろしくお願いします」
あれ? 皆光ったから、〈闇の癒やし〉の効果は出てるんだよな?
あれれ~~? それでもこの気持ちが抑えられないって事なのかな?? 心を落ち着けても変わらない気持ち。温かい感情が湧き出てくるぞ?
良いね。2人も一緒みたいだし。
2人が居てくれて良かった。俺もそう思われ続けて行けるように頑張らないとな。よし。
「ありがとう、ミラ。ありがとう、アリー。俺も嬉しいよ。これからもずっとよろしくね! せーの!」
「「「かんぱーい!!」」」
* * *
ちゅん、ちゅん、ちゅん
《癒やしの光》 ポワァーン 《送風》
流石に射程圏外だけど、気持ちだけ?
攻撃なんてしませんよ? 知恵比べ? 何言ってるの? 癒やしの空気を届けてあげるのです。いつも優しい朝の雰囲気を届けてくれてありがとう。優しさのお返しだよ?
ふっ。
だからと言って、何かがあった訳じゃない。
昨日は、プロポーズみたいな事言って受けてもらえたって雰囲気になったけど、どちらが先に言い出したとか気にしちゃいけないね。みんな冷静になっててアレだから。結果良ければ全てよし。みんな満足だ。それで十分。何も求めちゃいけません。
でもね、皆で飲むお酒は格別だ。美味すぎる。昨日は、途中から2人もお酒を飲んだからね。楽しいお酒だったよ。最初はね?
やっぱり、2人ともお酒は強くないみたい。ひとしきり盛り上がったら、すぐに寝てしまった。今回は特に絡んでもこなかったから、前回の反省が活きているのだろう。ちょっとだけ残念だったりして? これも〈身体強化〉のお陰かも?
ま、それで、2人をそのままベットに寝かしつけ、俺は自分の部屋で飲み直し。程なくして心地良い眠りにつきましたとさ。おしまい、おしまい。
次回、『タビト、町を出る!』
ようやく出るのかよ。早く出発して仕事しろよな。とかは止めてください。冗談です。
はい。もう出発しますよー。お客さん。馬車はこちらですよ。はい乗ってー。寝るのは馬車に乗ってから。
「はい。それでは、出発ー!」
見送りなんて誰も来ないよ? 来ないの? マジで?
ま、そんなものかね。皆さん忙しいだろうからね。いちいち見送りなんかしてられないよね。うん。それでいいと思うよ。はん。これも次の報告書に付け足しておこう。そう。報告は大事。それをどう活かすかは、領主のガルーマさん次第です!
護衛は依頼していない。なにか信用できない町だから。全会一致でそうなった。寝込みを襲われてもイヤだしね。不安要素は受け入れません。新たな先触れによって、次からの町での変な誤解はないと思いたい。迷惑な忖度も?
昼間は、比較的整備された街道を進むだけだし、夜はシェルターで休むから、大規模な襲撃でもない限り問題はないと思いたい。
目指すは『中央の町 アシャズ』。交易の要になっているだけあって、いろんな情報や種族が集まっているらしい。
エルフに、ドワーフの職人さんも沢山いるらしいから、とっても楽しみです。『ダッカル』での反省を活かして、過度の期待はしないでおこうと思う今日この頃です。仲良くなれるといいな。それくらい?
『アシャズ』には、奴隷商館がある。セバイスさんの話だと、奴隷商館のある町には『奴隷狩り』がいる。それに関連した組織がある。アシャズにはあるのかな? 無いといいな。フラグじゃないからね。微妙なんだよね。戦闘はしたくないけど、『奴隷狩り』は壊滅させたい。うん。この矛盾。何とかならないものでしょうか。
2人ともまだ寝てますな。よしよし。このまま距離を稼いでおきましょう。馬車もゆっくり走らせてるから、昼飯もこのまま御者台で食べちゃおうかな。でも、お馬さんにも休憩は必要だからな。うん。悩ましい。
そう言えば、ゴブリンさんの出現数の多さについては、何の解決もしてないな? 何だったんだろうな。あの数は異常だと思うけど、町でもそんな話は出てなかったし、俺達にけしかけてた訳でもなさそうだったからなぁ。そんな事が出来るかどうかも分からないしな。
対魔物用の使役契約【黒の使役奴隷】? いや。首輪なんてしてなかったし、まだ知らない新手の魔物使い? うーん。
ん? 何か立ってるぞ? 《双眼鏡》
「何々? 立て看板か」
『←中央の町 アシャズ』
『→ダンジョン ガウーボ』
『↓獣人の町 ダッカル』
相変わらずの何て親切設計。街道の分かれ道に立て看板。騙しじゃないよな? 変なお店に案内されたり、進んだ先に落とし穴とかは無いよね? うん。考え過ぎだね。ははは。
『中央の町 アシャズ』と反対方向に『ダンジョン ガウーボ』があるんだね。うん。行かないよ? お仕事中だからね? 《スルー》だ。
変な生き物には会いたくない。わざわざ、こちらから出向く必要もない。そう。危機回避能力発動だ。全力で《スルー》した。恐らくミラは、いい運動になるし、楽しそうだからとダンジョン探索を希望しそうだけど。そう。今はお仕事中だから、また今度ね。安らかに眠ってるといい。何事もなかったかのように通過しておくからね。
あっ。そう言えば、地下施設作成の報酬もらうの忘れてた。……くっそー。それでお見送りに来なかった訳か? やってくれるじゃ、あーりませんか。獣耳いないのに獣人の町って名乗ってるダッカルめ。町長のコンスコーも、やはり悪知恵は働くようですぞ。気をつけねばな。俺の思い込みかもしれないけど。
よし。しっかり利息を付けて請求書しよう。払わなかったら、いきなり〈バルシュ〉で崩壊させてやる。覚えてろよ?
アシャズでは、施設を作る度に請求する事にしよう。支払ってもらってから次の施設の作成に入るか、即金での支払いが無理なら、支払い方法を確定させ、実行に足る証拠を提示してもらおう。うん。同じ過ちを繰り返してはならないのです。こうして人は成長していくのです。
はぁ。やれやれ。俺としたことが、気持ちが盛り上がっちゃって、報酬の事なんて考えてなかったからな。ふー。やってしまったわ。ははは。
でもさ、向こうからも何も言ってこないって、やってくれるよね。そりゃあ、お金なんて払いたくない気持ちも分かるけどさ。働いた分は、しっかり対価として払ってもらわないと、商売なんて成立しないよね。もしこれがワザとだとしたら、お仕置きが必要だ。『トイチ』の利息で計算してやる。銀ちゃんだからね。俺ってば。
10日ごとに返済額が1.1倍になっていくんだよ? 『トイチ』だからね。うん。凄い利息だよね。1年経つと、元金は30倍以上になるんだから、ボロ儲けだよ? 返済してくれればね? 取り立ても楽じゃない。非常に、恨まれるお仕事です。
お金を借りる時には下手に出てお願いするくせに、借りた途端に立場が逆転するからね。どっちがお願いする事になるのかね。お願いですから返して下さいよぉ。こっちも生活が掛かってるんですから、約束通り返し下さいよぉってね。やれやれ。
だから、もしもお金を貸す時は、縁を切る覚悟でね。そもそも、お金を借りにくるヤツは親友じゃないからね? 余裕があったとしても貸しちゃダメ。1度甘い顔を見せると、また来るよ?
お金のトラブルは、一生引きずる事になるからね。金融機関っていう専門の組織があるからさ、そっちを紹介してあげようね。そこでも借りられないような奴が、本当に返済できると思う? 返すつもりがないから気軽に借りにくるんだよ? エフェクト付きの演技でね? プロからは逃げられないからね。舐められてるんだよ? こいつからなら借りられるってね。
気を付けよう、甘い言葉と金貸して。今度ダッカルに行ったら、地下施設の出入り口に掲げとこう。
* *
「お疲れ様。2人とも大丈夫? もう夕食の時間だからね?」
そう。あの行く先を表示してくれてた立て看板を通り過ぎた後、お馬さんの為にも、俺のためにも、何度か休憩を取り、現在に至る。大規模シェルターも作成済みで、後は食事をして風呂に入って寝るだけだ。
うん。前回の行程が何だったんだと思うくらいに順調で、ゴブリンさんも、盗賊などの襲撃もなく、至って平和な馬車の旅だった。うん。それなりに退屈しながら進めて来たけど、2人ともよく眠れたよね。爆睡ってやつ?
はっ。これも、もしかしたら〈身体強化〉の副産物なのか? あれれ~~? 俺には関係ないけどなぁ。やっぱり俺の生活魔法は、この2人の常識とも違うらしい。
ふー。そのうち、その謎が解ける日もくるのだろうか。じっちゃん! まだなの? まだ謎は解けませんか? その名に懸けて?
「うーーん。何っ、もう夕食じゃと? はっ。と言う事は、今日は朝食と昼食を食べておらんのじゃな。わしとした事が。本当に情けないのじゃ。やはり、もう酒は止めるのじゃ。うう」
「お、お疲れ様ですタビトさん。すいません。まだ少し身体がダルい気がして、すっかりタビトさん1人にお世話になっちゃいました。反省します。私も、もうお酒は止めようと思います」
「う、うん。2人とも、まだ身体の調子が戻らないんだね。それは辛いよね。おかしいね。昨日も、そんなに沢山飲んでなかったのに。それなのに、これだけお酒が残っちゃうって事は、お酒が身体に合ってないのかもね。無理に止めろとは言わないけど、量は控えた方がいいのは確かだね」




