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白金の医術師 黄金の薬術師  作者: 木瓜
第六章 湖のある村 セレッソ
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44/99

6-5

「その役は私が代わって差し上げましょう」


 バリトンの艶やかな声と共に、一羽の大鴉が空から舞い降りてきた。そしてオレとクロトの間に入ると、瞬く間に人の身体に姿を変える。


「レ―ヴァン」


 黒き人外の者を、オレは睨み付けた。


「言ったでしょう、何時でも私は貴方の心を映すと」


 レ―ヴァンは、その人外の美しさをたたえた微笑をオレになげる。


「オレも言っただろう。オレはお前に何も望まない。余計なことをするな」

「心配されずとも、私は貴方に何か代償を求める気はありません。可愛がっていた子どもに自ら手を掛けるのは貴方も辛いでしょう。どうぞ、私を使ってください。すべて貴方の望みのままに処しましょう」


 詠うように語りながら、レ―ヴァンはクロトのあごに手を掛ける。


「クロトに触るな!!」


 オレが大声を上げるが、レ―ヴァンの手が止まる様子はない。クロトは呆然とレ―ヴァンを見上げ、逃げることも抵抗することもせずに立ち尽くしていた。オレはありったけの魔力をレ―ヴァンにぶつけるが、軽く身体を揺らしただけで平然としている。 絶望的な気持ちで、オレは腕の中のシアをぎゅっと抱きしめ、あらん限りの声をあげた。


「やめろ!!」

「――その通り。止めなさいレ―ヴァン」


 凛とした声がその場に響く。視線を声のする方へ向けると、30代半ばほどの黒髪の女性がこちらへ歩いてくる姿が見える。


「父からこの件で、人を殺めることは許されていないのではなくて? 大鴉」


 レ―ヴァンに対し、一歩も引くことなく対峙する女性は薄紫の瞳でとても美しく、シアに良く似ていた。――まるで親子のように。


「――そうでしたね、失念しておりました」

「わざとではなくて? 貴方が忘れるなんてことありえるのかしら」

「私でも忘れることはありますよ」


 レ―ヴァンがニッコリ笑うのを、女性は小ばかにしたように短く嗤う。


「下らない問答をしている暇はないの。レーシアを元の姿に戻しなさい。負担が一番少ないわ」

「……わかりました」


 了承したレ―ヴァンがこちらを一瞥すると、シアの身体が急に軽くなり、女性の姿に戻る。


「やはり、お前の仕業だったのか!」

「私はただ、主に指示されたことをしたまでですよ」


 薄っすら笑うレ―ヴァンに、女性は更に冷たく言い放つ。


「レ―ヴァン、屋敷に戻っていなさい。貴方がいてはこの者たちが落ち着かないでしょう」

「……わかりました」


 レ―ヴァンは少し面白くなさそうな顔をしたが、一瞬後にその姿が掻き消える。


「――アルトサージュ様ですね」

「サージュで結構よ」


 サージュ様はオレの質問をさらりと返すと、今だ意識の無いポルテの傍らに跪き脈を確かめた。


「術が途中だから、心拍は正常に戻ったけれどまだ危険な状態だわ」


 そういうとポルテの手を取り、祈るように頭を下げた。途端、サージュ様の身体は淡く光りだし、黒髪は白金に変わる。そして術が終わるとサージュ様は立ち上がり、オレを振り返った。


「わたくしの『癒しの術』では完治は無理だけど、大きな問題は取り除けたわ」


 オレはサージュ様に深く頭を下げる。


「ありがとうございました」


 それを見た混乱が治まらないクロトも、慌てて頭を下げた。


「礼の必要はなくてよ。元はといえばわたくしたちの責任です」


 サージュ様は沈痛な面持ちで頭を振る。


「――それはどういうことですか?」

「詳しい話は屋敷でするわ」


 オレの質問をそういってさえぎると、サージュ様は女主人然とした態度に戻りオレたちに向き直った。

「レーシアを連れてきてくれてありがとう。レーシアの守護騎士 アルツ=ウィルニゲスオーク。連れの方々も屋敷にいらして。歓迎するわ、屋敷の者はみな事情をすべて分かっているから、気がねなく過ごして頂戴」


 そう言って微笑むサージュ様は本当に美しく、シアの将来の姿を見るようで思わず見惚れてしまった。




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