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人間捨てすぎだろ

 そんな半信半疑の中、巨体が子供のように身をよじる。


「知らねえ! 知らねえ! 知らねえ! だが、誰かがあの忌々しい木に来いと命令していやがる。人間は始末しろと誰かが言っている。しかし、お前は何だ? 人間とは違う匂いがするが、確かに人間の気配も感じる」


「そりゃどうも」


 微妙に心の奥底にあった不安が、意外な形で晴れた気がする。

 そうか、俺はまだ人間の中に含まれるのか。

 まあ魔物が言うのだから実際どうかは分からないが、少なくとも連中から見て人間であるというだけで十分だ。


「それじゃあ――」


 決着を付けなきゃな――そう思った時、こちらに向かっている気配を察知した。

 正しく言うのなら、向かっているではないな。すぐそこにいる。


「やはりここに居たか。それに、かなりの化け物だな、それは。王室特務隊でも倒せる人間は限られているだろう。まさか戦うつもりなのか?」


 反対側の出口。

 高台になっている所に、それは立っていた。

 目の前の気配が強すぎて気が付かなかったな。ちょいと失態だ。


「これも仕事なんでね。それより、あんたは何しに来たんだ?」


 それは以前も会った事のある男。

 前とは違う紺色のコート。その下は鎖帷子か。

 手に持っているのは長柄に小型の両刃斧が付いた少し変わった武器だ。

 コートのあるフードのせいで顔はハッキリしないが、ここまで印象的な気配を忘れるわけがない。


「わざわざ見物に来たわけじゃないんだろう? “歪みの繭”さんよ」


「聞いたか調べたか、まあそんな事はどうでも良い。今はそれの始末が先だな」


 敵ではない……か。

 まあ俺たちは”誰かの武器”だからな。


 想定外の乱入者に親方……らしい魔物は“歪みの繭”の方に対峙すると――、


「お前は……完全に人間では……ない」


「へえ、そうなのか。まあ死なない人間がいるとは聞いた事が無いですけどねえ」


「どうでも良い事だ。さっさとすませるぞ」


「もしかして、アンタが人型の魔物ってやつですかい?」


「貴様からぶっ殺してやろうか?」


 その言葉を発した時には、既に“歪みの繭”は親方の目の前まで跳躍していた。

 そして目にも止まらぬ速さで襲い掛かる長柄の両手斧。

 だが――キシッという、まるで“割れないガラス”を切りつけたような音と共に斧が止まる。

 おそらく魔法の防壁か。何が起こるか分からないという点でも、詠唱がいらないのはずりいな。

 しかし切り替えが早い。

 予想していたのか、それとも習慣か、素早く後ろに下がると――、


「我が眼前にあるは空虚なる平穏――」


 あれは魔法消去(ディスペル)の系列だな。

 ならするべきは決まっている。

 丁度挟む体制だしな、それは生かさないと。

 素早く親方の後ろに跳躍すると、そのまま心臓を一突きする。


 ――硬てえ!


 鋼より硬いぞ、この背中。何枚もの金属板を貫いた感触だ。その点は見た目通りか。

 ただまあ、一応刃は通った。

 つっても、血も出なければ動きも変わらない。

 分かってはいたけど、心臓も弱点ではないな。

 ただ俺が仕留められるとは思っていない。

 視覚では何も判らないが、何かが割れるような音がした。詠唱は間に合ったか。

 おそらく魔力に敏感なら、もっと詳しい事も分かったろうが、まあどうでも良い。どうせこちらにあの見えない壁はなかったし。


「周囲の魔法を封じた。暫くは安心して戦え。どうせお前は魔法を感知できないのだろう」


「しっかり調べてあるところはさすがですわ。だけど助かるねえ」


「精々30秒だがな」


 無茶苦茶言いやがる。そんな時間で倒せるものか!

 さっきから首、肩関節、更には膝関節と短剣を刺し込んでいるが、有効打になったとは思えない。

 だが手ごたえはある。今までの奴と同様だな。

 外側はともかく、中身はヘチマみたいな肉と枝のような骨か。

 修復していく様子も無いし、あの魔物は入っていない。

 なのにまだどこか人間である頃の記憶を持っている。

 レベルと執念だけで抵抗しているのだろうが、本当に人間を捨てているな。


「もう保たんぞ」


「連続してどうぞ」


「そんな余裕などあるものか」


 まあね。何というか、暴力というものが形を成して動いているといった方が良いか。

 スキルは大したことが無いのだけど、いかんせんレベルがどうしようもない。

 暴れまわるだけで、その衝撃は壁や床どころか天井にまで届く。

 2人がかりでなんとか倒さなきゃならんが、当たったら最後、その部分ははじけ飛んでなくなっているだろう。


「これ以上は建設的ではないな。俺なら一度撤退するぞ」


「そうしたいのは山々なんだがねえ。そう簡単にさせてはもらえなさそうですよ」


「確かにあの暴れっぷりは面倒だが、間隔は俺たちから見れば遅い。さほど難しいとは思わないがな。それとも、あれから腕が鈍ったか? その程度の傷が負担になっているとも思わないがな」


 簡単に言いやがる。


「逃げたとしても、他の魔物をけしかけられると厄介でしてねえ。その辺りは知っていると思いましたが」


「なら、それがあり得ない事も、もう理解しているだろう」


 痛いところを突きやがる。

 ああ、もう分かっているさ。

 魔国のスケルトンが他のスケルトンを操れないように、親方も……な。


 既に部屋中が亀裂やへこみだらけで、天井からはパラパラと石粒が落ちて来る。

 この上は超重量の石天井を巻き上げる装置がある。当然ながら、クソみたいに頑丈でクソみたいに重い。しかも4隅だけで持ち上げようとすれば天井が壊れちまうから、巻き上げ機は天井にぎっしりと取り付けられている。

 天井は落ちているし鎖はもう全部切れているが、それ自体は健在だ。

 あんなものが落ちて来たら、俺にはどうにもならないぞ。




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