5、運命の分岐
20年前に起きた、裏野ドリームランドのジェットコースターで起きた不可解な事故では様々な憶測がなされた。
当時のほとぼりが冷めてから、再び夏の怪奇現象を扱ったテレビ番組で、その20年前の事故を、オカルトライター、心霊研究家、技術者、心理学者を呼んで水かけ論をさせようという企画である。
以下は、その収録の様子である。
最初に司会者が、20年前に事故を目撃した人間の証言を聞いて回る。
ある一人は、
「ジェットコースターがパンッ、という音とともにぺしゃんこになった。それで、乗っていた人とジェットコースターが一枚の紙みたいになってしまった。見えない壁にぶつかったみたいだった」
ある一人は、
「心臓の弱い人が何人かいて、その人たちが発作を起こした」
と、様々だった。
「いやいや、人が一人落ちただけで、他の人は無事でしたよ」
なんて言う人もいる。
これに対して、心理学者がこう説明した。
「衝撃的な事故を目の当たりにした方っていうのはね、ショックで記憶が曖昧になっているものなんですよ。虚偽記憶と言いまして、記憶っていうのは、脳がいくらでも改竄できるものなんです。ある女性の例なんですがね、その人は小さい頃から、自分には妹がいると思っていたそうですが、あとで調べたら、実は自分はひとりっ子だったのです。その女性は、妹と遊んだ記憶を持っていました。でも、その妹というのは、自分が勝手に作り出した記憶なんですね」
説得力のある物言いに、観客も納得する。
「だから、証言が食い違っていると?」
オカルトライターの一人が、それを真っ向否定した。
「そうやって言えばもっともらしく聞こえるが、今回はまるで証言に一貫性がない。私はね、未来人がタイムトラベルの際につくる、空間の歪み、ジェットコースターに乗っていた客は、これに吸い込まれてしまった。それで、未来人たちが目撃者の記憶を変化させたと思うのです」
「だったら、一人ひとり違う記憶にする必要がないじゃないか」
技術者の一人がそう言った。この技術者はオカルト否定派だった。
「目撃者と言ったって、たかが十数人だろう。ドリームランドの経営者たちが、事故を揉み消すために、目撃者に金を渡して、わざとデタラメな証言をさせているんじゃないのか。あれだけ死人が出たのに遺族が黙っているのはおかしいだろう」
議論は平行線を辿った。元から、事件の解決は目的ではないので、番組としては成立していた。
すると、今までずっと黙って話を聞いていた、山高帽を被った男が立ちあがった。
「証言が食い違っているのは当然なんですけどね」
表情は暗いが、口元が笑っている、不気味な男だった。
「事故を目撃した人間は多いが、同じ事故なのに、それぞれ目撃証言が違う。だが、たったひとつだけ共通していることがある。それは、事故が起きたレールの位置なんですよ」
男はそこまで言うと、急に黙った。
説明を促すために、司会者が、
「と、いいますと?」
「つまりね、」
男は再び口を開いた。
「あそこのジェットコースターはね、運命の分岐の上に、レールをつくってしまったんですよ」
「運命の、分岐……?」
また、おかしなことを言う人が出てきた。その場の雰囲気を代弁するかのごとく、司会者は、わざと不思議な顔をする。
山高帽の男は、奇妙なことを語りはじめた。
「人が十人いれば、十の運命があるでしょう。この世界には人や物の運命を分岐させる場所があるんです。あの事故ではジェットコースターに12人が乗っていた。運命の分岐の上に重なったとき、12人がそれぞれ違う運命を辿った、それだけです」
「では、同じジェットコースターの上で、それぞれが全く違う運命を辿った……だから事故を見た人間の証言も違う。そういうことですか?」
「そういうことです」
男はきっぱりと答えた。
「運命の分岐というのはね、突然現れることもあるし、ずっと同じ場所に留まっていることもある。実はね、私の計算では、このスタジオにも、運命の分岐が出現する予定なんです」
「え?」
とたんに、観客の悲鳴が起こった。
何が起こったのか。
それは人によって全く異なるので描写することはできない。
火事だ、地震だ、包丁を持った男が、俳優が発作で……、などとあらゆることが起こったそうである。
その様子を撮影したマスターテープは、いまも某テレビ局に保管されているそうだが、映像を見た人は謎の死を迎えるとか、迎えないとか。
この収録内容は、テレビで放送されることはなかった。




