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白金の医術師 黄金の薬術師  作者: 木瓜
第十章 首都 オラージュ
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10-10

 シアを伴って寝室を出ると、居間にはレーヴァンとエレヴィが優雅に茶を飲んでいた。ナスカの姿はない。


「――ナスカは?」


 オレが尋ねると、レーヴァンがオレたちに席を勧めながら答えた。


「彼は今回の件にはほとんど関与させていませんからね。席を外すようお願いしました」


 そういって、席を立ち新たに茶を用意する。


「じゃあ、きちんと説明してくれるつもりなんだ、今回のこと。『神様』みずから」


 オレがエレヴィを見遣りながら言い放つと、シアの目が大きく見開く。シアが持つカードだけでは彼がそうだと判断は難しいだろうが、オレには初めて会った時から想像はついてた。コイツが千年の時を生きて、アーリリア教の『神』を騙る最初の騎士であることを。


「そのつもりでここに来たんだよ。アルツ=ウィルニゲスオーク」


 エレヴィが落ち着いた口調で返すが、それにオレは小馬鹿にしたような口調で更に返す。


「へえぇぇ。このために、わざわざ奥神殿の祭壇からおいでになったんだ。待ってればオレたちはそっちに行くっていうのに。オレはてっきりシアに魔力を供給するために来てくれたんだと思ってたよ」


 こいつの根城はだいたい想像がつく。奥神殿の主であるシアさえ立ち入ることが許されない祭壇に普段いるのだろう。一番巫女を身近に見守れる場所だ。そんな場所から人目につく危険を犯して、わざわざインバシオンまで来る理由が今回の『説明』だけでは説明がつかない。

 オレの言葉にエレヴィは眉をぴくりと動かし、レーヴァンは胡散臭げな微笑みを深くした。


「とにかく礼は言う。シアに魔力をくれてありがとう。あんたじゃなければ、シアを助けることは出来なかっただろう。だから、感謝するよ、例え原因があんたたちのせいだとしても」


 オレの言葉に、シアが怪訝な表情で口を挟む。


「アルツ……、それはどういう意味なんですか?」


 オレは二人を見据えたまま、口角を上げシアに答える。


「そのままの意味さ。オレがさっき急変して死にかけたのはこいつら……主にレーヴァンのせいだってことだ」


 シアは驚き、息をのんだ。


「根拠を伺っても?」


 レーヴァンは変わらず余裕に満ちた微笑みをたたえ、オレに尋ねる。


「たいした根拠なんてないさ。ただ、さっきシアに聞いたオレが飲まされた毒の候補はどれも口に含んだだけじゃ意識不明になったり、危篤状態になったりしない。それに対するシアがしてくれた処置の方法に不備はなく、どれをとってもオレが死にかける要因はないってことだな。ただ一つ、レーヴァン、お前が側に居たことを除いては」

「人聞きが悪いですね。まるで私が貴方を殺そうとしたみたいじゃないですか?」

「何もしてないと?」

「――いいえ。毒を口に含んだ貴方を意識不明にしましたし、安定している貴方の顔色を悪く見せ、呼吸と脈拍が止まったように見せかけましたが、貴方の命を奪おうなんて露も思っていませんよ」

「貴方は! なぜそんなことを!!」


 レーヴァンが認めた事実に、シアが鋭い声を上げる。


「理由は明白でしょう。貴女に『蘇生の術』を掛けてほしかったのですよ」

「だがら、なぜ!!」


 シアの質問には答えずレーヴァンはオレを笑いながら見る、『貴方はおわかりでしょう』と。

 ああ、はらわたが煮えくり返る。オレはお前達の……いや、お前の手の上で踊る道化なのか?


「――オレを『神』の代わりにしたいのか? エレヴィの代わりに」


 ご名答、とばかりにレーヴァンが満足そうに笑った。


「今回の旅は――、シアを男の身体にしたのもすべて、オレを不老不死にする為なんだな」


 エレヴィは目を伏せ視線を外し、レーヴァンは更に愉しそうに笑う。


「お前は最初に会った時、オレはまだ試されていると言った。それは守護騎士のことなんかじゃなく、オレが『神』の代わりに相応しいか試されていると言いたかったのか?」

「どちらの意味も含まれていました。しかし、それは今もですよ。貴方は何時も、そして何時までも試され続ける」


 レーヴァンにオレが剣呑な眼差しを送っていると、エレヴィがすまなそうな顔で頭を下げる。


「了承も得ずに、君の人生を左右することしてすまない。だが、僕の寿命もわずかになった。監視する『神』がいなくては、巫女は神殿の食いものにされてしまう。僕のエゴ以外何ものでも無いのだが、娘達を守りたくて君の意思を無視してしまった。本当に申し訳ない」

「――ながくないのですか?」

「恐らくあと10年もないだろう。加速度的に年齢を重ねている。レノーアの……、最初の王女の術が切れたようだ」


 巫女とその血縁者の行く末を心配する気持ちは真実なのだろう。しかし、自分の永い命の終わりを感じ安堵しているように見えた。

 当たり前だ、千年なんて気の遠くなる時間を一人で生き続けることは容易いはずがない。想像もつかないほど辛い日々だったろう、だが……。


「だからといって、貴方と同じ人生を人に押しつけるのはどうかと思いますよ。せめて前もって了承を得てからにして下さい」

「わたしは了承しません! そんな下手したら千年も生かされる責苦をアルツに押しつけることなんて」


 オレの言葉をシアが思い切り否定してエレヴィを詰ると、エレヴィは戸惑ったように首を振った。


「そんな……、レーシアは20歳を過ぎている。いくら君を強く思っているとしても僕のように千年も生きることはないよ」


 エレヴィの言葉にオレは舌打ちし、レーヴァンを睨め付ける。

 エレヴィは8年前オレが蘇生の術を掛けられたことを知らない。少しだけオレに延命を求めただけなのだ。



「8年前のあれはお前の独断か! レーヴァン」


 サージュ様がレーヴァンを敵だと言っていたことを思い出す。確かにこれを味方だとは思えない。8年の事実を隠してエレヴィをかつぎやがった。

 平気で裏切り、平気で嘘をつくものが味方であるはずがない。


「どういうことだ?」

「アルツ? 8年前のこともレーヴァンが関わっているのですか?」


 エレヴィとシアの言葉にオレは直接返さなかった。それはオレも聞きたいことだからだ。

 レーヴァン、お前にな。


「――レーヴァン、お前がコズミを操ってオレに毒を盛ったな」


 シアの息をのむ音が聞こえる。レーヴァンは気味の悪い笑顔のまま先ほどの言葉をくり返す。


「根拠を伺っても?」


「これもたいした根拠はない。しかしお前が明確な証拠を残すはずがない。

 サルトでお前の結界を破った時に奥神殿の結界はお前が張ったものだと気がついた。誘う者であるお前が自分の結界を破られて、気がつかないはずがない。つまりお前は8年前からオレが奥神殿に侵入していることを知っていた。それは間違いないだろう、ナスカを使ってオレとシアが会えるようお膳立てしてたんだから」


 あのナスカが、オレみたいな人間とシアが会うことを了承していたことにずっと違和感があった。実際ナスカは、オレとシアが会うことが不本意であることを隠そうともしなかった。そりゃそうだ、ナスカが自分の意思で了承していたんじゃない、レーヴァンがオレたち二人で会うことを了承するよう命じていたんだ。サージュ様が言っていたではないか、ナスカはレーヴァンとエレヴィの指示で動き、逆らえないと。


「なんでそんなことをした? シアがオレを好きになるようにか? 何のために? 今回と同じくシアがオレに『蘇生の術』を掛けさせるために?

 だったら、コズミがオレに毒を盛ったのも、お前の差し金だと考えた方が自然なんじゃないのか? 薬の副作用についてシアがコズミに聞いた時、『変な夢は度々見た気がする』と言っていた。夢に入り込み人を操るって、誘う者の常套手段じゃなかったけ?」


 オレが皮肉な笑みを浮かべながら言い放っても、レーヴァンの表情は動かない。オレはこの可能性に気がついてからずっと聞きたかったことを尋ねた。


「――レーヴァン、お前はコズミをどこにやったんだ?」

「――根拠を伺っても?」


 みたび同じ事を言われ、オレはかっとなり怒鳴りつけた。


「だから、根拠なんてあるわけがないじゃないか、お前がしたことに!

 でも、お前しか考えられないんだよ。あの時、コズミは教都近くの山に登った。それは間違いない。目撃した人間もいるし、オレの探索の魔術でもそう出た。だが、その後忽然と姿を消したんだよ。人が道のない山に入れば足跡や枝が折れた箇所なんかの痕跡が必ず残るのに、それが途中でなくなったんだ。まるで神隠しにあったみたいに。

 お前がコズミをさらったなら説明がつく。お前はコズミをどこへやったんだよ!」


 父さんが昔、殺した兵士を故郷に帰したい理由を、遺族が『生きているか死んでいるかさえ分からず、大切な人を待ち続けるのは辛い』からだと言っていた。その時は分からなかったその気持ちはコズミを失って初めて思い知った。生きているはずなんてないのに、今でも人混みにふとその姿を探してしまう時がある。そこにもう恋情はないのだけれど、まるで自分の一部のようにしみ込んで離れない。


「私も知りません。彼女は彼女の望んだ場所に行かれました。私はただその望みを叶えただけ。それがどこなのか、彼女の心を写すだけの鏡である私には預かり知れないことです」


 淡々と話すレーヴァンの言葉にオレは息を止めた。


「――――認めるのか? お前がコズミを操って毒を盛り、コズミをどこかへやったことを」

「私が認められるのは、私が彼女の望みを叶えたということ。それだけです。

 彼女が貴方を殺したいと望んだから手を貸し、彼女が貴方の手が届かない場所へ行きたいと望んだから送って差し上げた」

「そこにお前の意思はなかったと言うのか?」


 声を引き絞って言いつのると、はじめてレーヴァンの表情は動き、少しだけつまらなそうな顔になる。


「私が自分の意思で出来ることなど、ほとんどないのですよ。私はただ人の心を写すだけの鏡。私は人が思うような万能の存在ではありません。どんなに自分が望んでも、人の望みを叶えることしか出来ないのですよ。私の意思で出来ることは、誰の望みを叶えるのかの選択をするだけ。私は不自由な存在なのです」


 初めて聞く内容に、オレだけでなくエレヴィも戸惑った顔になる。それは事実なのだろうか?


「人と契約や取引をする話は与太か?」

「望みを叶える代わりに代償を差し出すと、人が私に望む時に自分から話を持ち出すのです。私に代償は必要ありません。ただ、無償の行為は人を落ち着かせなくします。何かを得るのに代償を払わなければいけないと思う人は意外に多いのですよ。私は代償を受け取ることを望まれるので、その望みを叶え必要もないのに受け取るだけなのです」


 レーヴァンの話に偽りがないか頭を巡らせる。鵜呑みになんて出来るか、こんな奴。


「――サルトで、オレを結界に閉じ込めたのは? そんなことをエレヴィが望んだとは思えない」


 サルトのカジノにシアが連れて行かれた時、オレはコイツの結界に足止めされた。そんなことを誰が望んだというのだ。


「あれは、詐欺師の人間達が望んだことを叶えただけです。あの者達は、巫女様のパートナーである貴方が来るのを遅らせたいと思っていました」

「お前は人の心がのぞけるのか?」

「いいえ。人の望みが分かるだけです。それが私の役目ですから」

「誰が決めた? そんなこと」

「さあ。気がついたら私はそうした存在でした。決めたものがいるとしたら、『神』なのでしょうか」


 どこまで本当なのか見当がつかないが、提示された情報を整理する。


「――ならば、お前は自分の望みに近い、もしくは布石になりそうな人の望みを叶えることで自分の望みを果たしているのか?」

「そういうことになりますね」


 レーヴァンは平然と頷く。


「結局自分の思い通りにしてるじゃねえか!」


 オレが怒りにまかせて罵倒しても、痛痒を感じないように首を振る。


「全く思い通りではないですね。8年前の『蘇生の術』では貴方の不老不死は不完全でした。傷の治りは遅く、緩やかですが貴方の時は確実に流れていた。私は不老不死を完全なものにするために、もう一度巫女様に『蘇生の術』を掛けて頂きたかったが、機会が得られずこんなに遅くなってしまった。貴方の命がそれほど永らえそうもなく、とても残念です」


 全く反省の色も見られず罪悪感もないようで、怒っている自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。そうだ、こいつは人の物差しで計れるものじゃない。オレの価値観でコイツを見ること自体間違っているんだ。

 オレは冷静になるべく、大きく息を吐いた。


「――お前はそこまでしてオレを不老不死にしたがる理由はなんだ? オレを『神』にしたてあげて、お前に何のメリットがある?」


 レーヴァンは、首を少し捻って答えた。


「楽しそうだから、ですかね」


 頭の血管がぶちぶちと何本か切れる錯覚を覚える。そんな理由でオレは二度も死にそうな目に遭って、コズミはあんな末路をたどり、シアがこんなに苦しめられているというのか? ふざけんな!

 オレは罵詈雑言を浴びせようと口を開いたが、なんとか思いとどまりそれらの言葉を飲み込んだ。オレが何を言おうともコイツには何の意味をなさない。ならば、無駄なことに労力を費やさずに、これからのために何をすべきか考えるんだ。


「お前は、オレが長生きしてればいいのか?」

「そうですね。貴方といれば面白そうなので、なるべく正気で長く生きて欲しいです」

「正気で?」

「はい。人は長く生きるには心が弱すぎるようで、すぐ壊れてしまうのです。800年ほど前、主も初めてお目にかかった時は心が壊れていました。多くの辛い記憶が主を苦しめ、苛んでいたのです。ですから主の望みを叶えるために、不要な記憶のほとんどを消して差し上げた。そして再び壊れてしまわないよう、主はほとんど眠って過ごしているのです。8年前の時も眠りにつかれていました。仕方のないことだと分かっていますが、私はとてもつまらないのです。

 私は貴方に正気のまま長く生きていただけるならば、貴方のどんな願いも叶えましょう。ですから、私の次の主になってはいただけませんか?」


 珍しく真面目な表情で述べたレーヴァンの話の内容を熟考する。そして、いくつか浮かんだ疑問を上げた。


「エレヴィが死んだらという話か?」


 これにはエレヴィが自嘲しながら答える。


「現時点、この状態で主従関係にあると言えると思うか?」

「なるほど。なら、オレもお前の主にはなれないか。レーヴァン、残念だったな。無意味な言葉遊びに付き合う気はない」

「――では、契約を」

「それも無意味だ。オレがお前に契約で縛られても、お前は縛られることはないんだろう。お前の話を鵜呑みにすれば、オレ以外の望みを一切聞くなとでもオレがお前に望まない限り、お前の行動は制限できないんだよな」

「それでも構いません」

「お前の言葉を鵜呑みに出来ないから、そんな契約結ぶ気にはなれんな」

「――疑り深いですね。そうは仰っても、私がいなければ巫女と血縁者を守り続けることは出来ませんよ」


 なぜだろう、レーヴァンが必死になっている気がする。それほどまでに、コイツはオレが欲しいのか? オレはにやりと笑い、言い放つ。


「レーヴァン。お前はオレに使われたいのか?」


 オレの言葉に、レーヴァンは喜悦の声を上げる。


「はい。どうぞ、貴方の望みのまま私を使って下さい」

「それが、お前の望みなんだな」

「仰るとおりです」


 陶然とこうべを下げるレーヴァンに、オレは傲慢な態度で言葉を投げた。


「お前の望みを叶えてやろう。お前を存分につかってやる」


 歓喜に満ちた表情で顔を上げるレーヴァンに、オレは更に言葉を続ける。


「だが、オレの望みでお前を使うんじゃない。お前の望みでお前を使ってやるんだ」


 レーヴァンの眉間にしわが寄り、面白くなさげな表情に変わる。


「――それこそ言葉遊びですか? 意味のないことを」

「お前に意味がなくても、オレには意味がある。最初に言っただろ、『オレは何も望まない。お前に何も見ない』と。オレはお前に何も望まない、ただお前が望むから使ってやるだけだ。そして、お前に何も見ない、お前は『神』でも『悪魔』でもない、ただ『レーヴァン』という名を持つものなだけだ。

 お前は人の望みを叶えるものなのだと言うのなら、お前に何も望まないオレはお前に縛られることはない」


 レーヴァンの行動はどうしたって制限出来る訳がない。しかコイツの存在がシアを、シアとオレのこれから生まれてくる子ども達を守るために必要なのは確かだ。コイツの話が嘘っぱちなら、本当にただの言葉遊びにしかならないが、少しでも真実があるのならこの言葉遊びはオレにとって意味をなす。契約と違って、オレがコイツに縛られることはないのだから。


 オレの主張にレーヴァンは戸惑った顔になる。


「主従関係でもなく、契約でもなければ、これはどういう関係だというのですか? 私は貴方の何だというのですか?」


 この関係は何か、名を付けろというのか。人でないくせに妙なことに拘る奴だ。いや、それは差別か。誰だって曖昧な関係は落ち着かなくさせる。だが、この関係に名前を付けるのは難しそうだ。一番近そうなのは……。


「――じゃあ、友達ってことでどうだ?」

「――はあ?」


 レーヴァンは素っ頓狂な返事をした。黙って事の成り行きを見守っているシアやエレヴィまで驚いている。そんな変なこと言ったかな。誘う者とお友達――――いや、変か。


「う~ん、でも他に近いもの思いつかないな。レーヴァンはオレといると面白そうだから、一緒にいるためにオレの要求を叶えるというんだろ。それだけなら主従関係だけど、オレはレーヴァンの行動を制限出来ないし、する気もないから主従関係とは言えない。お互いを縛らず一緒にいるっていうなら、友達が近いかなって思うんだけど」

「――貴方は私と『友人』になろうというのですか?」


 信じられないものをみるように、レーヴァンはオレを見る。


「さすがに現時点お前に友達に対するような好意は抱けないから、お前の片思いに近いけど、長い付き合いになりそうだし、いいんじゃない? 友達になろうか」


 オレがちょっと笑って手を差し出すと、レーヴァンはしばしその手を見つめる。


「なんだよ、不満があるのか?」


 オレが口を曲げると、レーヴァンは戸惑ったように首を振りオレの手を取った。

 レーヴァンの手は乾いていて、暖かくも冷たくもない。これが人外の者の手かと、心の中で意味なく納得する。


「これから、よろしくな」


 手を握ったままオレが挨拶をすると、レーヴァンは気の抜けた声で「はあ」と返事をし、ぽつりと付け足した。


「なんだか、思ってもみない結果になりました」

「お前の思い通りばかりになってたまるかよ。ざまみろ参ったか?」


 ニヤリと笑うと、レーヴァンも何時もの食えない笑顔に戻って答えた。


「はい、参りました。これから面白いことになりそうで、楽しみです」

「おう、せいぜい楽しんでくれ。オレに迷惑掛けない範囲でな。ただ、その前に……」


 オレは握っていた手を離すと、思い切り振りかぶってレーヴァンの横っ面を殴りつける。意味の無いことだと承知しているが、一発殴らないとどうにも腹の虫が治まらない。

 オレの渾身の一撃で、レーヴァンの身体は大きく後ろに倒れ込む。顔を手で覆いながら身を起こしたレーヴァンの口から流れる血が見え、オレは自分で殴っておきながらその結果におののいた。


「な、なんでそんな大怪我負っているんだ? これぐらいお前にはなんでもないだろう……。シア! オレの医療鞄を取って来てくれ!」

「大丈夫ですよ」


 焦ってシアに声を掛けるオレを、レーヴァンは朗らかな様子で止めた。


「そんなことを言っても、血が…………な、治ってる?!」


 立ち上がり、オレに対峙するレーヴァンの顔には先ほどまであった血もあざも、すべて消え失せていた。


「どういうことだ?」

「はい、貴方が私に『少しくらい痛い目にあって欲しい』と望まれたので、そのように対応させて頂きました。しかし、やり過ぎてご心配お掛けしてしまったのですね。今貴方が私の『怪我を治したい』と望まれましたので、すぐさま元に戻させて頂きました」

「――――――もう二度と、わざと怪我をしないでくれ」

「はい、承知致しました」


 頼むから、これ以上面倒掛けないでくれよと、オレは切実に願う。




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