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今更驚きはしないさ

 ただただ狂ったように両手をぶんぶんと振り回しているだけなのだが、その衝撃派だけで周囲の床や壁が破壊されていく。


「それで、どうするんですかねえ、アレ」


「どうもこうも、お前の知り合いだろう。何とかしろ」


「出来ると思います?」


「さあな。俺の知った事ではない。やるのがお前の仕事だし、やりたいから残っているのだろうが」


 何というか、出会った時から思ったが最低だなコイツ。

 しっかり俺の考えを理解している所が特にな。

 一応は近づいた時に、人体の急所は突きまくったが、まあ当然意味は無し。

 人型の魔物と勘違いした時の奴がいる部分は正面からなら届くが、こいつのガタイと俺の短剣では届かない。

 まあ、こちらもやる意味はないだろうけどな。入っているならとっくに何かしている。

 一番の狙いは種みたいなのが入っていた頭なのだが、そこの銅板の様な鎧が特に硬くて傷付かねえ。


 うっ――、


 何やら周囲の空気が変わると同時に、危機回避が発動した。

 おそらくは魔法だが、派手な変化はない。つか、一番派手なのがあの大暴れだからな。


「よく躱したな。空間を圧縮する魔法だ。あそこに居たら、お前は自分の目玉よりも小さく潰れていたぞ。ああ、そういえば単発の攻撃は当たらなかったのだったな」


「確実とは言えませんがねえ」


「お前のことはもう十分に知っている。普通に話したらどうだ?」


 どこまで調べられたのやら。

 ただそんな事を言いながらもあの暴力の化身のような攻撃を器用にポールアックスでいなしている。やはり相当な使い手だな。

 しかし攻撃までは無理か。

 元々防御一辺倒の戦い方だ。要は、こっちで何とかしろって事なのだろうがね。


 確かに派手に戦っている向こうと違って、こちらは出来る限り背後を取っての隠密行動。

 引き付けてはくれているわけだ。

 実際、こっちも何ヶ所も刺したり斬ったりはしているんだがね。しかし致命打にならない。

 それどころか、そろそろ短剣に刃こぼれを感じる。

 まだ小さいものだが、これ以上続けると壊れるかもしれん。

 そろそろ決めないとな。


 最初は親方だったら俺を狙ってくると警戒していたが、どうもそんな事はないな。

 意外でもあるが、元々俺など、使い捨ての奴隷の一人。

 最後に逃げられたのも、最初からどうでも良かったのだろう。

 むしろ逃げてくれた方が、拷問されて余計な事をしゃべるより良かったのかもしれん。

 そう考えれば、恨みなど無いのだろうな。ただの飛んでいった虫程度の感覚でしかないのかもしれん。

 これからする事を考えれば、あながち間違っていないけどな。


 ”不浄の繭”が囮になっている間に背後から頭頂を斬りつける。

 普通にやったら力が入らない高さなので、肩に飛び乗って全力でな。

 まあ当然というか何というか、これでも刃が通らない。さすがにここは守るか。

 ――が、さすがにこれは無視できまい。


 虫を払うようなフック。当然避ける。ジャンプしてね。

 向こうはこちらに夢中だ。他の事など頭に――いやまあ、そもそも何も考えていないよ、うん。

 想定通り、届かない高さまで跳躍した俺に、アッパーカットを放ってくる。

 直接当たりはしなくても、衝撃波だけで俺の体はバラバラになる。しかも空中、逃げ場はない。

 けど今更だな、俺には危機回避のユニークスキルがある。

 避けられなくても勝手に避ける。まあ、この間に攻撃されたらおしまいだが、親方はワンパン主義だったからな。

 もっとも魔法まで使って来るんだ。何処まで本人のままかは分からんがね。


 しかしそんな事よりも、衝撃波が天井に直撃する。

 今までは巻き込まれた程度の損傷だが今回は違う。全力の直撃だ。

 一瞬にして天井は円形にはじけ飛び、そこから全体にヒビが入る。

 穴から鎖の巻き上げ機が落ち始めたのだ。


 連鎖的に、穴を中心に天井が崩れ落ちる。

 その空いたスペースを埋めるように新しい機械が滑り落ちていく。あとはもう、中央に集まるに従い円錐形に歪みならが破壊されていくのを見るだけだ。

 重量のバランスが崩れ、中央めがけて全ての巻き上げ機が落下する。

 1つ2800キログラムを超える機械、その全てが親方とその周囲めがけて崩れ落ちていくわけだ。たまらないね。

 この部屋の天井全てを均等に落下させ、また同様に引き上げる、鎖まで含めてみっちり詰まった鉄の塊。

 かなり切れているが、結構残っているしな。

 隙間なく埋め込まれた機械の総重量は64トンほどだ。瓦礫も含めればもっとだな。

 さすがに人間なら原形すらとどめないだろうが……普通の人間ならの話だがね。


 鼓膜が破れるのではないかという轟音。

 潰れた機械から石弓よりも激しく飛び散る破片。

 完全に視界を遮る土埃。

 俺に飛んできたのは、全て自力で避けるか短剣で受ける。万が一を考えたら、ここで危機回避は使えない。


 一応は望んではいたのだが、やはりだめだな。

 薄くなってきた土煙の中、巨大な鉄くずの山が見える。

 しかし、それは凄まじい勢いで四方に弾かれ、崩れ、その向こうに立っているのは確かに人影だ。

 シルエットを考えると――いや、アホらしい。考えるまでもないな。206レベルに特殊能力付き。もう人間が相手をするようなものじゃないぞ、アレは。

 せめて軍隊が欲しいね。


 それで“歪みの繭”はというと……吹き飛んだ機械の一部に足を潰され、腹と肩にも破片が刺さっていた。

 ありゃもう長くはないな。使えねえ。


 煙が晴れるごとに、親方の姿が見えてくる。

 流石にミノムシのように体を覆っていた銅板のような鎧は全て剥がれ落ち、肉体もかなりズタズタだ。

 それでも一滴の血も出ていない。露になった体の中は、やはりスポンジ構造に枝のような骨。

 回復が無いから本当に他の魔物は入っていないようだが、あの魔法はどこで覚えたのかね。

 レベルを考えるとまだ安心はできないが、あの鎧も無いし何とかなるだろう。

 ただそれより気になったのは、親方の顔だ。


 鼻から下は、まあ似ている。

 歯はボロボロだが、これは元からなのかさっきのが理由かは知らん。

 ただそんな事よりも、鼻から上にあるのは無数の目。

 周囲をぎょろぎょろと見回すと、俺を見つけてゆっくりと振り向いた。


「随分と様変わりしましたねえ」


 実際、それしか言いようがなかったよ。




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