出逢いはいつも唐突に
「はぁ...」
12月下旬の終業式の終わった放課後、安形 彰は通っている高校からすぐそこの本屋で、求人誌をパラパラと捲りながら大きく溜息をつく。
その日、彼女に何となく誕生日を聞いたところ10日後だと言われたのだが、タイミング悪く数日前にちょうど買いたかったゲームに大金を使ってしまっていた。
付き合い始めてからはや1ヶ月、お互いの気持ちが深まる折角のイベントなのに、そんな大事な日に「プレゼントはありません」なんて話にならない。
そもそも、彰は全くモテる訳ではない。
スポーツは多少できるとしても学力は平均より少し低く、イケメンだと言われるような容姿でもない、そんな彼だからこそ呼び出されて告白された時はすごく嬉しかったし、大切にしたいと思っていた。
「やっぱりちゃんと祝いたいよなぁ、でもどうするよ...」
そう言いながら見終わった求人誌を棚に戻していると。
「そこのキミ、ちょっといいかい?」
スーツを着た背の高い若そうな男性が声をかけてきた。
「さっきからそれをずっと見てるけどバイトを探しているのかい?」
「え?ま、まぁはいそうですね。」
困惑する彰に気づかないかのようにスーツの男性は話を続ける。
勿論どうやら短期のバイトを探しているようだったけどそんなに早く金を稼ぎたいの?」
「は、はい。ちょっと急な用があってすぐにお金が必要なんですよ...」
そう言いながら男性に事情を説明する。
正直、説明するほど仲が良くなったわけではないが折角話しかけてくれたのだから話題のタネとして使ってやろうと開き直っていた。
「_というわけなんですよ。嫌な彼氏もいたもんですよね、彼女の誕生日を聞いて急いでバイトを始めようとしてるんですから。」
そんなふうに、少し自虐気味に話していると。
「ふむ...」
...なぜか真面目に考えていた。
「いやいやいや!?そんな考えてくださらなくていいですよ!全て俺が_ 」
「...キミを雇いたいんだが」
「悪いんで...すか、ら? えっと、今なんと?」
「キミを私個人で雇いたいのだが、ダメかな?」
「はい?」
意味が全くわからなかった。 とりあえずことわった!
「すみませんが知らない人に個人的に雇われるのはちょっと…」
「それは私にもわかっているんだが頼む、キミの力が必要なんだ」
なんとあたまをさげてきた!
「えぇ!? いやちょっとやめてください! と、とりあえず場所を変えましょう!」
最初に言ったがここは学校からすぐ近くの本屋だ、もちろん彰以外の生徒もそれなりにいるわけで。
彰はそっと周りを見てみると…
その生徒達も含めた彰と男性の周りの人たちはそれぞれの手を止めて「なにごと!?」というような目でこちらを見ていた
そんな様子も男性は気づかずに顔を上げてこちらに詰め寄ってくる。
「本当かい!受けてくれるのかい!」
「いやいやそんなこと言ってないですから!いいから早くここから出ましょう!」
様々な人に見られながら、2人は本屋を後にした。
「__あの和樹さん?」
「うん?」
若干イライラしながら彰は話しかける。(ここまでの道中で一応名前を聞いたが神崎 和樹と言うらしい。)
あの後、和樹についてきて欲しいと言われ仕方なくついて行っていた、いたのだが…
「いや、うん?じゃないんですが。あきらかに住宅街ですよねココ」
そう、一緒についていくと段々と店が減っていき、気づいたら民家しかなかった。
もうイライラを隠すこともなく男性に話しかける。
「いったいどこに行くんですか、まさか俺の家とか言い出すわけじゃないですよね?」
「いや?おれんちだけど?」
「ふぅ…そりゃそうですよね、出会っていきなり自分の家に連れこむなんて、…ってバッチリ当たってるじゃないですか!?なにサラッといや行き先違いますよ?感を出して言ってきてるんですか!」
「だってほら、俺の家なんて言ってないし」
「そんな問題!?そんな小学生みたいな理由なんですか!?」
「キミ、ツッコミ上手いんだね」
「誰のせいでツッコむことになってるんですかねぇ!」
「あ、でもちょっとくどいかな」
「あなたはちょっとボケが多くないですかねぇ!」
ぜえぜえと彰が深呼吸していると和樹は「う~ん」と言いながらようやく本題を切り出してくれた。
「まぁぶっちゃけた話をするなら変に喫茶店とかで話すよりも実際に見てもらったほうが早いんだよね。」
「?、どういうことです?」
「う~ん…なんて言えばいいんだろ」
「そんなに難しい話なんですか?」
「いや、そういうわけではないんだけどね?じゃあ聞くけど、喫茶店で"俺の家に飛び込んできた身に覚えのないキミと同い年ほどの女子にこの世界のことを教えてくれ”って言われたらキミは受けてくれたのかい?」
「めちゃくちゃ難しい話じゃないですかね!?そんな話店でされても困りますよ!それに家に身に覚えのない女子高生が飛び込んでくるってどんな状況なんですか!ていうかこの世界のことってなんなんですか!?」
「ツッコミくどいよ?」
「あなたのセリフにツッコむ要素が多すぎるんですよ!」
一通りツッコミ終えるとまたぜえぜえと息を吐く。
そんな様子を見た和樹は今度は大笑いしていた。
「ふふ…キミはおもしろいね、キミを見つけてよかったよ」
「…もう俺は帰りたいんですが」
「え?もう着いたのに?」
言いながら和樹は指をさす。
「はぁ…ここなんですか、って、…え?」
指をさしていたところは、彰の家のすぐ隣だった。
「えぇ!?ここ!?」
「うん?どうかしたのかい?」
彰が全力で驚いていると和樹は不思議そうに聞いてくる。
「いや…このすぐ隣が俺の家なんですよ」
「…実は金持ち?」
「なにをどう聞いたら高校生が一軒家を買ったと思えるのか俺にはさっぱりなんですが」
「それは冗談として、へぇ…すぐ隣ねえ、それは好都合かもしれないな」
色々ぶつぶつ言いながら玄関を開ける和樹に横やりを入れる。
「いやだから俺はやるなんて言ってないですけど」
「でもさ、実はすこし女の子が気になったりしない?」
彰が否定すると和樹は嫌な笑みを浮かべながら聞いてきた。
正直な話、ちょっと、ほんのわずかだが気になっていた。
「うん、まぁ少しくらいは」
それを聞くと和樹は畳みかける。
「だろう!ほら一目見るだけでもいいから!嫌なら帰ってもいいわけだし!」
「…そんなこと言いながら逃げられないように仕向けてません?」
ちょっとつつきながら言ってみると和樹は苦虫を噛んだような顔になった。
まぁなんとなくわかってはいたのだ、好都合とか言われるし。
どんな事情なのかはわからないがカズキの見た目の若さからして社会人2年目かそこらなのだろう、そんな社会人になったばかりのような人の家に女子高生が転がり込んで来たらさぞ迷惑だろう。
彰ははぁっと溜息をつきながらいいですよと言うと和樹は満面の笑みになった。
「本当かい!じゃあ早速入ってくれ!」
「いやあのまだ引き受けるわけじゃないですからね?ちょっと覗くだけさせてもらって…」
和樹にグイグイと押されてリビングに入ると、
「あ、」「え?」
全裸の美女がそこにいた。
「な、なななななな!?」
女性は声にならない声を出しながらみるみるうちに赤くなっていく。
「ご、ごめん!まさかこんなことになるとは思っていなかったんだ!ていうか神崎さん!?あなた絶対こうなることわかってましたよね!?」
急いで後ろを振り返ってみるとそこに人影はなく、代わりにタッタッタッタッという階段を上がる音が響いていた。
「ちょっと!?なに逃げてるんですか!この状況をちゃんと説明してくだ_」
「おいおぬし」
(え?おぬし?)
おそらく自分に話しかけられているのであろうこと、それが声色からさっきの少女であろうこと、更に声のトーンから怒っているのだろうなということに思った辺りでハッ!?っとなり少しづつ後ろを振り返ってみると。
「乙女の裸が目の前にあるというのによくそこで突っ立っておれるのうおぬし、一度吹っ飛んでみるか?」
女性はニコニコ笑顔で、後ろからドス黒いオーラを放ちながら立っていた。
「…いやあのですね?これはある男性が私を押し込んでこうなってしまったというか」
「それはもうわかっておる、しかしその後の対応が全くなっておらんじゃろう。そもそもじゃな、あんな一人芝居をする前にここから出るなり他にやるべきことがあったはずであろう。」
「た、たしかに…」
つい先ほどまで神崎さんと漫才をしていたせいで女性に対する気遣いというものが完全に欠如していた。
(これは完全にこっちが悪いよな…もう今からでもここから離れてしま…)
「まぁ今更出ていこうとするのなら変態という称号を渡していっしょに冥途に送ってやるのじゃがな」
「……。」
完全に八方ふさがりだった、しかもちょうど言われたタイミングで考えていたものだからタチが悪い。
言葉を詰まらせたことに気づいたのか目を細めながらにらみつけてくる。
「…まさかお主」
「いや違うよ!?決して逃げようとか考えていたわけじゃないからね!?」
「本当に…?」
「ほ、ホントウニキマッテルジャナイデスカーアハハ…」
尚更じぃ~っと目を細くしてにらみつけてくるのでそれ以上なにも言えなくなり立ち尽くしてしまう。
しかし、こうして改めて見てもやはり”美しい”という表現がよくにあっていると感じる。
立っていても床にまで届く真っ直ぐな黒髪、その髪は一本一本にツヤがあり枝毛なんてなさそうだ。
とても整った顔立ちと体形、その顔は”かわいい”というより”美しい”という表現がとてもふさわしく、おそらく同い年なのだろうがとてもそんな風には思えない。
さらに、それに合わせたかのような体形もとても素晴らしく、膨らみかけの胸が実に艶めかし_
「いい加減にしないと本当に吹っ飛ばすぞ?」
「あ、あ~…」
突然の吹っ飛ばす宣言によりやっと我に返る、すると今度はついさっき自分がなにをしていたのかに気づきみるみるうちに顔を赤くさせていく。
「あ、あの、その、別に貴女の身体をジロジロみたかったわけではないというか、だから、その…」
「もうよい、ワシだってよく考えたらこんな格好でいたのが悪いんじゃしな」
アワアワと慌てる彰に魔が差したかのようにハァっと溜息をつくとキョロキョロと辺りを見だし、ちょうど後ろの方にあったカーテンに気づくとそちらに向かいグイグイと…。
「いやいやストップ!」
「?どうしたんじゃそんなに慌てて」
「”どうしたんじゃ”じゃないでしょ!?いくら周りに長い布がないからってカーテンを破いて羽織るのはマズいって!」
カーテンがあるということはその先には間違いなく外がある、なのにここで破いてしまったら外から中の状況が見れるようになりこんな『カーテンを羽織った女とそれを見守る一人の制服をきた男』というなんともアレな状況を晒してしまう。そうなるのはマズいと思っての行動だったのだがどうやら女性には理解できなかったらしくさっきまでの無礼も合わせてとうとう堪忍袋の緒が切れてしまい、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「じゃあワシに一糸纏わぬ姿でいろと!?やはりおぬしワシを邪な目で…」
「違う!そんなつもりじゃなくて!とりあえずカーテンを引っ張るのはやめろって!」
このままでは本当にヤバいと感じ、声を荒げながら女性の腕をつかみにかかる。
すると流石にすぐ近くまで寄られるのは恥ずかしかったらしくさっきとは違う意味で顔を赤くする。
「わ、わかった!もうこの布を引っ張るのはやめるからこれ以上近づくんでない!さすがに素っ裸で男に近づかれるのは恥ずかし_キャッ!」
彰が腕をつかむのと同時に女性の足がもつれ、つかんでいたカーテンを引っ張りながら倒れそうになる。
「っ!あぶねえ!」
とっさに反対の腕を背中に回し、支えることができた、できたのだが…。
「お、お、おぬし!なにワシの身体に触れておるか!」
「うおっ!?」
よっぽどさわられたくなかったらしく、カーテンを片方の手で握ったままもう片方の手でこれでもかというほど全力で押してくる。
「ちょっ、この体勢で押されたらやばいって!」
「なにを言うとるかっ!どう考えても乙女の身体をいやらしく触ってるおぬしが悪いんじゃろっ!」
「いやらしくなんて触ってねぇよ!」
「じゃあその手をはやくどかさぬか!」
「そ、そんなこと言われてもだなぁ!」
女性の手の中にはしっかりとカーテンが握られており、しかも彰を押し込んでしまってるせいで完全にカーテンに体重を預けてしまっている。
(このままじゃ破れるぞ!?はやくなんとかしないと_)
そう思った時だった。
ビリッ!!「「えっ?」」
ついにカーテンが大きな音をたてて破れていく。
女性は体重をカーテンに預けていたため支えがなくなり倒れるのは勿論、彰も一気に女性の体重が片腕にきて支えられなくなり一緒に倒れてしまう。
「だ、だいじょうぶかお前…」
「いてて…。おぬし、もっとしっかりと支えることはできんかったの…か…」
そして2人が気づいた時には。
全裸の女の上に四つん這いで覆いかぶさり、上からカーテンがかぶさることで簡易的に2人の空間ができあがるというなんともアレな光景ができあがってしまった。
(あ、やべ_)
気づいた時には遅かった。
女性の「イヤー!!」という大きな悲鳴とともに、
「はぁ!?」
さっき押された時とはケタ違いの勢いで”触れずに”文字通り吹き飛ばされた。
「ゴフッ!?」
突然のナゾの力により全く勢いを殺せないまま思いっきり背中から壁に叩き付けられ肺の中の空気が外に押し出されていく。
彰が床に仰向けで崩れるのを見て満足したのか女性はしたり顔でこちらを見てくる。
「ふ、ふん!急に押し倒してきたおぬしが悪いんじゃこのたわけ」
「…。」
「っ?おいおぬし?」
「おいおぬし!返事をせんか!」
(こんな状況で返事なんてできねぇよ…)
壁にぶつかった時に頭を強打したらしく、身体に力が入らず、意識が朦朧としていく。
やばいと思ったのか女性は彰に近づき身体をゆすって声をかけてくるがもう彰の耳には届かない。
彰は、少しだけ眠ることにした。
話を書くって大変ですね。
完結出来るように頑張ります




