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平和のために

 マーカシア・ラインブルゼン王国は、元々大きな国ではなかった。

 そもそもは、他に幾多もある自治区の一つだ。


 それは決して珍しくはない。

 町ごとに独立し、独自の風習、独自の宗教を持つ。

 国家として、複数の町を併合し1つの集合社会を築いている所は意外と少ない。

 マーカシア・ラインブルゼン王国の領内にも、未だ自治領を維持している町は少なくない。


 そう言った意味では中世よりも遥かに古代の社会形態だが、技術自体が進まなかったわけではない。

 この(いびつ)さを生んだのは、言うまでもなく魔物の存在だ。

 人類に、集合する余裕を与えなかった……と言うべきだろうか。


 しかし、それでも魔物がおとなしい時は人間同士で争いもする。

 ただ防衛が有利なのはどんな世界でも同じ。

 しかも生き残っている自治体は、当然ながら魔物への対策をしているのだ。同等数の人間が攻めた所で陥ちはしない。


 ただそれは絶対ではない。戦いとは、力だけで決着がつくわけでも無いのもまた世の常というもの。

 土地の広さは、そのまま力となる。

 数を甘く見てはいけない。

 どれほど人がか弱き存在だとしても、集まれば集まる程にそれまでになかった力を発揮する。


 戦争、和平、謀略……様々な手段で巨大化した自治領は、やがて国家して台頭を現わしていく。

 その持てる資金、食料、兵力、影響力。それらはもはや自治領とは桁違いの力だ。


 この国の場合、その礎を築いたのが二代目国“不敗王”インゼナッセ・バーリント・クラックシェイムであった。

 周辺の自治領を吸収し、正式に国家と呼ばれるほどの版図を作り上げたのだ。

 だが当然、そうなれば周囲が黙ってはいない。

 近隣の自治領や国家となっていた勢力は、こぞってマーカシア・ラインブルゼン王国を攻め立てた。

 ……しかし、それらが全て返り討ちにあったのは歴史の記すところであり、それ故にかの王は“不敗王”であったのだと言える。


 だがその時点では、この国はまだ複数の町を傘下に置いた小国家の一つであった。

 確かに負けはしなかったが、周囲が全て敵ではどうしようもない。

 しかも最大の問題として、北には異界の穴が存在していた。

 ある意味、周囲の自治領や小国家が攻めきれなかったのも、占領後の政策に一貫性を持てなかった点がある。

 今この国が、南にある、魔国に対して打つ手が無いのと似たようなものだ。


 だがここに、世界を変える存在が現れる――そう、レベル屋だ。

 概念自体は昔からあったが、この国はそれを実用レベルにまで昇華させた。

 もっとも、それは無理に無理を重ねてようやくレベル50という、今とは比較にもならないものでしかない。


 しかしレベル50は、一人で悠々とドラゴンを倒せるレベル。

 もう人類を越えたといっても良い。

 そこまで達するには、一体どれだけの勇者が無謀な挑戦の末に命を落としたのか。

 そもそも、そこまでに達する相手を探し求め、戦い続けるのにどれ程の歳月がかかるのか。

 もはや寿命との戦いだ。

 そんな問題を、レベル屋は解消した。


 今から23年前……当時12人。

 これはレベル50に達した人数だ。

 当時は技術も低く、時間もかかり、試行錯誤で命を落とす者も多かった。

 だが、人の常識を超えたものが12人も揃ったのだ。


 マーカシア・ラインブルゼン王国第3代国王にして現国王、”英雄賢王”イグリナス・ストマルト・クラックシェイムは、この力を隣国との戦いではなく、北に在る異界の穴への

 挑戦につぎ込んだ。

 何をするにしても、結局はこれがある限り動けないのは一番の当事者であるこの国だったのだから。


 そこで、彼は最高のレベルを持つ勇士11人と共に、北に在る魔界の穴を封じるための旅に出た。

 父である2代目国王が健在であり、長男が生まれた事が転機であった。

 おそらく、遥か未来を考えていたのであろう。

 ユニークスキルが無くとも、知恵と経験で未来を見据える。”英雄賢王”の名にふさわしい決断であった。


 だがそれは、無謀とも呼べる挑戦でもある。

 異界とは、たとえ神に愛されたレベル100の英雄でさえも――そして僅かの油断すらしなくても、一瞬で気付かぬうちに命を落とす。

 そんな世界であったのだから。


 そして、そんな世界に奴はいた。

 人の姿をした死の具現化。そうとしか言えない存在。

 それはまるで人間になど興味が無いかという様に、一言も発せず、まるで虫でも潰すように5人を葬った。

 そこで我々の意思は果たされないと思ったのだろうか? それとも、もとより興味も無かったのか?

 理由など今更分かりはしない。聞くつもりもない。

 ただ、奴はかき消すように姿を消した。


 普通であれば膝を屈し、自分たちの無謀さを反省して国に帰ったであろう。

 だが進んだ。そして、その愚かな挑戦は果たされた。

 結果として、北に在った魔界の穴は消滅したのだ。

 この戦いに赴いた13人の内、10人の命と引き換えにして。

 その時の生き残りが、現在の国王であるイグリナス・ストマルト・クラックシェイム。

 そして王室特務隊ナンバーワン“鐘の主”。

 そして最後が、今現在最前線で戦っている、この国最高の大将軍、モーネット・シル・シネス。

 王国の(かなめ)と呼ばれる3人である。


 しかし、その穴の向こうには小国、そして自治領があった。

 魔物との戦いの終結は、結局は人との開戦である。

 それでも、永遠に続く魔物との戦いより遥かに良い。

 もちろん同族と戦う事には抵抗がある。

 それでもいつか、人ならば分かり合う事が出来るのだから。


「“虚構”、ただ今到着いたしました」


「――では行こうか。たとえ可能性は低くとも、必ずや人型の魔物は倒す」


 そうだ。たとえ魔物との戦いに終わりがなくとも、人との戦いにはいずれ決着がつく。

 自分が生きている間に果たせなかったとしても、いつかはこの世界から魔物は駆逐され、人もまた、愚かな戦いに終止符を打つ日が来るであろう。

 その為にも、今、必ず滅ぼさねばならない相手がいる。


「失敗は――許されぬのだ」


「全員が、その事は理解しております」


 その言葉と共に、2人は音もなく消えた。

 残ったのは光る砂が舞い散る美しい大地だけであった。




これにて第3部のプロローグが完了

次回より本編!


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