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これだから魔女ってやつは

 一方、そのクラム・サージェス・ルーベスノアは、外に出たとたんに呆然としていた。


「なんてことしてやがる」


 かつてのルーベスノアの村は、辺境のとても貧しく、その名を知るものなど殆どいなかった。

 一番近くの町の人間でも知らない人間がいるほどだ。ただ魔国を見張る砦がある――その程度の認識でしかない。

 だからこそここを選んだわけだが、いつの間にやら町となった。レベル屋を作るためにな。


 近くに高レベルの人間が増えれば、当然魔国が動く危険がある。

 そう考えれば細心の注意を払う必要があるが、レベル屋が出来ても拡張は止まらない。

 考えるまでも無いよな。王都が陥落したからだ。

 そのままなし崩し的に仮の王都にされ、更なる拡張が続いていたわけだが……。


 町の外周は今日出かけた時から一回り巨大化し、しかも城壁自体も異常なほどに高くなっていた。

 外壁の各所には塔や張り出しが設けられ、等間隔で無数にこの国の旗と一緒に俺の旗が並んでいる。

 レベル屋も、家を出ただけでわずかに見えるほどまで巨大化している。

 あれが今朝働いていた場所とか信じられん。

 間違いなくやらかしたのは”魔略”だわ。疑う余地もない。

 しかし幾らあいつでも早すぎないか?


「これはルーベスノア伯様」


「お帰りなさいませ」


「ああ、ご苦労」


 今朝と変わらずレベル屋の門番はしっかりと立っている。

 是非、完全に形が変わったこれをどう思っているのか聞いてみたいものだ。

 もっとも、他人の感想など聞いたところで意味は無いが。


 普通の塔の形状だったレベル屋は3倍ほどの敷地となり、周辺にあった建物はそのままの形を維持したまま離れている。まるで地面が伸びた様だ。

 そしてそのレベル屋はというと、2重の壁と堀に囲まれ、高さも倍以上。

 外周には見張り搭が4本建設されているが、外は勿論だが中に対しても警戒する形状だな。

 というか、どちらかといえば内側――つまりはレベル屋に対抗するためか。

 当然だな。ある意味、これからどんどん危険になっていく場所だよ。


 中に入ると、待ち構えていたかのように”魔略”が待っていた。


「早かったではないか……クヒヒ」


「あまり待たせなかったようで安心したよ。それで、準備は出来ているって訳か」


「お主が失敗するとは考えておらぬでな……フヒッ! 例の芋虫は、以前と同じで良いのであろう?」


「焼却炉も必要だがね」


「当然であろう。お主が追放された原因であるからな……ヒヒヒヒ。それで、管理は誰がするのだ?」


「聞くまでもないだろ、俺がするさ。他に誰がいるよ。行ってこいと言われた時から自由が無くなったわと思ったさ。まあ、理解して行った訳だから仕方ねえ。ただ、ババアには貸し1つだ。だが、これでもうここから動けねえぞ。さすがに他の奴に扱わせるわけにはいかないからな」


「ここまでやって貸し1つとは、とてつもなく無欲なものよ。クヒヒヒヒ。その無欲さにに免じて、良いものを用意しておいたぞ。ヒヒ」


 もう嫌な予想しか出来ないわ。帰っていいか?


「考えなど手に取るように解る。フヒヒ、だが最初からそうだったであろうが。ここはルーベスノア伯爵領であり、レベル屋を管理するのは領主ではないか。なにも変わらぬよ。あれ以外はな」


 そう言って振り向きもせずに指さした物。それはレベル屋の待合室だが、拡張だけでなく見慣れないものが追加されている。それは俺の旗に囲まれて飾られた、俺自身の銅像であった。

 絶対に着ない様な重厚な鎧と立派な剣。ご丁寧にマントまで付けているな。


「後でぶっ壊しておくわ」


「それは禁止だな。フヒヒヒヒ。魔女の禁止、意味が分からぬとは言わせぬぞ」


 (ことわり)の変化。さて、壊そうとして無駄程度なら試せるが、壊そうとしたら死ぬか時空のはざまに飛ばされるのは勘弁んだな。

 さすがにそこまで危険なトラップを――仕掛けるのが魔女って生き物だったな。畜生め。


「まあいい。まだ少し時間があるとはいえ、こんなものをいつまでも持ち歩くわけにはいかん。こいつの発する毒素だけで、体の弱い人間は死にかねんからな」


「まだ卵ではあるが、フヒヒ、確かに相当なものだ。確かそれを持ち帰ったものは全員死んだのだったな」


「命懸けのリレーだったそうだが詳しくは知らん。だが、これがある事は知っていたな? 最初から教えてくれると楽だったんだがね」


「知っているのは“神知”よ。それに、下手に(それ)があるといえば、むしろそれだけに集中してしまったであろうが」


「まあ、確かに視野は狭くなっていたろうな。下手をすれば拘り過ぎて戻れなかったかもしれん」


「ヒッヒッヒ、言わぬほうが次善の策を考えられたであろう。別に幼虫でも良かったのだからな」


「ここまで持ってくるだけで100人は死ぬがね」


「その程度、気にする事はあるまい」


「シビアなものだ」


「ここでプリズムポイズンワームのレベル屋が出来なければ、1年で5万人以上が無為に死ぬ。兵士だけではない。蹂躙された町や村に住む無辜(むこ)の民までもな。それに……これには魔国の動向は入れておらぬ。意味は分かろう?」


「見え過ぎるのも厄介って訳か。まあいい、とっととこいつを置いてくるわ。ヘイベス王子にもよろしくな」


「クヒヒ、分かっておるよ」


 “魔略”と別れた後、中に入るがやはりたいしたものだ。

 こちらの考えを見透かしたようにちゃんと作られている。

 おそらく、前に作った時にプリズムポイズンワームの飼育や処分構造も頭から抜かれていたのだろう。

 やれやれ、敵対はしたくないものだな。




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