第十四話 恋情と言う名のバグ
久し振りのたこ
もしやこの作品に癒やしはたこしかいないんじゃ…(°°;)
「…相変わらず、怪我が多いな」
「致命傷はないんだから良いだろ」
たこ技師の苦言に、顔をしかめて返す。
改造された身体は生身の部分なら一日で欠損修復されるし、機械部ならパーツを変えれば済む。与えられた命令は問題なくこなしたんだし、大事な部品や高価な機器を壊さなければ、そうそう叱責を喰うことでもないはずだ。
何度も言うがこんなの掠り傷同然で、戦闘の最前線にいれば普通に追う程度の軽傷だ。
たこ技師が故障パーツがないか調べながら、横目でわたしを見る。
「φが、血相変えて運んで来たが?」
「アレがおかしんだよ。見たらわかるだろ、どこも大した負傷じゃない。このまま次の戦場にだって行けるさ。アイツ最近やたらわたしに付き纏ってちょっとの怪我で大騒ぎして、バクでも在るんじゃないか?」
「…好きな子なら、掠り傷ひとつで大問題だろうよ」
…とうとうイカレたのか?このたこ。
呆れ通り越して侮蔑の視線を向けると、たこ技師は困ったように笑った。
「なんだい、その目」
「機械人形に好き嫌いなんざあるわけないだろ、魂がないんだから」
人工知能に心を求めるなんて、ぬいぐるみに恋するみたいなもんだ。ぬいぐるみなんて、わたしは見たこともないけど。
「君はいつもそう言うけどね…」
「なんだよ」
答える前にひびの入ったパーツを見つけたたこ技師が、顔をしかめた。
「高いんだけどな、このパーツ」
「壊れて困るならもっと丈夫に作れば良いんだ」
「まあ、ここは消耗品だからね。前回交換は…半年前か。随分保った方だね」
「そうだよ。怪我の多さを責めるより、わたしが死んでないことを褒めろよ。同期はもう殆ど死んでんだからさ」
部品も何も、そもそも戦争奴隷からして消耗品なんだ。ここの所は激減後だったから特別扱いされていたがもう特別扱いは終わったし、上は戦争奴隷なんて燃料の異なる機械人形位にしか、思ってないだろう。ひとだと思ってるなら、機械人形と同じ作戦に置かれるはずが無い。わたしが生き残ってるのは、運と性能が良かっただけだ。
あのイカレ野郎に、生き残り易い身体に変えられたから。
「aは初戦が第二次ベルヴィストク会戦だったかな?あれはかなり味方側の死傷者が多かったね…」
「かなり多い、なんて話じゃない。前線に投入された戦争奴隷はわたし以外全滅だ」
敵方が大火力の戦略兵器を投入したせいで、防御装置を持たない戦争奴隷は機械化の度合いを問わず軒並み全滅した。わたしの同期の半数以上が、初戦で死んでる。その後も機械人形の実用化まで、戦争奴隷はばら撒かれる銃弾の如く使い潰された。まあ、絶対数が少ないから目立たないだけで、今だって着々と奴隷は使い潰されてるけど。
今こちら側の前線に戦争奴隷が少ないのは、その時に死に過ぎて絶対数が激減したからだ。お陰で生き残ったわたしは、機械人形に囲まれて戦う羽目になっている。
今では兵器に対応すべく急速にこちらの機械工学が発展し、結果開発された戦闘用殺戮機械人形があちらの戦争奴隷を白蟻退治の如く殺しまくっているんだから、皮肉な話だが。
戦争のお陰か、あの狂った男のお陰か、恐らく現状この国は世界最先端の機械人形制作技術を持っている。
「…同期は、残り何人だ?」
「さあ。確か十人はいたはずだけど」
この前J-2960番が死んで、J-2番台がいなくなった。J-3番台もこの前四人死んだし、あと何人残ってるか。戦争奴隷だけでも同期は万単位でいたはずだが、何万の奴隷全てを知ってるわけじゃない。
わたしやフクロウみたいな孤児出身の戦争奴隷なんて珍しいんだ。八割以上は生まれながらに戦争奴隷になることを義務付けられた工場生産の促成栽培児で、機械人形並みに話が通じないし。一年で成人並に老化するなんて、イヌか、と思う。生後一週間で歩き始め、半月で言葉を覚え、一月で武器を手に取るのだ。狂ってる。
無論そんな奴らが生き残れるはずもなく、大抵は戦地投下後一年以内に死んでいる。孤児出身の戦争奴隷だって大半は一年経たずに死んでるんだから、どんぐりの背比べだけと。
そんな促成栽培児たちは滑稽なことに機械人形より没個性で、むしろ促成栽培児を機械人形より気味悪がる奴も多い。
それでも彼らには魂を感じるから、わたしは機械人形より彼らの方が好きだけど。
「まだ生きてたのかと思って声掛けたら、何歳も年下の兄弟だったりするんだ。正確な人数なんて、あんたの方が詳しいだろうよ」
促成栽培児には大規模生産プラントがある。戦争奴隷に選ばれなった運の良い繁殖奴隷たちが、ひよこ工場みたいに涸れるまでぽこぽこと子供を産み続けさせられるんだ。だから促成栽培児は大家族で、顔が似た兄弟が山ほど存在する。
「あー、そうだね。忘れなかったら今度調べてみるか。促成栽培児は管轄外だからな…彼らは滅多に機械化されないし」
「ああ、そう言や技師だったっけ、あんた」
たこのくせに技師だった。このたこは。
わたしみたいな機械化した人間も見るが、担当する殆どは機械人形だ。
「そう、私が見るのは機械が主なんだよ。君が、魂を持たないと言って嫌う、ね」
「…さっきから文句ありそうだよな。なんだよ」
自分の手足を解体されながらする会話なんて、気持ちの好いものじゃない。
出来ればご遠慮願いたいことで、だからメンテナンス時は大抵寝ているのに、今日はこのあとすぐ次の作戦だから眠れない。
そもそもφのヤツに運び込まれなかったら、そのまま次の作戦に向かってたのに。あのポンコツ人形め。
苛立ちを込めてたこ技師を睨めば、片眉を上げて首を傾げられた。
「生き物だって元々は無機物の集合体なんだから、今は魂を持たない機械だっていずれは魂を得るかも知れないだろう。君がバグだって言うφの異常行動だって、生まれつつある魂がそうさせるのかも知れない。人間の恋情なんて結局、バグみたいなものなんだから」
恋情をバグだなんて冷めたこと言いながら、機械人形が魂を持つなんて言う。
やっぱりこのたこも、イカレた男だ。
「夢見るかリアリスト気取るか、どっちかにしろよ」
「なら私は、機械人形も恋をすると信じようか」
…中年男がなんつー薄気味悪いことを。
蛆と蠅まみれの腐肉でも見るような目でたこ技師を見下して平坦に言う。
「寝言は寝て言え、おっさん」
流石に堪えたのか、以降たこ技師は無言でメンテナンスを終わらせた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
よく肥えたたこしか癒し(?)のないような作品でごめんなさい…(..;)
続きも読んで頂けると嬉しいです




