ではここからは一人で行動だ
そんな訳で、姫様の案内でゲートに到着。
王権が無ければ辿り着けないし、特に魔物もいない。案内さえいれば楽なものだ。
それにもう覚えた。使えはしないが、戻って来る事はできるだろう。
ここは少し薄明りのあるひんやりとした石室で、入り口も一見したら石壁にしか見えなかった。
まあ不自然さは感じたので、見る人間が見たら一発で分かるだろう。
目の前にある石柱は破壊されていないし、ここに気配はない。
ただ連中だってゲートは使えただろう。ここから離脱する事も、援軍を招き入れる事だってできたはずだ。
「なあ姫様、ここのゲートには何か仕掛けがあるのか?」
「いえ、普通のゲートです」
なるほど……つまりここから導き出される結論は――俺が無知だという事だ。
別に恥じる事はない。知らなければ使える人間に聞けばいい。
俺が知っている知識は、万が一ゲートで逃げようとしたら破壊しろと言われた程度。
しかもそのゲートの形も千差万別。根本的に魔法が分からない俺には、知ったこっちゃないって程度だったしな。
「実はゲートってものをよく知らなくてな。なぜ連中はゲートを利用して脱出や増援を呼ばなかったと思う?」
「一番の原因は、場所を知らなかったのだと思います。ここに来る事自体が難しいですし、似たもので用途違いの物は沢山ありますから」
やはりそんな感じか。
俺たちが入って来たゲートは、場所が場所だけに知られていない可能性があった。
だが知られた以上は退路を断つために壊されているだろうと思ったが、案外残っているかもな。連中の脱出用に。
実際に、確実に他にゲートがあるのなら俺が自分で壊していただろうし。
もっとも、そんな事は実際に分かりなどしないがね。
「それで、もう1つのゲートは?」
「ここからだと少し距離があるのと、場所さえ知っていればだれでもいける場所ですので」
……俺たちが入って来たゲートと同じ様なものか。
安全を考えれば、わざわざそちらに行く必要は無いな。
なら、もうここから先は考えるまでもなかろうよ。
「2人はここで、変な仕掛けが施されていないかを出来る限り確認していてくれ。それと、24時間経つか魔物がやって来たら、すぐにゲートで帰還するように」
「クラム様は?」
「俺にはプリズムポイズンワームを回収する仕事があるだろう?」
「それは分かっていますが」
「当然、3人で行くべきです!」
ああそう言うだろう。
俺だって2人を残すのには不安はある。
しかしね――、
「時間は有限だ。俺にゲートの事は分からん。だから、俺がここに居ても護衛くらいしかする事がない。しかし、もう姫様のユニークスキルと戦闘力は分かっただろう。それにこの環境だ。不安は少ないだろう。なら、俺は俺の仕事をする。こちらも、俺1人なら隠密のスキルを最大限に生かせる。だが3人では無理だ。外に出た瞬間に見つかって、魔物の群れに追われる羽目になる。王室特務隊でも軍隊でも対処できない場所だ。結果は分かるよな?」
「お話は納得いたしました。ですが、クラム様一人でどうやってゲートを起動させるのです?」
当然聞かれるよなあ。
俺が起動できないのは当然知っているわけだし、当たり前の疑問だ。
姫様ならすぐに思いつくとは思っていた。
ただそんな事は考えずに、ここは素直に見逃して欲しかったんだがね。
「無理だな。だが元々、俺はお尋ね者になってからここを脱出しているんだ。出口は幾らでもある」
「ですがその場合、もう一つの目的は……」
普通なら無理だ。
この作戦は、そもそもゲートが使えなければ成立しないんだからな。
けれど、再度の挑戦は一見すれば可能だ。
確かに別のゲートはある。
もう最重要の目的も果たした。
なら次は俺と、ゲートを起動させるだけのスキルを持った最低レベルの魔法使いだけで来れば、バレない限り何度でも挑戦可能……と、そう思うよな。
けれど、これはこの1回だけしか使えない。
というか、姫様という超レベルがここに来た時点で、もうタイムリミットはどんどん減っているんだよね。
今の時点で王都が連中にとってどれだけの価値があるかは知らないが、理由を持って襲った事自体は間違い無い。
第2王子の身柄は人間の都合だろうが、レベル屋による人類の急激な強化は魔物にとっての脅威だ。
正直、プリズムポイズンワームも皆殺しになっている可能性だってある。
ただそれを気にしていたら、何も出来ないからやるってだけだ。その点は生存に期待しよう。
けれど、1度失敗したらもうダメだろうね。人間の目的が明確になれば、魔物であろうが同胞殺しをする。
ましてや人型ってのが残っているのだからな。
ただ――、
「おそらく問題は無いな。あのババアが無策とは思えない。特にプリズムポイズンワームは、これからの国の未来を左右しかねないものだしな。だからさっき言ったように、魔物が来たら迷わずゲートを起動して逃げろ。それがどれほど弱い相手だろうが、ここに来たという事実を何よりも重視するんだ。それでもダメだったら――そうだな、その時は寂しくないように、俺も共に逝くとしよう。もちろん、仇は取ってからだがな」
「安心しました。でも共に逝く必要はありませんよ。万が一の時は、100歳になるまであたしの墓守をする事を命じます」
「これはキツイご命令だ。だが了解したよ。じゃあ、最悪の場合はルーベスノアで会おう」
「頑張ってくださいね」
「必ず戻って下さいよ! そろそろ結婚しないと、本当に実家がうるさいんです!」
背後でフェンケがパイルドライバーをされた音を聞きながら、俺は部屋の外へと出た。
案内は無いが、侵入自体は何度かしている。
何処か目的の場所へ行くとなれば厳しいが、出るだけならさほど難しくは無いだろう。
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