6-1
「アルツと初めて会ったのって幾つの時なの?」
「12歳のときです」
「なによ、あたしたちと一緒じゃない!」
「えぇ!! そうなんですか!」
「アルツって、ショタコン?」
「……違います」
ポルテの言われ無き中傷に、思わずポルテとシアの会話に割り込んで否定する。
「ショタコンって、どういう意味なんですか?」
「――オレに聞かないで欲しいです」
シアに質問されオレがガックリすると、ポルテが嬉々として説明に乗り出す。
「あのねぇ、半ズボンの似合う小さな男の子が好きな変態のことなんだよー」
「アルツは変態なんですか!!」
「だから、違います!!」
「そういえば、最初に貰った服が半ズボンだったような……」
「わぁー。アルツホントに変態だぁ♪」
「だから違うってば! あれは、単に学び舎の年少組の制服だったんだってば!」
二人の責めにちょっと泣きそうだよ、オレ!
ポルテは思い切りからかってるだけなんだけど、シアは真面目に話してるから受けるダメージがデカイ。
「んで、両思いになったのは何歳なの?」
オレの屍を踏みつけて越えていくポルテは、質問を続ける。
「え~と、16歳になる少し前だったので……」
「15歳!? 未成年じゃん! アルツ未成年に手を出したの? 犯罪だよ!」
「手をって……、互いに思いを確かめただけのプラトニックな関係なので、犯罪じゃありません!」
「へぇ~、全く手を出さずに別れて、四年間操を立ててたんだ」
ポルテが感心したように声をあげたが、『全く』という言葉にちょっと後ろ暗さを感じる。それを嗅ぎつけたのかポルテが目を細めて追求してきた。
「ちゅーもなし?」
「…………それはちょっとだけ」
「――やっぱりショタコンの変態の犯罪者だ」
「違う!! 子どもに手を出す趣味はない! 二十歳が十五歳の恋人にキスしただけで犯罪になるか!」
「……そうですよね。アルツは年上が好みですもんね」
「え~と、シアさん?」
シアから漂うヒンヤリした空気にドキリとしていると、ポルテがニヤニヤ笑いながら追い打ちをかける。
「そうだよねぇ~。あたしらが調べた女性遍歴でも年上ばっかりだったもんねぇ~。友達に『女の色気は30歳を越えてからだな』とか言ってたんだよねぇ~」
「……へぇ~……そうなんですかぁ…………」
寒い! 寒いよ、シア様!! 気のせいじゃなく怒っていらっしゃいますね!
くそ! どこの誰だよ、十台半ばの生意気盛りに、酒場で洩らした好みの女議論を今更覚えてんのは!
いや、その持論は今でも変わらないんだけどさ。30歳過ぎたシアは、きっとしっとりした色気たっぷりなんだろうなあ。今から楽しみだなあ。ああ、やっぱり長生きしてもらわなきゃ。
「――アルツ」
「はい!」
シアの暗黒色な呼びかけに、思わず背筋を伸ばして答える。
「……何を考えてたのですか?」
「顔がいやらしかったよ」
シアとポルテの突っ込みにしまったと思う。どうやら妄想は表情にだだ漏れだったらしい。
「――30歳過ぎたシアは、今以上に色っぽいだろうなあと想像してました」
途端にシアの顔が赤らむ。
「40歳50歳過ぎたシアも楽しみだな。長生きしてね」
「…………はい」
更に赤らめ視線をそらすシアの可愛さといったら身もだえしそうな程で、思わず顔が綻ぶ。
横で聞いていたポルテが「ゲロ甘~~~、人前でいちゃつくなよ!」と文句を言うが、無理やり二人乗りの馬車に乗り込んで俺たちの間に座った自分が悪い。馬車の横に馬で並走しているクロトもしらけた視線を送ってくるが、気にしない。新婚旅行に勝手に着いてきたお前らが悪いんだ。黙って当てられてろ!
しかし、実際は二人の存在に少し助けられている。あのまま二人きりだったら、シアはまだ落ち込んでいただろう。オレに癒しの巫女として命じたこと後悔して。
癒しの巫女の命じたことに神官は逆らうことは出来ない。神罰が下るからだ。
守護騎士であるオレも同じなのだが、オレは気にしていない。だから、聞かなかったことにしてしまうことも結構ある。シアの望みはなるべく聞きたいのはオレの願望でもあるから基本なんでも聞いてしまうが、駄目な時はきっぱり跳ね除ける。それでも神罰は下ったことはないから、気にしていない。
しかしシアは気にしている、オレに命じれる立場にあることを。だから、なるべく『お願い』を自分からしないように気をつけている。
あの時、シアがオレに二人の拘束を解けと命じた時、オレがシアに巫女に対する正式な礼を取るとは思わなかったんだろう。オレが聞かなかったことにしたから、ちょっと強く言っただけなんだろう。だから、オレが跪いくと一瞬瞳が揺れた。
そしてその後、自分が立場を傘に来てオレに命じてしまったことを、ひどく後悔して落ち込んでしまった。
シアがそうなることは予想していた。でも――オレもしてみたかったんだよ! アレ!
以前ナスカがシアにしていたのを見て、羨ましかったんだよ! なんか身も心もシアに捧げてます! って感じでさ。
昔シアからそういった所作があると話に聞いたときはちょっと引いが、実際に恋敵のナスカがシアにしてるのを見ると、思いの深さを見せ付けられたみたいで悔しかった。
だから、オレもシアにしたかったんだけど、シアが嫌がるのは分かってたし、「やってみたい」と言ってするもんじゃないので我慢していた。
なのであの時、シアが戸惑うのも承知の上で、思わず『チャーンス!』と嬉々としてやってしまったのだ。クロトとポルテにはドン引きされたけど、構わないさ! オレは長年の夢が達成出来て大満足だぜ!!
是非ともまたやりたいが、シアにドン引きされるのは傷つくので、また次ぎの機会を待つことにするよ! 楽しかったから。
ちょっと新しい世界の扉を開けちゃった気分だ。
しかし、シアに「オレは楽しかったから気にしなくて良いよ」とは言いにくいので、どうやって落ち込むシアを慰めようかと考えていたのだが、どうやらポルテとクロトの存在が、シアの気持ちを浮上させてくれたようだ。
からかわれるのは勘弁して欲しいが、道中、ポルテやクロトとオレの話しをしているうちに何時もどおりのシアに戻ってくれた。
そうこうしているうちに、街道の先に村が見えてきた。
「アルツ、あそこで今日は休むの?」
クロトが馬上から尋ねてくる。
「そう。日が沈む前に着けて良かったよ。
シア。あそこの村が目的地だよ」
「あそこが……」
そう、あそこがシアの伯母 アルトサージュ様が住む村、セレッソ。
この旅の目的地だ。




