あばよ
元々酷かったが、ここはもう完全に廃墟だ。
しかもあの轟音。魔物が来てもおかしくはない。
向こうもやる気の様だしな。そろそろ決着を付けないとだな。
「うおおおおおお!」
うなり声と共に地面すれすれを振り抜く。
その衝撃派だけで地は割れ、飛び散った機械の分が飛んで切る。
あーやだやだ。当たったら死ぬよ、マジで。何であの状態なのにそこまで動けるんだよ。
だけどさすがにもう範囲も速度も全部わかったよ。
威力といい速さといい、以前の親方よりも段違いだった。
けれどあそこまで分かりやすい上に、今は巻き込まれて飛んで切る床や機械の破片が大体の範囲を教えてくれる。
もう当たる事は無い。
攻撃の合間に、全速で距離を詰める。
当然反応して右手で攻撃してくるが、この幅なら断ち斬れる。
ただねえ――元々相手はレベル206。本来なら、この武器を使った所で俺のレベルじゃ皮一枚切れるかどうかだ。
まあ出し惜しみはしないがね。
人間の限界を超えたスキルで全身が焼けるように熱くなる。
さすがに1日2回も使うと自壊しかねないが、泣き言なんぞ意味がない。
鎧が無くなった今しか、まともに攻撃は通じないからな。
多少の抵抗を感じたが、右手首を斬り落とす。
しかし動きは鈍らない、そのまま左手で殴りかかって来るが、ダッキングでかわして左の手首も斬り捨てる。
痛みは感じていないようだが、動きは厄介だ。そのまま右の足首も斬り離す。
「オヤカタ―!」
それはお前の名前だよ。正確には違うけど。
手首の無い右腕で地面を叩くが、そこからぐしゃりと手が潰れる。
やっぱり拳は大切だね。あれではただの自壊だ。
足も左右でバランスが取れなくなったせいか、今までの暴風のような動きはなくなった。
――さてと。
当たれば十分な威力だろうが、もうこれは戦いにはならない。
額に突き刺し、喉を掻っ切り、体も腕も足も、突き、斬り、また攻撃をかわす。
しかしタフだ。こっちの限界前に終わってくれよ。
「オヤカタ! オヤカタ―!」
おそらく、これが哀れという感情だろうか?
こちらも命懸けだが、ふとそんな事を考えてしまう。
もう忘れてしまったが、昔は確かに俺にも感情があった。
その記憶が、今の不快感の原因なのだろうか?
「そろそろ終わりにしよう。もう疲れただろう」
「つ、疲れた? オヤカタ? 疲れた?」
「そうだよ、親方。もう良いんだ」
実際の所、恩も無ければ恨みも無い。
全てがどうでも良かったし、親方への感想も、まあただの馬鹿だなと思っていた程度だ。
自分が死ぬまでのさほど長くない間、俺の主人である予定であった人間。
しかしその短慮な欲望によって、俺を手放した。
ただそれだの存在でしかない……のだけどな、なんかこんな姿で動いているのがもやもやする。
さっさと終わらせよう。
もう大体の構造は分かっている。ここから先は、作業でしかない。
斬って、突いて、また斬る。
もう俺に当てるだけの動きは無い。仮に当たっても即死はないだろう。
それほどまでに、中の骨はズタズタに切り裂いた。
もう動くだけで、勝手に体の中はグズグズに崩れていく。
強すぎるのも考え物だな。
「なあ、何か覚えている事は無いか?」
「……47番! そうだ! 殺す! オヤカタ! コロス!」
「そうか……」
後頭部。弱点になっている種のような物を一突きにする。ようやく見えたんでね。
途端に体はバランスを失い、不自然に倒れ込んだ。
それでもまだじたばたしているのはさすがだけどね。
外に出た時から感じてはいた。これは毒の一種だ。
出元はロータスツリーで間違いないだろうが、それはどうでも良いか。
問題なのは、あの木を何とかしないと、この王都に人間は入れないって事だろうな。
侯爵の横にいた奴も、第2王子のクランツも、外見は違っていたが中身は皆同じ。
変化にも個性が出るのだろうが、趣味が悪いぜ。
まだ足元でじたばたしているが、なかなか死ねないのも大変だな。
まあ、もう苦しみとか、そういった感情も無いだろうが。
とはいってもな……。
もう危険はない。背中に乗って、もう一度――今度こそ完全に種を切り離して踏み潰す。
首、手、足。まだ動いているが、本当にただ動いているだけだ。
火をつけて灰にしてやるのが良いのだろうが、これ以上ここでもたもたとはしていられない。
ただこのまま死ぬかなあ……まあその心配はないんだろうが、なにせ親方だからな。
しぶとく再生されるとめんどいんだよね。
「おーい、そこの死にかけ。こいつこのまま死ぬと思うか?」
「……地獄に……おちろ」
「いやそんなのは良いから。お前もそれなりに魔物の知識はもっているだろう?」
「……そうだ……な。こういう……奴だった。そいつは……最初から……死んでいる。分かって……いるん……だろ」
まあそうだがね。親方自体は、もう完全に死体だよ。
ただついさっきまで生きてもいた。その点では、”不浄の繭”の見解は間違いだな。
王室特務隊の“千里眼”ビスタ―がそう言っていたんだ。あの状態では、完全な死を迎えてはいなかったのだろう。
人としては完全に死んでいたけどな。
記憶の一部は残っていた様だが、意味もなく断片的に叫んでいるだけだったか……いや、このレベルだ。僅かだが意志は残っていたかもしれない。
だとしても、俺を攻撃する事に躊躇いはないよなあ……。
だがまあ、今回はこれで良いさ。
全身が痛い。無理をし過ぎて、内部から肉体が損傷したことも分かる。俺も限界だ。
他にも親方みたいのがいるかもしれないが、まあ良いさ。どうせ知らない人間だ。
いずれ王都が誰かの手で取り戻された時、ロータスツリーの死と共に解放されるだろうさ。
「それで、お前はまた戻って来るのか?」
「仕事……だか……ら……な……あば……よ」
……死んだか。
いやまあ、正確には違うね。本当の意味でのこいつの殺し方は俺も知らん。
しかしこいつがババアの言っていた援軍だとすれば、大した皮肉だぜ。
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