色々と心臓に悪い
しかしまあ、これで障害は排除。
まさか親方に会うとは思わなかったよ。化け物だし、会いたくもなかったがな。
しかもかなり余計な時間を使ってしまったし、音に敏感な魔物が来る可能性も高い。
さっさと本来の目的に戻りますか。
戻ってみると、さすが芋虫。我関せずで全く警戒すらしていなかった。
それはありがたいが、さてはて、果たしてあるかどうかだな。
見やすいように、音もなく天井の壁に移動する。
元々石壁を魔法で補強しただけだ。普通の人間には無理でも、俺なら石と石の隙間に爪をかけて張り付く事くらいは出来る。
後は連中の視界に入らない事が大切だが、これが難しい。ほぼ360度の視野を持つからね。障害物の無い天井への移動は本来ならタブーだ。
ただ俺には気配を消すスキルがあるし、こいつらに通用する事は飼育していたから知っている。
連中は俺を見えているが、ただ見えているだけ。雲に攻撃を仕掛ける馬鹿はいない。それと同じだね。
とはいってもユニークスキルじゃないからな。一度切れたら再び消えるとはいかない。
ましてや戦闘になったらそりゃあダメだ。
さっきの親方と違って、人間を感知したら周囲の奴まで集まってきちまう。
だが――俺には幸運があるらしい。
もっとも、こんな魔物に占領された都市の廃墟の天井に張り付いている事自体が幸運ではないが。
ただ眼前にあるのは確かに卵。
成虫――といっても芋虫だが、それと同じくプリズムに輝く細長く小さな形。元々持ち込まれたのがあれだ。
次善の策は小さな幼虫であったが、撒き散らす毒は小さくてもしっかりある。
その毒は姫様でも耐えられるかというものだ。さすがにリスクが高すぎる。
そんな訳で色々と悩んでいた訳だが、これは僥倖だ。余計な事を考えなくて済む。
ストンと芋虫の横に着地する。
気配は遮断したまま。内心ひやひやするが、決してそれを出してはいけない。
奴にとっては、“ただ音がしただけ”。そう思わせなければいけないのだよ。ここまで来て見つかってたまるか。
幸いな事に、プリズムポイズンワームはゴミが落ちてきた程度にしか思わなかった様だ。
全く気にせずのそのそと動いている。助かるわ。
後は卵を回収する。やはり気付いていない。
これが普通の動物であれば本能で気が付いたかもしれない。
だがこいつは魔物。この卵もこいつらのどれかが生んだわけでも無ければ守っているわけではない。
ただ卵という形でポップしただけの話だ。本当に幸運だよ。
こいつにとっては不運かもしれないがな。
懐に入れてさっさと建物を出る。出口は当然入った場所。同時に初めてここから出た場所だ。
感情というものがあれば、きっと何か感じるものとか運命的なものとかあったのかもしれないが、俺からすれば唯一慣れているからというだけの話。
当然まだまだ魔物がウロウロしているが、ここは気配を消したまま突っ切る。時間も無いしね。
目的は果たしたんだ。今はさっさと姫様と合流しないとな。
◆ ◆ ◆
そんな訳で約束にあった予備のゲートに来たのだが……なんだこりゃあ。
来た時と違い、半円形の石柱の周囲に4本の柱。
形は違うし魔力とかはさっぱりがだが、これがゲートであることは分かる……分かるのではあるが、状況は予想外だ。
ゲートは完全に壊れている。そこにあるのは幾つもの穴。柱も、床も、壁も、本当に穴だらけだ。
「こりゃあ俺も死刑かね」
しかし血痕は殆ど無い。死体も無い。
考える事は幾つもあるが……。
「まあご安心をって所ですよ。セネニア姫様とメイド嬢は破壊される前に帰還しましたので」
――本当に心臓に悪い。
「気配を消したまま話しかけるのは止めてもらえるか? 本気で戦闘態勢に切り替わってしまうのだが」
「そいつは失礼。ただ場所が場所ですのでね」
声のした方を見ると、そこに居たのはやっぱりというか、雨の日に防寒具やその他の荷物を届けに来た奴だった。
王室特務隊の一人という事は、その特徴的な姿から分かる。
ただ気配が全くない。
俺も気配を消すことはできるが、こいつに比べたら子供のお遊びだろうよ。
今はこちらに意識を向けて語り掛けているからかろうじて認識できる。
だが、もし黙って少しでも動いたら、その瞬間に俺はこいつを見失ってしまうだろう。目の前にいるのにだ。
これがユニークスキルの力だな。
「王室特務隊は何人くらい来ているんだ?」
「それはさすがに秘密ですね。ただまあ、多くは無いですよ。何せここに入り込めるのは、我々でも多く無いのですよ」
「“不浄の繭”には会ったぞ」
「彼は大変ですねえ。もう20回くらい死んでいるんじゃないですか? とは言っても、それでも侵入できるのはたいしたものなのですよ」
そりゃそうだ。こんな所見殺しの特殊な魔物だらけの巣窟に普通の奴は入れないわ。
ロータスツリーも健在だしな。
それにここまでの様子を見ると、姫様や俺の援護というより王都の偵察が主な任務なのだろう。
「それで、ここをこんなにしたのは誰だ?」
「人型の魔物ですよ。さすがに相手をするには無理がありましたので、姫様たちには先に帰って貰いました。これでも命懸けでしたのですよ」
「こちらに来ていたのか……いや、それ以前に何体いるんだ」
「1体ですよ。この王都には、ですけどね」
……さて、こいつの話をどこまで信じて良いのやら。
少し試してみるか。
「姫様達と一緒に1体は倒したんだがな」
「ああ、あれはたまたま逃げ遅れた貴族に、他の魔物が寄生しただけですよ。あんなものは人型の魔物とは言いません」
そこまで知っているなら少しは手伝えよと言いたい。
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