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控え室で服を替え、薬保管室へ向かうべく廊下を歩いていると同期のザットとすれ違った。
「アルツ! 夜勤明けかい? ちょうど良かった。今夜看護助手の女の子達と飲み会があるんだ。君が来ると彼女達も喜ぶから、是非おいでよ」
人畜無害に笑うザットを内心呆れながらも表情には出ないよう気を付ける。
「誘ってくれてありがとう。でも今日先約があるから、また今度誘ってくれ」
我ながら素っ気ない断り方だと思うがザットは全く気にしないようで、「それは残念だよ」と本当に残念そうに眉を下げた。
学舎の試験の時に幾らか世話はしたが、十も下の十七歳のガキにタメ口をたたかれようが、偉そうな態度をとられようが全く気にせず話し掛けてくるザットはプライドの高い富裕層出身者が多い医術院では異色だ。まあ、12歳で魔術院から転属して16歳で赤銅の医術師になった孤児院出身のオレの異色さに比べればたいしたことないのかもしれないが。
オレはザットと別れ、そのまま薬保管室へ向かう。薬保管室では、数名の薬術師が別室の調薬室で作った薬を分類ごとの棚に整理したり、医術師から依頼された薬を取り出したりしている。
「あら、アルツ。夜勤明け?」
知り合いの薬術師のリーが、にこやかに声を掛けてきた。
「あぁ、また何時もの栄養補助剤分けてくれないか?」
オレがすまなそうな顔で頼むとリーは「お安い御用よ、ちょっと待ってて」と言い、奥の棚に足を向ける。オレは残っている他の薬術師たちの隙をみて、目当てのものを懐に忍ばせた。
「お待たせ。幾ら忙しいからってこんなものばかりで栄養とってちゃ駄目よ。キチンとご飯を食べなきゃ」
リーは年上然と嗜めるが表情の端々に女の媚を感じる。『私が夕食作りに行きましょうか?』と言われる前にさっさと退散することにした。
「ありがとう。ここの薬が一番効くんだよ。何時も助かってる。請求は何時も通り医務室にまわしておいてくれ」
「こんなのわざわざ請求にまわすのアルツぐらいよ。別にいいのに」
「いや、いくら薬の在庫数を管理してなくて分からないからって、もしばれたらリーに迷惑かかるだろ。たいした金額でもないし」
オレがリーを気遣う言葉に気を良くしたようで、リーは更に媚を滲ませて笑いかけてきた。
「アルツ。貴方薬術師のパートナーはまだいないでしょう? 私先週パートナー解消したから、良かったら私と今度組まない?」
普通、医術師は薬術師がいないと薬を患者に対し処方することが出来ない。そして、薬と調剤管理する薬術師も医術師の指示がないと患者に対し薬を処方することが出来ない。そのため、普通医術師と薬術師は最低二人一組で組んで、パートナーとして治療行為を行う。しかし、患者数もそれに対応する医術師や薬術師の数も多い教都の医療院ではその両者の仕事が完全分業になっており、医療行為において医術師と薬術師が直接パートナーを組む必要はない。パートナーを組む場合は新薬や新しい治療法の研究をするためが多く、そういったことに興味が無いオレにパートナーはいなかった。
「お誘いありがとう。黒銀のリーと組ませて貰えるなんてすごく光栄だけど、オレ今救急室担当だから研究する余裕ないんだよ。薬術師の勉強もしてるし。残念だけどリーの役に立てそうにないから遠慮させてもらうよ」
リーはちょっと面白くなさげな顔をする。
「医術師の誰も彼も白金を目指して研究ばっかりしてるのに、救急をしたがるなんてアルツは変わり者ね。薬術師のメダルだって、教都にいれば特に必要ないものじゃない」
「う~ん、オレは故郷に帰って治療所作るのが目的でここに来たからね。医術師も薬術師もいないような田舎だから白金のメダルより、薬術師のメダルの方が必要だんだよ」
「せっかくそんなに優秀なのに、アルツは本当に欲がないのね」
オレの将来の夢がお気に召さないのか、不機嫌になったリーの手に「ささやかだけどお礼だよ」と女性に人気のある店の砂糖菓子を幾つか渡す。
「それじゃあ、また。忙しいところありがとね」
すこしだけ機嫌を直してくれたリーにお礼を言うとオレは部屋を出て行った。途端扉越しにリーの同僚らしき女性の呆れた声が聞こえる。
「アルツって落ち着いて見えるけど17歳でしょ。よく秋波送る気になるわね」
「え~、あれだけ将来有望だったら若いうちにツバ付けとかなきゃ。でも、教都に残らないんだったら無駄だったかしら」
わかりやすい彼女の言葉に苦笑しつつオレは部屋を離れた。




