やっぱり2つの男爵家か
テーマス男爵領。
城塞都市ルーベスノアから東に位置する広大な領地。
通常、男爵家は侯爵や伯爵など、上位貴族の配下として1つの町を任されるのが通例だ。
男爵自体は、元自治領の領主か、戦功を立てて占領地を与えられた騎士が叙勲されてなるのが通例になるな。
後者は元々から誰かの部下という事で、そのまま上の貴族の配下になるわけだ。
おっと、降伏した敵対国の貴族ってパターンもあったな。
これはまあいいや。
さて、テーマス男爵家は元々王家直属の騎士だった。
北にあった異界の穴を塞いで以降、この国は領地の拡張に乗り出した。
危険な海で断絶しているといはいえ、東西ともに大陸があり大国もある。
なら、ここだっていつまでも統一されていない蛮族の地ではいけない――そう考えたのかどうかは知らんが、名分としてはそんな感じだったな。
その後は今までと変わらない。
レベル屋の力でこの国は急速に拡大した。
この大陸は、少し縦長の芋のような形だが、東西は大陸との交易で豊かだった事もあり、強固な小国家が幾つもあった。
一方で、中央は小競り合いが続き、南方はポツポツと自治領がある程度のド田舎というか無法地帯。
まだまだ魔物がいたからな。あまりにも強いのは歴史の中で駆除はされたが、どうしても湧き続ける連中とのいたちごっこは疲弊する。
良い事といえば、数に限界があるから人的被害を無視すれば被害は最小ですむってくらいか。
それでも順調に駆逐していったが、進めたのは大陸の半分くらいまで。
その先には巨大山脈と巨大国家があった。
今はロストベン魔国と呼ばれているが、あの国が無ければもっと早く南方は魔物の地になっていただろうさ。
ああ、今はウチがそこと隣接しているわけだがな。
さてそれはともかく、テーマス男爵家は王家の直轄で、何処かの上級貴族に仕えているわけではない。
元々、武勇で騎士になった武闘派の血統だ。
僅かの間に南方にある辺境を切り開き、小さな自治領や村を糾合し、町を作り、魔物を駆逐し、更に幾つもの町を建造。その功績により、そのまま広大な土地の所有を許されている。
その腕っぷしだけで、無から巨大な有を作り出したわけだよ。
信賞必罰は世の常だ。切り開き発展させた土地を奪うような事をこの王家はしない。
もう少し土地柄が良ければ、上級貴族になってもおかしくはないね。
しかしまあ、広大と言っても所詮は辺境のド田舎。
しかもこの村……じゃねえな。この城塞都市と同じく魔国に隣接する危険な地域。
それに土地だけは広くても、その生産力で得られる税金は、中央の1都市に比べればはるかに劣る。
結局は痩せた広大な領地を、中央の1都市以下の税収で賄わなければいけないって訳だ。
しかもこの危険な土地をね。
ただ幸いな事に王家は愚かでは無い。
それなりに援助はしている――が、戦争も続いている。
どうしても援助には限界がある。
しかも王家がまともでもその下はどうかな?
特に中央の男爵家が問題だ。
そこも戦争に駆り出されているわけだから遊んでいるとは言えないが、地方の現状など知りはしない。
ただ同じ身分なのに、大貴族並の領地を有するテーマス男爵家への援助には反対意見も多いと聞く。
まったく、馬鹿だねえ。
そんなテーマス男爵家と深く結びつくのがアーヴィ男爵家。
姫様付き侍女で、今まで色々と関わって来たフェンケ・オーフェルス・リングロット・アーヴィは、この家の4女。
母親はテーマス男爵家の人間である。
アーヴィ男爵領はテーマス男爵領と隣接しており、こちらもまた複数の町を持つ。
そして当然の様に、やはりド田舎らしい貧しさが特徴だな。
元々この2つの騎士家は知り合いというか、同じ命令を受けて、同じ事をした。
立場としては、相当似通っているわけだ。
同様の命令を受けた騎士や王室直属の男爵軍もこの作戦には参加していたが、全滅や配置換えで、最後に残ったのがこの2家という訳だ。
そんな両家の結びつきは強く、双方の領主は互いの家から伴侶をめとる事が多い。フェンケの母親もそうだ。
お互いに融通しなければ存続できない。
しかもロストベン王国が陥落しロストベン魔国となって以来、流れて来る魔物への対策が増えた。
まあ、今はこっちが担当をしているがね。それでも魔国はこちらより遥かに広い。
此処だけでは防ぎきれないのが現状だ。
色々と厳しい立場であるが、国家が戦争を続けながらも余力がある時はテーマス男爵家もアーヴィ男爵家も粛々と従って来た……と、ここに来るまでは俺も思っていた。
だがまだ村であった頃のここに来た時、治めていたオハム・コーロン・ゼンリッヒ・テーマスと一緒にいた女――いや、性別などどうでも良いか。そもそも性別なんてあるのかどうかも分からない。
あれは魔物だ。
人型の魔物か、それとも亜人のようなタイプ……本来の王都で見た連中のような存在など色々と考えることはできるが、そんな事は知らん。
だが、間違いなく人類からすれば危険な存在だ。
世間に知られたら人類の裏切り者として内乱が勃発しかねない。
なぜあんな危険物を連れていたのかは謎だが、さすがに先手を取るか。
となれば、当然周囲は既に共謀している。
アーヴィ男爵家も確実だな。
「考え頃をしておる所、悪いが、アレは人型の魔物じゃ。よかったのう、あの場で仕掛けていたらさてどうなっていたか」
“神知”がいるんだった。
ならもう全部知っている訳か。
「折角だから、そっちが持っている情報をもう少し共有してくれないか?」
「共有も何も、今お主が考えた通りだのう。よくもまあ、それだけ調べてあるものじゃて」
「テーマス男爵家の名前が出た時点で察しは付くだろう」
元々の領主であり、魔国との最前線を仕切っていた軍事の専門家。
それがテーマス男爵家の4男だった。中央まで武名は流れてこなかったが、その軍事手腕は話半分と考えても相当だ。
あの気弱そうな様子からは想像もできないが、戦略、戦術、個人戦、その全てに秀でている逸材だよ、アレは。
それだけに、こんな最前線にいたのだろうが……。
だがヘイベス王子が来た時点で、挨拶すらせずさっさと領内に帰ったという。
そしてそれ以降、テーマス男爵家の人間がこちらに来た事はない。
フェンケがいるというのに、アーヴィ男爵家の人間もね。
理由は分かる。“神知”がいたからだ。
出会っただけで――いや、噂話からだけでも、見てきたように真実だけを抽出する。
推理とか予想など、こいつからすれば児戯でしかない。
「テーマス男爵家は、元々背後から王軍を急襲する予定だった。違うか?」
「そこまで理解しておるのは上々じゃの。正式な学はない。だがその知恵は泉のようじゃ」
「クヒッヒ、本当に面白い男だて」
「こちらが話す事には本当に意味が無いな。もう良いから現状を教えてくれ」
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