もう少し泳がせたかったが
参ったものだ。
ここから動くわけにはいかないが、両男爵家がここを攻めれば――違うな。それは確定だ。
『この“魔略”がいるのだよ』……その言葉の時点でもうその事実は決まっている。
たとえ未来が分かっていても、それに従ってやる義理が何処にある。
むしろ分かっているだけに、それを生かすべきだろうな。
「“神知”、“魔略”、俺はこれから両男爵家の関係者を始末してくる。可能な限り、成功率の高い可能性を教えてくれ」
「ほほう、クヒヒ、何処までやるつもりかねえ? 党首までやるのかね」
「いや、この城塞都市に居る者だけであろう。サージェス伯はここから動きはせぬわ」
……隠し事が出来ないってのは、ある意味俺の本業からすれば天敵だな。
「その通りだ。レベル屋がある以上、ここを長期間離れるわけにはいかない。だが両男爵家の要人全員を暗殺しようとしたら、さすがに1ヵ月は空けなきゃならん」
「クッヒッヒ。どんな一流の暗殺者に依頼しても、男爵家の1人を仕留めるのに1ヵ月。それも成功率は5%といった所であろう。それを、全員で1ヵ月。しかも――」
「失敗する気など微塵も感じておらぬな。それどころか、たった今、全ての計画が頭に入った。分からぬ点の対策まで含めてのう。なるほど……どう思う?」
「確実にやりきるであろうな……ヒヒッ、しかし、“アレ”が居なければの話しではあるねえ」
“神知”と“魔略”、絶対にセットにしちゃいけない奴らだな。
“神知”は噂話からだけでも全ての真実を知る。そのユニークスキルより低いスキル持ち程度であれば、それこそ何一つ隠せない。
“魔略”は“魔略”で、その内容など何も知らないのに、今この場にある情報の全て――それこそ、人の頭にある物まで含めて最良の結果を導き出せる。
“神知”が知った時点で、それを前提にした作戦が何故か自然と立てられるという訳だ。
組み合わせが最悪すぎて、普通なら恐ろしくて絶対に離すだろう。
もっとも、だからこそのセットなのだろうが、それを許す国王から絶対の信頼を得ているという事か。
案外、抵抗自体が無駄と見ているか、もしくは2人がどんな作戦を立てても一蹴できる配下がいるって事なのかもな。
「それでどうするのじゃ?」
「方針は変わらない、当面はだがな。1日で終わらせるから、その後はまた話を聞く事になるな」
「確かに、未来を完全に見通せるわけではないからねえ。クヒッヒ。お主が状況を変えれば、先もまた変わろうて」
「じゃあ行ってくるわ。明日には“アレ”が何なのかを聞かせて貰おう」
「もう知っておるじゃろうに」
「ただの予想だ。じゃあ、またな」
この城塞都市にいる人間は、現在4万2千人と少し。一応、全員の顔は覚えている。
村だった頃は146人だった事を考えれば、短時間でよくもまあこれほど集まったものだと思う。
もっとも、都市の規模から考えれば10万人は受け入れる用意を考えていそうだけどな。
今も魔女達の導入で拡張は飛躍的に進んでおり、人口の拡張もまた止まらない。
当然、それが全員善意の第3者などではない。
むしろまともな人間など1割程度しかいない。
それとは別に、各地から送られてきた駐留軍が2千人。
輜重隊を兼ねた輸送兵力8百人。
数的には少ないが、ヘイベス王子の直属かつ精鋭部隊だ。
後は殆どがはぐれ者となる。
脛に傷を持つ者。指名手配者。多大な借金から逃げて来た者。まあ碌なのがいないな。
人の事は言えないけどね。俺もこの地位を失えば、直ちに死刑囚だわ。
さてそんな中には、周辺国からの間者が混ざっている。
殆どが情報を雇い主に送るくらいだが、いざという時に内部から破壊工作を行う者もいる。
当然ながら、両男爵家の人間の間者は多いわけだが、本来ならここを守護するはずのフォルゲンティス伯爵家の工作員が入り込んでいるのはなんともだ。
当然とも思うがね、今は放置しても良いだろう。
「さて、44人か」
男爵家関連はそんなものだ。
いよいよとなれば200人は送って来るだろうが……今は夕食の時間までには終わるだろう。
◆ ◆ ◆
娼婦、傭兵、日雇い、事務員……やっている事も外で木を切っていたり、同僚と食事をしていたり、真昼間から客を取っていたりと様々。
スパイ同士で情報のやり取りをしていたのもいたな。
素性も同業や軍人上り、ただの小銭で動く素人までまちまち。
中には本当の家族と一緒に移住してきたのもいる。
日常に紛れた普通の人間。見た目にはそうだろう。
でもまあ、こういうのは素性がばれた時点で終わっているんだよ。
夕日になる前には、仕事は全部終わっていた。
幸い見られるようなドジも無し。
44人の不審死は少しの騒ぎにはなるが、毎日それ以上の数が流入し、事故もろもろで100人以上の死者が出る事はある。
まあ主な原因はレベル屋でドジった奴だから、こちらも俺とは無縁とは言い難いが。
教育不足は反省しておこう。
とにかくそんな状況だから、明日にはこんな話は小さな噂となり、7日も経てば完全に消える。
しかしまあ、そんな事はどうでも良いな。
「87日……」
これは両男爵家が攻めてくるまでの時間じゃない。
裏切り者を撃退し、関係者を拘束し、本国の裁定を待つ時間だ。実際にははるかに少ない。
ちょっとやそっとの事では、この猶予は覆らないだろうな。
だが何か、対処法も知っている。絶対に無茶、無理、無謀な話だろうが……ちっ、断る手段は無しか。
まあいいわ、貴族様としての仕事もあるし、さっさと帰るとしよう。
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